株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

なぜ多くの転職が失敗に終わるのか〜失敗を避ける思考法〜

転職が増えれば「失敗」した転職も増える

世の中は間違いなく転職が増える世界へと変貌していっております。今や転職という活動に誰も違和感がなく、毎年300万人が転職をするという時代になりました。ただ、転職が増えると同時に失敗に終わった転職も増えていると実感することが多くなっております。ここでいう「失敗」の定義は非常に難しいですが、当該転職した本人が失敗したと感じれば、それは失敗なんだと思います。失敗したからまた、次探しますという人は年々増えている印象です。ここにおいて在職年数の短さを問題にしたいわけではありません。在職年数が半年であろうが、それらの繰り返しで転職回数が多くなるのであろうが、当該本人の要求や成長に繋がっているのであれば何の問題もないでしょう。逆に言えばその事実だけを見て、判断する採用企業側の方がこの点に関しては問題は大きいかと思います。今回取り上げたいのは、そうではなく転職者自身が転職直後、「失敗した」・「もっと他のとこに行けば良かった」と思う精神的な抽象論です。当該転職が成功だったのか、失敗だったのかはあくまでも当該本人の解釈の問題です。そのため、他人がとやかく言うことは原則できません。ただ、どう考えてもその失敗は事前に回避できたであろうという事例もたくさん起きてることもまた事実なのです。そして、それは企業側の問題、転職者側の問題、産業全体の問題等、様々な要素が絡まって生じている問題です。なので、単純な解決というのは極めて難しい。ただ、少なくとも「失敗」の定義が当該転職者個人の解釈によるものとするのであれば、それは転職者の思考と選択によって失敗の確率を減らせることができるだろうということは確かだと思います。そして、その思考と選択に対してあまりにも思慮が浅いまま意思決定をしてしまっている転職者もまた多いことも事実です。人材業界に身を置いてる立場として、少しでも失敗に終わる転職を減らせたらと思い、失敗を避ける思考法なるものをまとめてみました。

なぜ失敗が生まれるのか

今回扱う失敗というのは前途したように当該転職者が転職直後、数ヶ月間の間に感じる解釈のことを指します。

転職者自身が転職直後、「失敗した」・「もっと他のとこに行けば良かった」と思う精神的な抽象論

では、この失敗という解釈は何から生まれるのかというと、「転職前の期待値と転職後の実態のズレ」の総和です。自分の想定と違うからこそ、失敗と感じるわけで、最初からわかっていたり期待していなかったりすれば当然、失敗とは感じません(当然、その現実が辛いとか大変という感情は湧くでしょうが)。つまるところ、転職における失敗を避けるためには、このズレを最小化しましょうという話になります。

次になぜこのようなズレが生じるかです。ズレが生じる原因というのは主に三つあります。

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  1. 獲得した情報と実態が違かった(情報の誤り)
  2. 実態に対する情報を獲得していなかった(情報不足)
  3. 自分の潜在的な期待値に気づいていなかった(期待値の誤り)

転職活動においては上記の三つのが原因で期待値と実態にズレが生じます。そして、これは多くのケースで全てが同時に発生しており、入社した時にはとんでもないズレが生じるということになっております。多くの方々は失敗の原因を「聞いてた話と違かった」という今回で言う「情報の誤り」と結論づけます。人事からはこう言われた。社長から直接こう聞いていた。その情報が実態と違ったから失敗だった。故に会社に問題があったのだと。

確かにおっしゃる通りではございます。ただ、企業の立場で考えれば目の前に採用したい人がいる場合、その人が好む情報を伝えるのは当然の行為です。ここは線引きが難しいですが、転職者個人の立場からすれば、企業はそうやって自分に都合の良い情報を言ってくることを前提とした方が良いでしょう。企業からすれば採用は営業活動な訳です。営業でいうセールストークを自分にされているのだから、全てを鵜呑みにしてはいけないという認識の中で転職活動をしなければなりません。そして、この情報の誤りに気づくためには少なくとも明確な期待値と判断に十分な情報を獲得していることが前提なのですが、実はこの二つから間違っており、どの情報に着目するべきか、情報と自分の期待値がどう対応づけられているのかを明確に認識して情報を獲得している転職者は非常に少ないように思えます。期待値が不明確だからこそ、明確な情報取得もできず、企業から言われた聞きざわりの良い言葉に反応して意思決定しまう。これが「聞いてた話と違かった」という現象が起きてしまう最も大きな原因なのです。

つまるところ、「聞いてた話と違かった」を回避するためには、まず大前提として期待値を明確化するところから始める必要があるということです。そして、その期待値の対象を給料と働き方だけで考えるようなことになると、失敗に繋がってしまう確率が高まるということです。人間というのはもっと複雑な生き物です。給料と働き方だけでは自分の期待値を網羅することはできません。では、どう自分の期待値を明確化すれば良いのか。あくまでも最低限のレベルですが、以下の視点から考えてみると良いと思います。

