株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

スタートアップCOOが旅行休暇を取るべき5つの理由

はじめに

先週、一週間お休みをもらって沖縄に旅行に行っておりました。スタートアップなのにそんなに休むのはどうなのかというご意見もあるかとは思いますが、個人的に経営レベルのメンバーがこのような休暇を取るのは推進派でございます。なので、今回は特にCOOという立場の人間がなぜ旅行休暇を取るべきなのか、その理由をまとめてみました。自分としてはこの理由は会社組織やスタートアップというものの構造的なものからくる理由になっていると思っておりますので、どの企業様にも当てはまるかとは思っております。

COOが旅行休暇を取るべき5つの理由

大前提、スタートアップというのは常にハードワークです。一般的な労働の2~3倍(もしくはそれ以上)の労働や生産性を実現することで、通常よりも短い期間で大きな成果を生み出すのがスタートアップなので。問題は「通常より短い期間」と言ってもそれは、「想像以上に長い時間」であるということです。つまり、確かにハードワークが前提だが正しい休息を取れないと、途中で倒れるほどの距離であることもまた事実であるということです。このバランスを組織全体が正しく理解し、ハードワークと休息を両立させることが走りきるために重要になってくると思います。しかし、ここで一人だけ例外の化け物がいます。それが創業社長です。彼らは生活と仕事が完全に一体化しております。なのでそもそも、「ハードワーク」という言葉が不適切な表現だと感じるでしょう。「俺らの人生はハードライフなのか」というご指摘をもらうことが容易に想像できます。それくらい、"仕事"を一般的な人々が認知している"仕事"と認知していない存在がいるのでこの人だけは、休息を取らずとも走り切れてしまう。社長とそれ以外という「ワーク」に対する認識ギャップは組織全体のワークと休息のバランスを崩す一番の原因になる可能性があります。だから今回伝えたいのは「社長が」休暇を取るべき理由ではなく「COO」が休暇を取るべき理由としたのです。社長の休暇は社長個人の問題であり、組織全体に継続的に良い影響を及ぼすとは限りません。社長は行きたい時に行ってください。重要なのはCOOが意図的に休暇を取るべきということです。それは個人だけでなく、組織に対して継続的に良い影響をもたらしてくれると思います。

以下が、COOが旅行休暇を取るべき5つの理由です。

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その1:組織を客観的に観察できるから

物事を中から見るのと外から見るのでは随分異なるものが見えてきます。特に中から見て、想像するものというのは大概間違っているものです。なのでCOOといえど、組織の中に居続けると自分が所属している組織を間違った想像で捉えることがあります。もしくは、見えていない部分があることに気づかないままの可能性があります。なので、旅行を通して自分を"擬似的"に組織の外に連れ出すことで客観的な観察ができるようになります。旅行に行った際は仕事系のメッセージの通知は全てオフにします。そして見るとしても一日に一回まとめて確認する程度です。すると、日々大量の情報がフローで入ってくる時には気づかなかった部分が見えてくるようになります。コミュニケーションの偏り、情報量の偏り、明らかに議論が不足しているまま結論がでたこと、一週間で自分が想像した進捗との乖離。このような組織の弱い部分が見えるようになるのです。頭の中の意識を変えてもこのように組織を客観的に見ることはできません。そこには必ず身体という物理的な距離と、情報との十分な距離というものが必要です。それは一週間程度の旅行というのがぴったしなのです。

