株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

全ての若者がカスタマーサクセスを経験するべき3つの理由

「CSキャリア論vol.1」を開催しました

f:id:hiroki_yamada:20180605095221j:plain

5月29日にSCOUTER社主催で「カスタマーサクセス」×「キャリア」をテーマにイベントを開催いたしました。有料イベントにも関わらず満席の50名の方にお越しいただき大盛況となりました。

今回はイベントの内容を簡単にまとめてお伝えすると共に、より深いカスタマーサクセスのキャリアについて考えていきたいと思います。

カスタマーサクセスとは

そもそも、カスタマーサクセスとはなんでしょうか?英語版wikipeida記載の説明にはこう記されております。

カスタマーサクセスとは売手と顧客の関係性を構築する機能である。カスタマーサクセスのゴールは顧客を可能な限り成功させることであり、それはLTVの向上という形で会社に貢献する。

重要なのは最後の部分です。カスタマーサクセスは「LTV」の向上という形で会社に貢献する。これが今までの一般的なCS(カスタマーサポート)との最も大きな相違点です。これまでのカスタマーサポートは「コストセンター」という表現をされ、売上や利益を生み出すことはなく、いかに顧客の問い合わせを低いコストで対応するかが最大の争点でした。そのため、何分で顧客の問い合わせを対応できるかみたいな話になり、働き手も顧客も「問い合わせ」という事象は最も嫌な活動の一つになっていました。世の中の誰もが求めておらず、しょうがなく生じているものに向き合っていたのがこれまでのCSです。当然、そこに働きがいを感じることは難しいですし、キャリアとしても優れたスキルや経験を身につけることはできません。顧客からしてもわざわざ電話で問い合わせして、説明してとかめんどくさいのでなるべくそういうのが生まれない、分かりやすい使いやすい商品を使います。よって、企業側もCSに力を入れるのではなく問い合わせをなくす商品開発等に力を入れるのが当たり前でした。

しかし、この流れが現在大きく変わりつつあります。カスタマーサクセスは「プロフィットセンター」である。つまり売上や利益を生み出す機能であり、今後企業が大きく力を注がなければ競争力の低下を招きかねない重要な活動へと変化しているのです。この変化の象徴が「ザッポス」という企業です。少し前にアマゾンに買収されて話題になりましたが、彼らはカスタマーサクセスという言葉が生まれる前から、自然とそのような振る舞いをしており、そしてそれがザッポス最大の競争力になったのです。『ザッポスの奇跡』に記されているザッポスのサービスに感動したある女性のエピソードを引用します。

その女性は病床の母親のためにザッポスで何足か靴を買ってあげたが、母親の病状が悪化して亡くなってしまった。悲しみがさめやらぬなか、ザッポスから靴の具合をたずねるEメールがとどく。母親が亡くなってしまったので靴を返品したいこと、返品期限を過ぎてしまったかもしれないが、もう少し待ってもらいたいことをメール返信したところ、すぐに「宅配の集荷サービスを送ります」という反応があった。  ザッポスでは返品時も送料無料サービスを行っているが、通常は購入者が集荷場まで靴を持っていかなければならない。規則を曲げて自宅への集荷を手配してくれたことに女性は驚き、感謝した。  だが、話はそこで終わらない。翌日、女性の玄関先にお悔やみの花束が届けられ、ザッポスからのメッセージカードが添えられていたというのだ。  女性は、自身の体験をブログに書いた。  「感極まって、どっと涙がこぼれました。人の親切にはもとから弱い私ですが、今まで人様からしてもらったことの中で、これ以上に心を打たれたことを思い出せません」ブログの締めくくりは、「もし、ネットで靴を買うのだったら、ザッポスから買うことをお勧めします」だった。  

このようにザッポスは顧客体験を最重要視した結果、圧倒的な顧客ロイヤリティと顧客が顧客を呼ぶ好循環が生まれ、サポートチームがザッポスの競争優位性の源泉となったのです。そして、このような考え方をビジネスロジックに落とし込んだのが、カスタマーサクセスという概念です。

セッション:「経営目線で考えるCSの重要性とCSのキャリアという可能性」

セッションの内容の一部を断片的にですがまとめました。総論としては、経営におけるカスタマーサクセスの重要性が高まっており、将来のキャリアパスの選択肢はかなり多い。スタートアップなら何でも屋が、大手ならスペシャリストが向いているという趣旨でした。