期待値を考える三つの視点

山田が転職相談に乗る際はいつも三つの視点で期待値を確認しております。それが以下の三つです。

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  1. 価値観→自分がどうしても許せない・嫌いなことは何か
  2. 職種→好き、嫌いな動作は何か
  3. 労働の対価→今、最も労働の対価として得たいものは何か

この三つは失敗を避ける=期待値とのズレを防ぐ上で必ず明確化すべきポイントです。逆に言えば期待値を大きく超えるための転職活動にはあまり有効ではありません。ただ、そもそも転職が「大成功」となるかどうかは、究極的には運と転職者の努力に依存するので、ただリスクを取れとしか言うことはありません。重要なことは大成功はあくまでも運なので、コントロール可能な失敗の回避に注力しましょうという話です。では、なぜこの三つの視点が重要なのか。一つずつ解説します。

価値観

あなたの価値観は何ですか?ってよく聞かれると思います。ただ、この問いはかなり抽象的なので思考の際にはあまり意味をなしません。そして、大概はみなさん僕はこう生きていきたいとか、これを一番の価値としたいという成し遂げたいことみたいなことを考えます。もちろん、それも大事なんですけど、仕事ってそう簡単に成し遂げたいことを達成できるわけじゃありません。これもまた運と努力次第なので、あまりそういうこと考えても失敗の回避には繋がらないわけです。というよりも、それを達成できないと失敗なのであれば、大概の人々は失敗の人生を送るわけになるわけです。ただ、仕事してる人々を観察していると成功していない状態を別に失敗と捉えていない。じゃあどんな時に価値観の相違による転職を考えるようになるか、失敗したと思うようになるかと言われれば、それは自分が許せないこと・嫌いなことを指示・強制された時なんですよね。例えば、人を騙すことは絶対したくない人が、嘘をついてでも契約を獲得しろ。それが会社の方針だとなったら、失敗だと感じるわけです。そして、意外と人によってどうしても許せないことって異なります。お金のためなら多少嘘をつくことを厭わない人もいるわけです。自分がどんな時は許せないか。それだけにフォーカスして考え、それを回避できる職場を選択することが失敗を避けるために重要になります。

職種

どんな職種につきたいですか?これもまたよく聞かれると思います。ただ、これ名詞で考えてもあまり意味はないと思っています。つまり、営業なのかコンサルタントなのか、エンジニアなのかという職種の名前で考えると本質を見誤ります。これに関しては以前の記事で詳しく書いているので、以下もぜひ読んでいただきたいですが、重要なことは好き・嫌いな「動作」で考える。つまり「動詞」で考えるということです。

reno-coo.hatenablog.jp

なぜ「動詞」で考えるべきかというと、人間の好き・嫌いは名詞ではなく動詞の方がより強固に規定されるからです。そして、動詞の方が圧倒的に変化しにくい人間の根本に根ざしているからです。人間というのは好きな動作・嫌いな動作は子どもの頃からほとんど変わりません。そして職種というのは特定の動作の集合体として名詞になっているだけです。なので、いきなり職種で考えると都合の良いイメージに騙されることがあります。まず動詞から考えてください。そして、好きな動作をたくさんやる仕事、嫌いな動作がなるべく少ない仕事。これが「嫌い」にならない職種です。この職種に関しては日常的に辛いと思いづらい仕事です。それは成果が出ていても、出ていなくてもやり続けることができる職種です。対象が興味のないモノであったりサービスであっても、少なくともやり続けられる仕事です。途中で辛い、想像と違った、やる気が湧かないということが起きづらい仕事です。そのような「行動」として続くかどうかは対象となる名詞や概念としての名詞ではなく、実態としての「行動」つまり動詞で決まるため、自分の好きな動作・嫌いな動作を考えることが失敗しないために非常に重要になります。

労働の対価

最後に労働の対価です。これは一般的に「条件」と言われることもありますが、もう少し広義です。それはつまり、自分が提供する時間と労働に対して何を得たいのか。その得たいものというのは、お金だけでなく、スキルや経験、承認、やりがい等も含めて、どの順番で対価として重要なのかを決めることです。常に労働とその対価は等価交換です。対価を増やすためには提供する労働価値を高める必要がありますし、その逆もまた同様です。その上で、今自分は労働の対価として何を本当に求めているのか。この優先順位を明確化すると同時に自分の労働価値の総和がどのくらいなのかを検討することもまた重要です。原則である「労働価値とその対価は等価である」を転職者は時として見落とします。自分の労働価値を無視し、とにかく対価だけを要求する。そうなれば、当然釣り合わずオファーが来なかったり、誤った情報に踊らされ聞いた話と違う状態に陥ります。そのようなリスクを回避するための一番の方法は自分の労働対価の総和を正しく把握し、自分が受け取る対価と等価かを気にしながら、自分は何を優先し、何は今回の転職で諦めるか。これを論理的に自分の中で把握することです。ここを見誤ると期待値としておかしなこととなり、そもそも失敗しかあり得ない転職活動をすることになってしまいます。