その2:自己不必要性を認識できるから

COOは「組織にとって必要なこと全て」を行うことが仕事です。ただ、それが故に二つの副作用があると思ってます。一つは自分がやらなくても良いことまでやってしまうということ。仕事の処理能力が高いため、大量の仕事を抱えてもこなすことができてしまう。それゆえに下に回すべき仕事や、本来必要のない仕事を自分でやり続けてしまうということがあります。それは部下の成長にも繋がらないですし、組織としての生産性も上がりません。二つ目は自己認知として「俺すげー」と勘違いしてしまうこと。この会社は俺が回しているみたいな認識を持ってしまいがちです。まぁ、それが事実なら良いんですが、勘違いだった場合は害悪にしかなりません。この二つの副作用を旅行休暇は防止してくれると思います。自分も初めて長期で休暇を取った時は不安で仕方がありませんでした。本当に仕事が回るのだろうかと。でも、その不安はものの見事に打ち砕かれるんです。自分がいなくても全然回ってる。自分がいる時と違う点を見つける方が難しい。その事実を見せつけられるんです。この感覚は毎回喜びと同時にちょっとしたショックという二つの感情を同時にもたらしてくれます。これをきっかけとして休暇から戻ったら、自分がいなくても回ってた仕事を完全移譲したり、メンバーの評価を自分の中で更新したりとかできます。そして最も良いことは、「やばい、自分の存在価値がなくなる」という危機感が自然と湧いてくるということです。あの事実を見せつけられると勘違いなんてできません。これまで自分がやってた仕事は、自分がいなくても進んでいく。だからこそ、新しい仕事を生み出したり、より生産性を高める方法にトライしていかなければと自分を大きくアップデートしようと思うきっかけになります。スタートアップの経営者にとってはどれだけ自分が変化できるかこそが勝負だと思います。組織や事業の成長に合わせて自分を変化させていけること。これが重要な中で、COOは自己不必要性を認識できないと、現状に満足してしまい、変化や成長に怠けることがあると思います。自己陶酔状態ですね。そんなものは邪魔なだけなので、休暇を取ることで意図的に組織における自己不必要性を感じ取る。これが自己のアップデートにおいて非常に重要になると思います。

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その3:無意識の認識を確認できるから

旅行中は原則、仕事のことを忘れます。仕事を忘れるくらい素晴らしい旅行にしようと努めますし、自然体(スマホとかPCを極力見ない等)でいれば意外と仕事のことを考えないでいられるものです。ゆえに自分の思考の中に仕事があまり出てこない状態に持っていくことができます。重要なのはこの時に、それでも自分が仕事のことで考えてしまう何かがあるのか、あるとしたらそれは何なのかということです。この状態でも考えてしまうことというのは、自分が無意識的に思考してしまう対象なので、すごく不安に思っていることや強い期待を持っていることの可能性が高いです。COOは通常あらゆる物事を意図的に考えており、感覚で動いているわけではないので、意外と自分の無意識に気付きにくいです。無意識の自分の思考に気づくことで、会社の長期的な視点に対する思考の材料を手に入れたり、隠れている組織の問題点を炙り出せたりできる。きっと社長たちは常時そういう感覚で色んなものを察知しているのでしょうが、COOもこの時だけはそれができるようになります。数ヶ月に一度COOが意図的に感性を使った問題提起ができるようになり、自分の無意識を活用できるようになったら、非常に強い組織になると思います。そういう意味で頭の中を空っぽにできる旅行休暇は優れております。

その4:仕事欲を醸成できるから

スタートアップのハードワークを社長以外の普通の人間が乗り越えられるとしたら、それは「感情を消す」か「仕事を楽しむか」のどちらかでしょう。それくらい、普通の人からしたらありえない働き方をしているんだろうなということは、自分の家族とかとコミュニケーションを取ればわかると思います。「あなた何で土曜日なのに働いてるの?」みたいなことをよく親に言われます。ここにおいて、なかなか「感情を消す」ということは難しいですね。できたとしても、あまり推奨はしないと思います。メンバー全員が感情を消しながら働いて欲しくはないので。なので、組織としてスタートアップのスピードを維持する方法は、メンバーに「仕事を楽しんでもらう」状態を作り出し続けることだと思います。それは、もちろん個々人のモチベーションに依存するという側面もあるのですが、意外と重要だと思うのが「COOが仕事を楽しんでいるか」だと思います。社長はいつでも楽しんでいるのでこれは対象外です。社長は楽しむと同時にめちゃくちゃな要求をする立場なので、メンバーからすると「お前、よくそんな俺たちに無茶振りばっかして笑ってるな」みたいな感じが本音じゃないでしょうか(笑)。なので重要なのは現実を一番見ているCOOが笑っているか、この組織を楽しんでるか、仕事を楽しんでるかなのかなと思ってます。それは"普通"の人々にとって仕事を楽しめる状態なのかどうかの重要な指標だと思うし、COOが楽しめてないのであればその下に楽しめと言うのも無理があるでしょう。