<経営におけるカスタマーサクセスの重要性>
  • カスタマーサクセスは「コストセンター」ではなく売上・利益を生み出す「プロフィットセンター」である
  • 機能や価格、ビジネスモデルというのは模倣可能だが、カスタマーサクセスと顧客の「関係性」は模倣不可能であり競争優位性に繋がる
  • カスタマーサクセスのミッションは顧客を解約させないこと
<経営者から見るキャリアパスの可能性>
  • カスタマーサクセスは最も組織を横断するチームであるため、将来的にはどのポジションにもなれる可能性がある
  • カスタマーサクセスは突き詰めればCEOにまでなることも可能
  • 全てのサービスがサブスクリプション化していくので、どんなサービスにも携わることができるようになる
  • Linkedinの情報だとカスタマーサクセスが三番目くらいに増えている
  • カスタマーサクセスから営業やコンサルティングスペシャリストや、マーケティング領域に行く事例もある
<カスタマーサクセスの採用要件>
  • 「打ち返す」「感情移入する」「代弁する」という三つの動作が好きな人は向いてる
  • 立ち上げ期はなんでもできる人、なんでもボール拾える人が向いている=Webディレクター経験者が向いている
  • チームが立ち上がった後は、スペシャリスト的な能力を持っている人を採用するのが良い
  • コミュニケーション能力/観察力/柔軟性の三つが重要

f:id:hiroki_yamada:20180605095309j:plain
イベント当日の様子

変化しつつある"優秀"の定義

f:id:hiroki_yamada:20180605095328j:plain

今回のイベントを通して一番感じたことは、ビジネスという世界における"優秀"の定義が変化してきているのではないかということです。これまでの"優秀"な人材というのは、強烈なリーダーシップ、圧倒的な説得力、未来を見通す先見性、威圧的なオーラ、完璧な論理性。こういうものだったと思います。しかし、今回登壇していただいた方々には全く別のものを感じました。みなさん穏やかで、親しみやすく、謙虚で、常に学ぶ姿勢があり、目の前の顧客を大事にする。こういう人たちって、もしかしたらこれまでのビジネスの世界では負けてた人たちなのかもしれません。社内の出世競争に負け、何もさせてもらえない。でも、今の最先端のビジネスには、そういう人たちが重宝され、ビジネスの真ん中にいます。これはキャリアを考える上で、大きな変化点であり、その変化の担い手がカスタマーサクセスなのです。

これまでは"社内を動かせる人"が優秀だった。しかし、これからは"顧客を動かせる人"が優秀とされる。それは、これからの世界が人類史上最高に顧客を動かすのが難しい時代であり、あらゆるものが満たされている中で顧客がさらに何を求めているのかを真に理解し、そのために必死にならないと顧客は動かないからです。全てが透明化の方向に向かい、企業の意図はすぐに顧客に見透かされてしまいます。頭の良い少数の人間が、大多数の人を騙すことはもうできない時代です。だからこそ、全てに対して顧客目線で真摯に向き合える人が求められます。そして、それをビジネスロジックとして正しく評価できるようになったのがカスタマーサクセスという職種が生まれた意味だと思います。

カスタマーサクセスで得られるスキル・経験

今回のイベントでもカスタマーサクセスという職種は何を得られるのかということは大きな論点となりました。確かにカスタマーサクセスにおいて何か固有のスキルが得られるかというと、そこは非常に難しいです。ただ、それはカスタマーサクセスには固有のスキルがないというわけではなく、今のビジネスの世界がまだそのスキルを言語化することができていないと言う方が正しいと思います。5年後、10年後には当たり前のようにカスタマーサクセスに必要なスキル・得られるスキルが言語化され、名詞化され社内に飛び交うようになっているでしょう。そういう状況なので、まだカスタマーサクセスにチャレンジする人が多くないのはしょうがないと思いつつ、できるだけ多くの優秀な方々にカスタマーサクセスの世界に飛び込んでもらいたいという思いもあるので、言語化可能な範囲内で何を得られるのかまとめてみます。

カスターサクセスで得られるのは主に以下の三つです。

  1. LTVと対峙するという経験
  2. 顧客起点でビジネスを考えるマインド
  3. あらゆるスキルを最短で習得するスキル

f:id:hiroki_yamada:20180605095317j:plain

LTVと対峙するという経験

これからの全てのビジネスにおいて最も重要な指標は「LTV」になるでしょう。特に日本では、サービスのサブスクリプション化・人口の減少・海外サービスの日本進出等がどんどん進行し、新規顧客よりも既存顧客に目を向けるようになります。LTV中心のビジネス設計が当たり前になる世界がもうすぐそこに来ており、スタートアップでは既に最重要指標になっております。しかし、考えてみてください。みなさんが所属している部署の最重要指標がLTVになっているでしょうか?LTVは様々な要素が絡む指標であり、一部門ではなかなか扱わない指標であり、だからこそ事業責任者や事業企画のみが扱う指標になりがちでした。なので、日々LTVを意識して仕事をしている人は非常に少ないと思います。ビジネスとして最重要指標にも関わらず、その指標について意識する機会は実は非常に少ないのです。ただカスタマーサクセスは違います。カスタマーサクセスの最重要指標は言わずもがなLTVです。カスタマーサクセスのミッションそのものがLTVの向上だからです。これは一人のビジネスマンとしてあまりにも大きな経験です。LTVの観点でビジネスを考えられる人間と考えられない人間の差はこれからかなり大きくなります。カスタマーサクセスで得られる一番大きなことは、このLTVと対峙してLTVの観点でビジネスを考えられるようになるという経験だと思います。

