株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

【スタートアップ原則シリーズ】2.「採用は幻想である」

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スタートアップにおいて「採用」というテーマは欠かせないテーマである。どれだけ良い採用ができるかがスタートアップの成功確率に大きな影響を及ぼすからだ。これは間違いのない事実である。同じ事業を始めたとしても、良いチームを集めた方が勝つ。それがスタートアップだ。

しかし、採用が注目されればされるほど、採用すること自体が神聖化され、常に正しい活動であると認識されがちである。果たして、どんな時にも採用は正しい活動となりうるのか。SCOUTER社の数々の失敗を通して学んだこと、人材業界に身を置くCOOとして感じていることをまとめました。

採用という幻想

スタートアップにとって採用が重要であるという情報はどんどん増えている。このような記事が参考になるだろう。

「たった一人の採用で企業は変わる」スタートアップの成長を支える『人』の重要性 | HR NOTE

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ただ実際にスタートアップとして採用をしてきた身として感じたのは「採用は幻想である」ということだ。あえて今回はこの幻想側の話をしたい。採用は万能の薬ではない。どちらかと言えば、劇薬に近く上手く効く時もあれば副作用もある。採用が会社が抱える問題解決に寄与する確率はそこまで高くはない。確かに採用はしなければならない重要な活動だが、採用が上手くできれば会社が成長できるという認識は今すぐにやめた方が良い。それは大きな間違いである可能性が高い。SCOUTER社でも採用に力を入れ、採用によって問題を解決しようとした時期があった。今はその時期に比べると従業員数は30%以上少なくなったが、パフォーマンスは現在の方が圧倒的に高い。人が少なくなってパフォーマンスが高くなるという現象は、なかなか理解しにくい現象だが事実として起きることなのである。この先、その理由を記載していくが先に総論を記載しておく。

「採用をすることよりも、採用しなくても成長できる仕組みを創るのが本当のスタートアップである」

採用すると何が起きるか

採用という行為が奇妙なのは、「一人の採用」が組織に与える影響が想像以上に大きいということだ。しかも、悪影響に限って。10人いるスタートアップだとして、11人目の採用というのは感覚的に「たった一人」である。全体の10%にも満たないため、影響も10%以内と想像したくなる。しかし、実態としては全く異なる。一人の人員増が組織に非常に大きな変化をもたらすのだ。それが以下の事象である。

  • コミュニケーションパスが指数関数的に増える
  • 「他責同盟」が増殖的に増える
  • 故に非本質的な"人"の問題が爆発的に増える

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コミュニケーションパスが指数関数的に増える

コミュニケーションは常に人と人の"間"に存在する。つまり、人が増えるとそれだけ新しいコミュニケーション、"間"が作られる。コミュニケーションパスとはこの"間"を表現するコミュニケーションを行う人同士の連絡経路の数のことである。組織を考える上では人の数よりも圧倒的にコミュニケーションパスの数の方が重要だと思っている。なぜなら、組織に与える影響は人一人の労働力が生み出す生産よりも、一人が増えることによるコミュニケーションパス増加のコストの方が高い可能性があるからだ。コミュニケーションパスが増加すると具体的には以下のような現象が発生する。

  • 情報が一部のコミュニケーションパスで停滞する
  • トップが知らないやり取りが頻発する
  • コミュニケーション自体が偏る

経営側からすると、どんどん「伝わらない」「状況が掴めない」「思い通りに進まない」ことが増えるのである。そしてそれはスピードの低下に繋がる。スタートアップにとっての生命線であるスピードが指数関数的に下がるのである。

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「他責同盟」が増殖的に増える

スピードが下がった後に起きることは、「他責同盟」の増殖である。「他責同盟」とは自分の責任で物事を考えず、常に周りのせいにする、しかもそれを個人ではなく同盟を組むことで自分たちを自己正当化する存在のことである。ただ先に言っておきたいのは、原則人間というのは他責の動物であるということである。大概のことに関して人間は他責である。人間は当事者意識を強く持ったもののみに自分の責任で考えるようになる。なので、他責という現象は常に誰にでも存在するもので、それが"今この瞬間発動しているかどうか"の違いでしかない。なので、他責同盟というのは会社を経営していれば必ず発生する。それを阻止することは不可能だと思っていた方が良い。重要なのは採用すればするほど、その数はどんどん増えていくという事実である。他責同盟はパレートの法則の原理で常に増え続ける。上位2割以外は他責同盟に引き摺り込まれていく。これまで他責じゃなかった人も、人数が増え8割に所属すれば他責になる。人間というのはそういうものであり、経営者としては辛いが個人的には程度はあれど、所与の条件としてあらかじめ想定しておいた方が良いと思っている。