ということで、結構COOが仕事を楽しんでいるかは重要な要素だと思うのですが、COOは社長と違い普通の人間です(例外もあるかとは思いますが、個人的には普通の人間がCOOをやった方が上手くいくと思います)。人生=仕事ではありません。そのため、ずっと仕事をしていたら途中で仕事が辛くなってくることもあります(ただCOOは未来予知能力が高いので、ここで放棄すると後々よりめんどくさい状態になると想像できるので仕事は完遂しますが)。なので、意外と何も考えずにハードワークしてたらCOOの仕事に対する感情というのはマイナスに振れる可能性もあるんです。そんな時、定期的に旅行等にいき、仕事から離れると旅行最終日とかに仕事欲が驚くほど湧いてきます。ここで仕事欲が湧いてくるあたりは仕事人間だなと思いますし、COOっぽいなと思いますが、この仕事欲は非常に重要で定期的に醸成することでCOOが仕事を常に楽しむことができるようになると思います。COOにとって本来仕事というのは楽しいものです。ただし、度を過ぎたハードワークを続けていると、いつしかその楽しさを失いかける。なので、強制的に仕事から離れることで仕事欲を醸成する。このコントロールが、ひいては組織全体に影響を与え、組織の中に仕事を楽しめる人が増えるのではないかと思っております。

その5:大切な人を大切にする文化を作れるから

最後はなぜ"旅行"休暇なのか。自分は長期の休暇を取る際には明確に「どこ」に「誰」と行くのかを社内に伝えて休暇を取ります。それを伝えることで、「大事な旅行だから連絡してくるなよ!」という牽制の意味もあるのですが、それよりも「大切な人とはちゃんと時間を作って素敵な時間を過ごした方が良いよ」というメッセージを伝えたい方が強いです。仕事というのはとても恐ろしい活動です。自分の生活を支えている活動だからこそ、人間の優先順位を狂わします。みんな大切な人と素敵な時間を過ごしたい、それが人生にとって一番重要だということは頭ではわかっています。でも、それを形にして実現している人は周りを見る限りすごい少ないと思ってます。仕事というのは、優先順位としてその下のはずなのに、いつの間にか一番優先されるべきものになってるのです。「仕事だから」と家族や恋人との時間を失っていくことが、しょうがないことだと、正しいことだと、正当化されているように感じます。でも、個人的にはその状態での仕事にサステイナビリティーを感じません。どこかで折れる気がします。そしてこれは、個人の意識の問題ではなく、組織としての文化の問題のように感じます。きっと個人の優先順位がどんなに正しくても、間違った文化を持った組織に入ったらその優先順位は歪められる。仕事を優先できない人は、きっと人間として否定される。だから、個人にどんなに働きかけても無意味で、「大切な人を大切にする文化」を会社に創れるかどうかが全てだと思います。そして、それは上の人間にしかできません。経営メンバーが休んでいないのに、下のメンバーが休むことは精神的にすごい難しい。特に経営と現場の距離が短いスタートアップであればあるほどです。だから"普通"の人間としては最も上に立つCOOが自らを持ってそのメッセージを発信し続けないといけないと思います。旅行休暇というのはそのメッセージとして非常に優れています。休みをそんな使い方して良いんだと、出発するときはみんなから「楽しんできて」と言われ、帰ってきたら「おかえりなさい」と言われる。それがこの組織とって当たり前だし、それを全員が当たり前にして欲しい。大切な人との時間を最優先にしても、仕事に支障はないし、むしろその方が継続的に高いパフォーマンスを出せる。それが"スタートアップ"という状況であっても。そういうことをCOOは自ら証明し、組織の文化にしていくことは義務に近いものだと思っていますし、個人的にそういう組織の一員として働きたいと思っています。

結論:全ての社員の模範となれ

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COOが旅行休暇を取るべき理由を「自己認識」「組織認識」「組織文化」の観点から見てきました。"休む"という活動はハードワークをするからこそ重要であり、"旅行"という活動は組織に入り浸っているからこそ重要です。そして何よりも"普通"の人間として、仕事のための人生ではなく、人生のための仕事とするにはどうすれば良いのかという命題において旅行休暇というのは非常に有意義なように思えます。組織のトップは社長です。でも"普通"の人間としてのトップはCOOなのかもしれない。メンバーから見たらそう見えているのかもしれません。そう考えた時にCOOは全ての社員の模範になるべきだと思っています。経営と現場という分離をしたらそれは対立構造にしかなりません。でも、COOは普通の感覚を持っているし、人としては社長よりもメンバーたちとの距離の方が近いと思ってます。そんな自分がどう振る舞うのか、どう考えるのか。それは組織としての文化や行動様式に直結するし、社員がもし参考にするとしたら、それは社長よりもCOOの振る舞いです。だからこそCOOは「意図的」に旅行休暇を取るべきだと思うし、それでも十分なパフォーマンスが出ることを組織に対して証明する必要があると思います。COOは全ての社員の模範となるべきであり、それを強烈に意識するべきです。それが未来の組織文化を、未来の素敵な組織を、未来の素敵な働く人々を創り出すのだから。