株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

「これ本質的じゃなくね?」~社長と現場が噛み合わない理由とその対処法~

「社長の言ってることがわかりません」

スタートアップに限らないと思いますが、この言葉よく聞きますよね。COOとしてよく言われるセリフTO3に入るのではないでしょうか。これ放置してるとお互いにストレスが溜まって非常によくない状況になります。経営側は俺らの言ってることを理解できてない能力低いメンバー。現場側からすると無理難題を言ってくる人、現場のことを知らない社長みたいな認知になって、お互いが理解できなくなっていくんですよね。だいたい社員数10名くらい超えてくるとこの問題が出てきます。要員としては以下あたりでしょう。

  • 社長が現場から離れつつある
  • 経営から遠いメンバーが増えている
  • 会社のステージが上がって、より大きな枠で戦略を考える必要が出てくる
  • 事業の成長に組織の成長が追いつかず現場のオペレーションが大変なことになっている

上記のような状態になってくると、社長と現場はまず噛み合わなくなります。僕から言わせれば噛み合わないことは適切な成長だと思えるので、逆にずっと噛み合っていますよって状況の方が怖いなと思いますが。それで、まぁこの状況になったということ自体は成長の表れで良いのですが、この状況がずっと続く、解消される気がしない、社長がマジでキレ出す。みたいなことが継続するとそれは組織しては良くない傾向です。その場合、早めに対処した方が良いでしょう。今回は、SCOUTER社の実例をもとに対処法を考えたいと思います(SCOUTER社は現在進行形でこの問題に取り組んでいる最中でございます。そのため日々成長を実感している最中でございます)

原因は本質到達までのスピード

まず考えたいのはなぜ、社長と現場は常にズレるのか。もちろん社長が現場を知らないからということは一つの答えだとは思うのですが、それって規模が大きくなるとどうやったって解消できないじゃないですか。僕としては別の原因があると考えたい。そこで、一週間社内の社長とメンバーのコミュニケーションに耳を傾けていたところ、気づいたことがありました。社長はずっと「本質」みたいな言葉を使って投げかけているんです。「それって本質的?」「それって本当に必要?」「なんでそれやるの?」みたいな。そして、その問いかけに対して頑張って回答しても滅多打ちにされてつけ返されしょげるメンバー。みたいな構図が頻繁に起きており、なぜこうなるのかを考えてみました。

そもそも「本質」って何?

まずこれですね。本質ってなんでしょう。これ思うんですが、言われた側はポカーンってなりません?「本質って何??」って。まぁ、本質って言葉自体はとても使いやすいから使うんでしょうが、具体的な言葉にするのが難しいからこの言葉を人は使ってしまうんだと思います。で、「本質」って何だろうと考えたのですが、どう考えてもこれ以外の答えは思い浮かびませんでした。

「本質」=「最も大切なこと」

社長の言いたいことってそれだけな気がします。最も大切なことにお前らはリソースを割いているのかと。その気持ちの表れが「これ本質的じゃなくね?」という言葉に繋がるんだと思います。

「最も大切なこと」だけに集中しないとスタートアップは死ぬ

スタートアップってめちゃめちゃリソース少ないので、リソースを集中させてないと戦えないわけです。だから社長はそのことばかり考えてる。自分の事業において最も大切なことは何だろうと。それ以外のことはやりたくないし、メンバーにやらせたくないんですよね。だから、何回も問いかけます。「それって最も大切なことですか?」って。でも、現場のメンバーは目の前の問題に対処するのに精一杯です。リソースないから、やることいっぱいで、目の前の数字も上げなければいけない。とにかく、目の前に対処するために考え、動いている。するとどうしても、「最も大切なことに」に行き着くまでに時間がかかってしまう。そりゃ、最も大切なことは何かを一日中考えてる社長と、目の前の問題を処理して残った少しの時間だけで考えてるメンバーと。本質到達までのスピードには差がどうしても出てしまう。この差が出てしまっている時が、社長とメンバーのズレが生まれる瞬間だと思うのです。

SCOUTER社で起きたズレその1

ついこの間、PMメンバーと社長でズレが起きてました。プロダクトの1機能の仕様を決めたくPMメンバーが社長に壁打ちをしていたのですが、一向に話が進まない。そのコミュニケーション内容を聞いていると原因がよくわかりました。社長はどんなものを作るのかのアウトプットを前提に議論をしたかった(そのディスカッションが本質であり、それ以外は不要なディスカッションだから)。しかしPMメンバーは段階的に議論を進めたかった。どういう方向性で作っていくか、機能の重要なポイントはどこか、どういう文言を載せていくか。それを一つずつ確認を取ることがPMメンバーにとっての壁打ちだったのです。なので、結局何作るの?ワイヤーフレームは?全然イメージわかない。やり直しということで、何も前に進まずに終わったと。そしてその事態にPMメンバーは戸惑い、どうしていいかわからない状態に。