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故に非本質的な"人"の問題が爆発的に増える

コミュニケーションパスが増加し、他責同盟が増えると、驚くほど"人"の問題が起きる。そしてそれは自分たちの事業には何一つ関係のないことなのである。これこそ、採用を"幻想"たらしめる最大の要因である。「採用したらあれができる、これができる」と夢が広がるが、大概は思い通りにいかない。必ずスピードが落ち、他責が増え、"人"の問題が生じる。経営者は事業の事ではなく、組織について考えることを強いられる。そうでないと、組織が組織でいられなくなる。それほど、人が増えるというのは負の影響も大きい。参考としてSCOUTER社で起きた"人"問題の一例を記載しておく。

  • 悪い情報を隠すことが増え、問題への対応が遅れてしまう
  • 周りの人に対する不満が増え、モチベーションが下がる
  • コミュニケーションに気を使わないと上手くいかない人が増え、精神的にイライラする
  • モチベーションが低いメンバーに吊られ、周りのメンバーもモチベーションが下がる
  • 同盟で社長批判を始める

あくまでも一例だが、これらに対処するために経営メンバーは多くの時間を割くことが求められるようになった。これらの問題に対処するのが経営の役割だと言われたらそうかもしれないが、創業者からしたらこのような問題に手を取られたくないという想いが強いだろう。採用というのは、これらへの対応とのトレードオフになりがちであるということを常に頭の中に入れておいた方が良い(もちろんこれが起きない採用ができたら理想だが)

採用しなければならないことに後悔するべき

スタートアップ的な成長というのは人間の労働力によってもたらせるものではない。その技術的な、ビジネスモデル的イノベーションによって成長はもたらせる。これを真とするならば、採用することよりも、採用しなくても良い仕組みを創ることの方が重要である。採用する側は採用の成功を喜ぶと同時に、「採用しないで済む方法はなかったのか、採用をもっと遅らせることはできなかったのか」と後悔するメンタリティを持つべきだと思う。採用できることよりも、採用しないで済む方がより有意義だからだ。採用は目に見えて人が増えるという成果を実感でき、そして従業員の数は目に見えて成長を実感できる。だからこそ、採用中毒にかかってしまうこともある。ただ、それは幻想に過ぎない。常に求める人材を採用できるように活動していくことは重要であるが、採用が上手くいくことは常に重要であるとは限らない。採用自体が誤った手段であることはスタートアップにはよくあることなのである。

スタートアップが取るべき唯一の人材とは

数々の採用に失敗してきた上で、最近行き着いた採用すべき人材の結論がある。それは「今後の採用のスピードを遅らせることができる人材を採用すべき」ということである。スタートアップには常に新しい問題が生じる。それを事前に認識するのは不可能だ。その中で新しい問題を解決するためにいちいち採用を行なうのは割に合わない。そうではなく、新しい問題が発生した時に今のスキル/知識では解決できないのであれば、自らそのスキルを高め、解決できる人材になろうとする人を採用すべきである。今あるスキルだけでなんとかしようと思ってる人、自分の領域を決めつけてそれ以外やろうとしない人はスタートアップには要らない(少なくともシリーズAまでは)。以下は、SCOUTER社で活躍しているメンバーの一例である。

  • エンジニアであってもデザインを勉強する人
  • マーケッターでも採用・組織づくりを勉強する人
  • 顧客のためなら領域問わず(顧客業務からプログラミングまで)何でも取り組む人

このように目的達成のためなら何でも手段として取り組む、しかもそれが上司の命令でなく、主体的に自らの成長の機会と捉え動ける人こそスタートアップが採用すべき人材だと思うのです。それを面接で見極めるのが恐ろしいほど困難なのですが。

*「私、多分そういう人材です!」と思っている方はぜひランチでもお茶でもいきましょう。DMしてもらえれば必ずお会いいたします!! twitter.com