株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

事業責任者を引き継ぐ時に必ずやるべき5つのこと

30人の壁でぶつかる事業責任者問題

スタートアップにとっては創業期というのは当たり前ですが社長が事業責任者です。事業に関する意思決定は社長が行い、経営と事業が常に言行一致している状態を何も考えずとも実現できます。ただ、ずっとそのままではいられない。会社が大きくなり、組織が大きくなる、事業が複数になる、IPO準備を始める等によって経営と執行は明確に責任が分離され、事業責任者を配置することが求められますし、配置しないと会社として回らなくなる。そんな時期がきます。個人的にはこの創業者ではない人間に事業責任者を任せるこの瞬間こそ、スタートアップが何かしらのイグジットをするまでの試練の中で最も難しい問題の一つだなと感じています。SCOUTER社もこれまで何度かこのような瞬間があり、数多くの失敗も重ねてきました。そこで、今回は事業責任者の引き継ぎのポイントをまとめてみます。想定しているシーンは創業メンバーが事業責任を持っていた状態から他のメンバーに事業責任を移譲するような状況です。

事業責任者の選任が難しい理由

会社経営をしていく中でも事業責任者を任命するという行為は非常に難しいなと感じております。何故ならば事業責任者とは「スキル」だけで任命ができないからです。事業というのは不確実性の塊であり、また企業の存在理由と密接です。特定のスキルを非常に高度に持ってる人であっても、事業が上手くいかないこともあれば、ビジョンとして間違った方向に進んでしまう可能性もある。そういういわば「アート」な要素が複数絡んでしまうからこそ、事業責任者の選任というのは非常に難しいんです。これが管理部門とか技術系の部門の責任者の選任と最も異なる部分です。将来どうなるかわからない事業に対して、この人にだったら全て任せられる。この人に任せて上手くいかなかった時に、自分でやれば良かったと後悔しない、最終的にはそういう「信頼」があるかどうかというのが選任の最大のポイントなんだと思います。

正しい引き継ぎとは「資産」と「負債」を正しく伝えること

引き継ぎという行為を聞いた時、最初に思い浮かべるのは現状の説明であったりマニュアルを作って渡すことだと思います。ただ本質的に考えればその行為にあまり意味はありません。情報というのはフロー(日々変化し流れていく情報)とストック(蓄積されていき積み重なっていく情報)に分けられます。僕は引き継ぎというのはフローの情報ではなく、ストックの情報を引き継がないと意味がないと思っています。なぜならば、フローの情報というのは調べればわかるからです。そうではなく、そのポジションをこれまでやってきた人だからこそわかるストック情報。これこそが事業責任者の引き継ぎにおいて最も価値のある情報であり、これを伝えない限り後任の人はまた0から物事を考えなければいけないか、現状維持するしかないのです。このストック情報を「資産」と「負債」と呼んでいます。具体的には以下のように分かれます。

  • 資産
    • 共感できるミッション
    • 事業の強み
    • ビジネスモデルの本質
    • 事業のキードライバー
    • 効果的な活動
    • 今後有効と考えられる戦略
    • 事業のベストケース
    • 想定される組織図
    • メンバーの強み
  • 負債
    • 事業の弱み
    • 効果がなかった活動
    • 過去の間違った意思決定
    • 今後の課題
    • 想定されるリスク
    • 現任が解決できなかったこと
    • メンバーの弱み

これらは新しい事業責任者が1日で調べようと思っても調べられません。なぜならば答えがない問いだからです。現状の数値は調べられます。ただ、このようなストック情報は「思考」と「経験」が必要であり、その積み重ねを経た現任だからこそ知っていることなのです。この事業の資産と負債は何なのか。それを正しく後任に伝えることができれば、後任は現任の「思考」+「経験」=「知恵」を最初から持った状態でそこに自分のアクセントを加えることができます。逆に言えばこれなしに、とりあえず頑張ってと言われても、それは無理な話であり、無駄な思考を後任の事業責任者にさせてしまうのです。

そういう無駄をなくし、スムーズに引き継ぎをできるようにするためにやっておくべき5つのことをまとめたのが以下です。

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その1:ドキュメントで資産と負債をまとめる

当たり前ですが、引き継ぎというのはドキュメントでやるべきです。そうじゃないとこの引き継ぎ自体がフロー情報になってしまうので。ベースとなる引き継ぎ資料はドキュメント化することが現任の最低限やるべきことです。ただその際に何を情報として残すか。これが重要です。前途したように残すべきは資産と負債です。これまで事業責任者として得てきた「知恵」です。客観的な事実情報を羅列することにあまり意味はありません。過去の過ち、そこから学んだこと、今後の想定、理想の状態、想定されるリスクとその対処法、今後取りうる戦略。あなたの思考回路をまとめるべきです。言うなれば他のメンバーに聞いてわかることは書かなくても良いです。フロー情報として後任が聞けば良いので。そうではなく、後任がこの情報を見て思考を始められるようにすることが目的です。すぐに新しい動きを取れるようにすることが目的です。あらゆる全ての情報が導き先は「行動」です。このドキュメントを呼んで「行動」が生まれないのであれば、それは何も引き継げてないということです。膨大な客観的情報を書くくらいなら、後任に手紙を書くつもりで作った方が良いでしょう。直近、山田が作った資料はこんな目次となりました。