顧客起点でビジネスを考えるマインド

二つはマインドの部分です。マインドは言い換えると思考の癖なんですが、思考の癖って一度身についたらなかなか取れません。無意識の領域にまで侵入してくるので。そう言う意味で、若い頃に良い癖をつけられるとその後に良い影響をもたらしますし、逆に悪い癖を身につけると成長の阻害になってしまいます。その中でカスタマーサクセスで得られるマインドというのは、非常に有意義なものになると思います。それは顧客起点でビジネスを考える癖です。当たり前と思われがちですが、顧客起点で考えられるビジネスマンなんて滅多にいません。基本、自分の思い込みの顧客像の中で物事を考えるのがだいたいです。そして、その思い込みの顧客像は基本間違ってます(若者向けビジネスや女性向けビジネスを営んでいるおじさんたちのことを想像してもらえれば良いかと)。「ユーザーファースト」なんて言葉も流行るわけで、やはり顧客起点で考えるのは難しいわけです。なので、カスタマーサクセスとして顧客と日々向き合い、顧客の成功と向き合うというのは癖をつける点においてすごく優れています。重要なのは、あくまでも顧客起点で考えるということであり、顧客の言うことを鵜呑みにすることではないということ。顧客の成功とビジネスとしての成長を結びつけるという思考プロセスに慣れることが貴重な財産になります。

あらゆるスキルを最短で習得するスキル

カスタマーサクセスは社内のほとんどの部署とコミュニケーションを取る必要があります。営業・マーケティング・開発・人事部等。そして、そのコミュニケーション次第でカスタマーサクセスチーム自体の成果も左右されます。顧客にとっての唯一の接点はカスタマーサクセスの担当者であり、その声を代弁者として他の部署に届け、顧客起点での改善を主導していく必要があるのです。その意味で、カスタマーサクセスは幅広い知識やスキルを短期間に身につけることが必然のように求められます。そして、それは顧客のためなので逃れられません。なので、カスタマーサクセスの担当者になると、相当量の学びが強いられ、気づいたら様々なスキルを最短で習得できるようになっているはずです。特に社会人になると新しいスキルを習得することに躊躇したり、精神的なコストが高くなりがちです。しかし、カスタマーサクセスでは習得しないと先に進めない訳で、社会人としての学習習慣を早期に身につけることができるようになります。また、カスタマーサクセスチームは多様性のあるメンバーが揃うことが多いです。元エンジニアや元マーケッター、元営業等、様々なスキルを持った人が近くにいるので、最短でスキルを習得できる環境があることも大きな恩恵と言えるでしょう。

カスタマーサクセス×固有のスキル=最強

f:id:hiroki_yamada:20180605095420j:plain

上記の三つの能力を身につけ、そこにもう一つ固有のスキルを身につけると恐ろしいほど市場価値は上がります。それは"ただの"マーケッターよりも"ただの"エンジニアよりも、"ただの"マネージャーよりも、付加価値が圧倒的に高くなります。カスタマーサクセスのキャリアパスというのは、これらの+αの固有スキルを自分の意思で好きに選べることが最大の特徴だと思います。何故ならば、どの固有スキルもカスタマーサクセスチームにあったら良いものです。そんなこと勉強するなとは絶対に言われません。むしろ歓迎されます。カスタマーサクセスという基本業務を通してビジネスマンとしてのベーススキルを高めると同時に、業務に関係のある形で+αのスキルを身につけることができる。このような仕事は非常に限られています。その意味で、カスタマーサクセスのキャリアパスは会社が提供するものでなく、ご自身で自由に考えられるものなのです。なので、どのようなキャリアパスがありますか?と聞かれても、色んな選択肢がありますとしか言えません。カスタマーサクセスを突き詰めることも良いですし、+αの固有スキルを身につけても良い。どちらにせよ、これからのビジネスにとって必要なものを得られ、市場価値は高まります。

結論:やりたいことが見つからないならカスタマーサクセスを

カスタマーサクセスという仕事はこれからのビジネスにおける強固な「前提」をよく理解できる仕事だと思います。サブスクリプション・シェアリング・評価経済トークンエコノミー等様々な流れが生まれつつありますが、それらの全てにカスタマーサクセスは求められます。そういう意味で、やりたいことが見つからないのであれば、とりあえずカスタマーサクセスに挑戦することをお勧めします。一昔前、新卒の学生は全員営業からスタートさせたのと同様、これからは全ての若者はカスタマーサクセスを通るべきという時代がこれから来るのだと思います。来るべきその時にカスタマーサクセスのスペシャリストになっていることは大きな市場価値に繋がりますし、カスタマーサクセスはどんなキャリアにも繋げることができます。カスタマーサクセスとは特定のスキルを身につける活動ではなく、現代ビジネスに必要な能力の基礎となるメタ的な能力を最も効果的に身につけることができる職種だと思います。キャリアの視点として日本にはまだカスタマーサクセスを正しく評価する言葉はありません。ただ、カスタマーサクセスの現場と経営者は気づいています。この差分こそキャリアとしての市場価値を高める最大の好機です。飛び込んだ者勝ちの数少ない仕事です。未来ある若者の方々には勇気を持って飛び込んでもらえたら嬉しいです。

カスタマーサクセスについてもっと詳しく話を聞きたい、相談したいという場合はこちらへお気軽にお申し込みください。

jobtag.jp