期待値と実態のズレを回避する「経済合理性」

上記三つの視点から自分の期待値を明確化する。これが失敗しない転職のための第一歩です。いわばこの期待値というのは、自分がどんな状態に追い込まれると「失敗」と感じるかの条件です。価値観が著しく異なる企業、自分が嫌いな動作で構成された職種・仕事、対価として優先したいものが得られない企業。そういう状況に追い込まれる企業に転職すると失敗するということです。なので、少なくとも転職活動ではそれを回避しなければなりません。では、どう実態を把握してそのような企業を回避するべきか。前途したように、企業側は原則、自分に都合の良い情報を提供してきます。なので、真っ当に質問しても欲しい回答を得られるとは限りませんし、そもそも面接に行ってからでないと直接質問はできません。となると、応募時点ではどう考え、情報収集をすれば良いのか。ここにおいて重要になるのが「経済合理性」の視点です。企業というのは「利益」を出すために活動しています。もちろん、理念やビジョンはありますが、少なくとも利益がでないと存続が難しいわけであらゆる仕事や指示は「経済的な合理性」つまりその活動が儲かるための活動なのかという判断軸で行われているわけです。それならば、当該企業にとって自分の得たいポイントというのは経済合理性的にどうなのか?という観点で考えていくと大枠の判断がつけられるようになります。そしてその経済合理性というのは、ビジネスモデルや業界、競争環境、顧客によって決まっていきます。

一つ簡単な例を出してみます。例えば、価値観として「接待」は絶対にしたくないという人がいたとします。この時に御社は接待ありますか?と聞くのは有効ではありません。接待がどういう場面で経済合理性として有効なのかを考え、逆にどんな時に効果がでにくいのかを考えることが重要です。簡単に言えば接待という活動は単価が高く、商品の差別化が図りにくい際に最も有効な活動です。逆に言えば商品の単価が低く、多くの顧客に薄く広く使ってもらわないといけない場合、いちいち接待をやっていたらコストや時間的に利益がでにくいわけです。そうであるならば、接待が嫌いな人が避けた方が良い会社というのが見えてくるはずです。

このように、自分の期待値と企業の経済合理性がフィットする企業こそが最も失敗の可能性が低い企業群になるでしょう。これは論理的に導き出せる帰結であり、ビジネスの特性から生み出されている合理性なのでよっぽどの事業内容や競争環境の変化が起きなければ、会社側も変えづらいものです。会社の経営方針というのは社長の個人の感覚で決まっていると思ってる方が結構多いと思います。もちろん、それで決まる部分もありますが、実はどのようなビジネスをしているのかによって社長にも経済合理性という大きな制約がかかっており、社長といえどもそこからは逃れられないのです。

まとめ

かなり長くなってしまったので、最後にポイントをまとめます。

  • 転職が失敗するのは「転職前の期待値と転職後の実態のズレ」が起きるため
  • ズレは「期待値の誤り」・「情報不足」・「情報の誤り」が原因で起きる
  • 一般的に情報の誤りを理由にする人が多いが、そもそも期待値の誤りによって生じていることがほとんど
  • 期待値は「価値観」・「職種」・「労働の対価」の三つの視点で考える
  • 価値観はどうしても許せないこと嫌いなことは何かで考える
  • 職種は名詞ではなく動詞で考える
  • 労働の対価を考える際は「労働価値とその対価は等価である」ことを忘れない
  • 期待値と実態のズレを解消するポイントは企業の「経済合理性」で考えること
  • ビジネスモデル・業界・競争環境・顧客等から企業の経済合理性は予測できる
  • 企業の経済合理性からは社長ですらも逃れることはできない

これらが失敗を避けるための転職の思考法です。転職の失敗の多くはこれらの思考をすっ飛ばして、なんとなく良いという理由で意思決定してしまっていることが原因です。失敗するリスクを許容できる人はもちろん、それで良いと思います。ただ、あまりそのリスクを取りたくない人はたくさんの会社に応募する前に一度立ち止まって真剣に考えてみてはいかがでしょうか?そして、これらの思考は一人でやるのはすごく大変です。自問自答というのは思考が止まりやすいので。なので、ぜひ周りの友人や知人に相談をしてみてください。他人から質問されるとふと答えがでてくることもあります。業界のことがわからなかったら、知り合いに聞いてみましょう。もしそういう知りたいがいない場合は転職エージェントに相談するのもいいかもしれません(転職エージェントも良い人・悪い人いるので一概には言えませんが)。何よりも自分の思考を深めることこそが失敗を回避するために最も重要だと思います。そして、合理的に自分の選択に納得できている状態とは、それだけで面接対策になります。別に一つ一つの面接対策をしなくても、勝手にいろんなことが自信を持って話せるようになると思います。自分で納得した選択を、自分の意思を持ってしているので。ということで、これから転職を考えている人はぜひ参考にしてもらえればと思います。

12月限定で筆者も転職相談を受け付けております

12月限定ではございますが、私も転職相談を受け付けております。私の転職相談は上記の考えをもとに相談者の考えを整理していきながら、企業の経済合理性に基づいて具体的にどんな企業、職種がフィットするかをご提案するスタイルを取っております。もし、この記事を読んで相談してみたいと思った方は気軽に応募してみてください。応募者は必ずお会いさせていただきます。

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