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その2:予実管理方法をカスタマイズする

事業の予実管理や実績情報の観測というのは実はアートなものだと思ってます。確かに客観的な数値情報の羅列なのですが、これをどう把握し、解釈し、意思決定に繋げていくかというのは人によって全然プロセスが違うなということをこれまで痛感しております。数字の生データをひたすら見ることによって細かなところまで分析を進めながら違和感を探す人もいれば、ビジュアライズされた情報が少ないもので違和感を感じ取る人もいたり、時系列なのか自分なりの仮説との比較で考えるのか等。思考プロセスは実は何通りもあり、その人のスタイルというものがある。そこに唯一正しい思考プロセスなどないというのが山田なりの帰結です。なので、予実の管理手法についてもなるべく当該責任者が意思決定をしやすい状態で情報を管理すべきと考えます。なので、自分の従来のやり方を押し付けるのは不適切。その人の思考回路だったり、どんな情報を見て、どう考えるのかをヒアリングした上で、知恵を持っている現任がその実現方法を考え現状のものをカスタマイズしてあげる。このプロセスを実行した方が後任の意思決定の質は確実に上がります。

その3:これまでのマネジメントとメンバーの特徴を伝える

事業は大きくなればなるほど、「人」の問題がつきまといます。事業戦略はバッチリ。理論上も上手くいく。でも、思い通りの結果にならない。そんなことがほとんどです。そして、それらは必ずマネジメント・実行が原因になります。事業責任者を下から上げた場合、同じ事業部で働いていたからわかるでしょと「人」に関する情報を伝達しないこともよくあります。ただ、現任がこれまでどのようにマネジメントしていて、そのメンバーはどんな反応を示していたのか。これは一緒に働いていたとしてもそんな簡単にわかる情報ではありません。ましてや、自分がマネジメントする側に立った時に想定外の反応をされた際には大きなストレスへと繋がる可能性もあります。だからこそ、これまでの自分のマネジメントスタイルや何をやっていたのかはメンバーごとに丁寧に伝えておくべきです。

その4:求めている成果を明確に明文化する

事業責任者というポジションは一つの錯覚を与えがちです。それは事業が出すべき「成果」は事業責任者が決定することができるという錯覚です。この錯覚がある状態で始まると、その後大変なことになります。自分が出すべきと考えた成果と経営が求める成果に差分が生まれ、その差分は戦略へも影響を与え事業方針が不明瞭になる最大の要因となります。今の事業において最も重要なものは売上なのか利益なのか特定のKPIなのか。それを、いつまでに、どこまで上げることを求めるのか。これを決めるのは経営の役割です。それまで経営と事業責任が同一だったことから、あまり意識しないで始まってしまうことが多々ありますが、これは引き継ぎを実施する際に必ず明文化しておきましょう。

その5:変化を求めていることを強く伝える

最後に上記4つを正しく実施した上でやるべきことがあります。それは現任の知恵を活用しながらも、変化を起こすことを強く求めていると明確に伝えることです。これを伝えないと事業責任者は現任の事業責任者に縛られることになります。全てが決まっていたからその通りにやっただけ。これは上手く行かなかった時の言い訳にされるだけです。そうではなく、「自分が伝えられることはこれが全て。それをどう使うのかは後任であるあなた次第であり、好きに変えていい。変化を生み出すことを経営としてあなたに求めているということ」を明確に何度も伝え、その人に責任と同等の権利を実質的かつ心理的に与えることが重要です。権利があっても心理的に行使できないことは少なくありません。それは現任が偉大な人であればあるほどです。だからこそ、変化を求めることが新しい事業責任者を機能させる最後のピースになるのです。

結論:引き継ぎは成長への大きな起爆剤

個人的にあらゆる責任者というのは一定期間で交代していく方が持続的な成長に繋がっていくのではないかと考えています。なぜならば、責任者の交代というのは強制的な大きい変化を作り出すことができるからです。今の時代、同じことをずっとやり続けてたら死ぬだけです。常に変化が求められます。ただし、一人の人間が一つの領域に対してずっと変化を生み出すというのは、かなり難しいことです。領域が狭ければ狭いほど視野も狭くなりがちで、一つの成功体験にこだわってしまいがち。これは頭ではわかっていますが、体現するのは本当に難しいことです。だからこそ、定期的な責任者の交代というのは、大きな変化のきっかけとなり、成長への起爆剤になる可能性があると感じています。そしてその成長可能性を高めるために重要なことが正しい知恵の引き継ぎだと思います。この正しい引き継ぎなしに後任の人間に責任を全て押し付けるのは現任の責任放棄と言っていいでしょう。逆に言えば上手く引き継ぐことができた時、事業として、組織として大きな成長に繋がる。引き継ぎというのはそういう素晴らしい可能性に満ちた瞬間であり、だからこそ真剣に取り組むべきものなのだと思います。

1年で事業責任者を目指したい人bosyu

SCOUTER社は現在かなりのスピードでポジションが生まれており、それに伴いどんどん引き継ぎも行われております。故に結果さえ残せば、かなりのスピードで事業責任者だったりマネージャーを目指せる状況です。1年でそこを目指したい人。ぜひ以下のbosyuから応募してください。12月限定で応募していただいた方とは必ずお会いします。

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