SCOUTER社で起きたズレその2

事業責任者と社長の間でズレが起きてました。目標設定において、KGIを達成させるために複数のKPIの積み重ねで達成しようと設定したところ、何で複数個設定するの?どれが一番大事なの?何で一個じゃないの?全部達成できるの?というコミュニケーション。ここでも何が最も大切かという問いを社長はしていました。そしてそれに集中しろと。現場メンバーはどうしても様々なことが現場で起きているため、あれもこれもと全てに対処しなければと思いがち。それに対して一つに絞れと言われ、現場で起きてることと乖離してる、一つに絞っていいのかと疑問を抱くように。

どちらもただのズレであり、すぐに解消できる問題

どちらの事例も僕から見れば、両者の言い分はわかります。現場から見れば、経営から見れば。どちらもそうであり、ただ最終的には経営的な視点が重要になるため、社長の言ってることが正しいということになる。これは別に能力とかそういう問題ではなく、ただのコミュニケーションのズレでしかない。ただ、こういうコミュニケーションのズレがずっと解決されないと根本的な問題のように感じてしまうことがあり、そこに陥るのは最悪です。社長の人間性がとかメンバーの能力がとかそういう問題ではなく、単純にコミュニケーションと考え方のズレであり、そこを正してあげることが重要になります(それが以外に難しかったりする時もあるのですが)。以下、三つの対処法がありますので、少しずつでも実践すればこの問題は解消に向かうかと思います。

社長と現場のズレを解消する三つの方法

その1:本質の基準・視点を設定する

「本質」=「最も大切なこと」と言われて、すぐにメンバー全員が考えられるかと問われればすごい難しいです。何故ならばそこに基準・視点がないから。"何において"最も大切なこと?ということですね。これは組織に多様性が出てくればくるほど、いろんな回答が出てきます。故にどんどん本質が見えづらくなっていきます。そのため組織内での共通認識・前提が必要になってきます。個人的にはスタートアップは以下の三つの基準を本質とセットで考えることが良いのでと思っております。

  1. サービス価値における本質=戦略

    • 我々が提供するサービスはお客様の何を解決するサービスなのか。今、その解決プロセスにおいて、何が一番の問題になっているのか。何が一番理想からかけ離れているのか。今、最も我々が解決すべきお客様の問題とは何なのか。
  2. 数値的事実における本質=データ

    • 数値的に見てどこが一番のボトルネックになっているのか。サービス価値を落としている部分は何なのか。数値上最も解決しなければいけないプロセスは何なのか。
  3. 顧客の声における本質=現場

    • 今、お客様が最も困っていると伝えてきてるものは何なのか。何故その部分をお客様は困ると伝えてきたのか。その困っていることはサービス価値に関連することなのか、しないことなのか。

この三つの視点から「最も大切なこと」とは何かを考えていき、重なっていく答えが事業における本質だと思いますし、社長もこの三つの視点のうち今この視点からフィードバックしてるよとメンバーに伝えると理解されやすいと思います。

その2:第三者が具体的な言葉でメンバーにフィードバックする

これ当事者だとズレにすごく気付きにくいんですが、端から見るとすごいわかるわけです。あっ、今すごいズレてたよって。そして何がどうズレていたのかを第三者が現場メンバーに対して具体的な言葉で説明してあげると、メンバーの納得度も高まるかと思います。これなしで進むと、社長が自分の話を聞いてくれなかった、社長は何を言っても理解してくれないという感情的な社長陰謀論になってしまうため、これは絶対に避けなければいけないことです。

その3:No2が本質を考えることを論理で説明する

基本的な考え方として起業するような人って本質をすごく理解してる人です。というか本質だけを考えることができちゃう理想主義者みたいなところがあります。本質のことばっか考えてるから、どんな問題に対しても本質を見抜くのは早いし、だからこそ社内で最も重要な意思決定ができる存在です。これは一生変わらない前提だと考えたほうがいいですし、社長が本質を考えるのをやめたらそれこそ会社は死んでいきます。そしてそれと同時に起業家って自分自身を論理で使って説明すること自体は苦手な傾向にあります。感覚的に本質を感じ取っているので、それを他者に伝えるのっておそらくすごい難しい作業だと思うんです。だからこそNo2が必要というのが僕の理解です。No2がそれを論理で汲み取り、論理でメンバーに伝えていく。本質とは何か、社長がどの視点で物事を考えているのか、何を重要視しているのか、なぜここまで物事にこだわるのか。それを論理で全員にわかるように伝えていくことこそ、No2の役割であり、理解されにくい社長という存在の実態を理解してもらえるように伝えていくのが仕事だと思います。なので、No2の方々は社長に変わることを期待するのではなく、社長の正しい感覚をメンバーに伝えていくことに労力を使うべきです。

スタートアップは最も大切なことから考えよう

社長は最も大切なことは何かだけを考えてます。そうじゃないと会社は成長しないし、生き残れません。そして、全員が自分の与えられた範囲の中で最も大切なことから考え、取り組むことができたら、それが強い組織に繋がります。スタートアップは社長の本質的な思考と直に触れ合える貴重な空間です。スタートアップで働いている人は、その貴重な空間を噛み締めながら社長と真っ向からぶつかってもらえればと思います。社長と向き合った人ほど大きな成長を遂げるので。