株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

2018年を振り返りシリーズBを迎えるスタートアップが後悔している7つのこと

本年も早いもので大晦日となってしまいました。2018年はこのブログも想像以上に多くの方々に読んでいただけるようになり、個人的にも随分と変化が大きい一年だったなと感じております。本年の締めくくりとして、昨年も書いた後悔していることシリーズをまとめようと思います。スタートアップというのは後悔の連続です。なぜこれほどまでに失敗が多いのだと自己嫌悪に陥る時もたまにありますが、それがこれからのスタートアップの皆様に少しでも役に立てると嬉しいなと思っております。

シリーズBを迎える難しさ

今年の一年はSCOUTER社にとってシリーズAからBへと切り替わる準備の一年だったなと思っております。なかなか突破が難しいシリーズAの壁ですが、なんとか超えられそうな気配を感じております。去年はシリーズAあたりがスタートアップにとって一番難しいと書いたのですが、シリーズBを迎えるに当たって、同じくらいの難しさを感じました。何が難しいかって難しいの種類が一気に変わって来るんですよね。今までと違う問題がどんどん浮上して来るので、考えることが全然違う。具体的には多くの問題が組織の問題、実行力の問題に寄ってきます。理論的には上手く行くはず。なのに上手く行かない。でも経営は現場にずっといてもダメ。このジレンマと戦うのがシリーズB周りなんだなと。かの有名な『ビジョナリーカンパニー』では経営者の仕事は「会社」という作品を作ることだという表現があります。これ去年まではなかなかピンとこないことが多くて、自分たちは事業を作っているという自覚が非常に強かったのですが、今年は事業というよりも会社とはどうあるべきか。それを考えるようになり、ようやくわかってきたのかなと思う次第です。本後悔しているシリーズは主に、「もっと早くこうしていれば」というネタ集です。ではいきましょう。

その1:もっと早く「管理会計」を整えておくべきだった

弊社はありがたいことにかなり早い段階から財務会計は整っておりました。素晴らしく設計された業務フローのおかげで、かなりローコストで素早く月次の会計が締まりますし、財務会計上の予実は一瞬で比較できます。ただ、だからこそ管理会計はそこまで整えずにここまできてしまいました。財務会計が綺麗なので一連の経営活動に支障は出ません。出ないのですが、やはり財務会計の限界があることもまた確か。事業が複雑になり、投資規模が大きくなり、投資判断が財務に大きな影響を与えるようになるのが、シリーズBあたり。このタイミングになると財務会計だけでは正しい情報をもとに、正しい判断を行うことが難しくなりますし、意思決定も遅れてしまいます。特にサブスクリプション型の事業を行なっている会社はかなり早いタイミングで整えておいた方が良いでしょう。管理会計で用いることを前提とし、最小工数管理会計に加工できる財務会計側の要件定義と、毎月同じ業務フローで適切な管理会計が生成される業務フローの二点はできる限り早く実装しておくことをオススメします。

その2:「予防」に時間を割くべきではなかった

今年の4~6月くらい、私は組織問題の予防にかなり時間を割いていました。事業の成長スピードがある程度読めたからこそ、組織の成長も予測ができ、その成長に対して歪みが生じないように予防策を何重にも轢いておこうとしていたのですが。結論から言うとその判断は誤りでした。というよりもスタートアップにおいて予防は意味をなさないですね。組織マネジメントの方法や必要な人材の定義も数ヶ月後にはまるっきり変わってることもある。そんな中で数ヶ月までに必死に作った予防策がまるっきり今の組織にはフィットしていないということが何回も起きました。ここでの学びは一つです。予防に時間をかけるくらいなら、問題が生じた時にすぐ対処できる余裕を作っておけ。どうしても綺麗に経営をしたくなるのがCOOの性です。なるべく問題が起きないようにと先回りする。ただ、そこに時間を割くくらいなら全力で問題が起きても前に進めて行く方が良いんです。問題はどんなに上手くやっても起きる。それを想定なんて仕切れない。だからこそ、問題が起きた時に冷静に対処できるだけの物理的・心理的余裕を特にCOOは持っておきましょう。

その3:メンバーには「資産」を作らせるべきだった

資産というのは金銭的な資産を意味している訳ではありません。会社の資産、フローとストックの話です。会社の活動というのは蓄積されやればやるほど効果が上がっていくストックの活動と毎回同じ効果しか発揮しないフローの活動があります。性質としてストックの活動は地味だったり効果が出るまでに時間がかかるので後回しにされがちです。そして、僕もそうですがなんとなくメンバーはフロー、経営レイヤーはストックというイメージがありました。ただ、気づいたのはこれ逆だなと。ストックの活動は毎日やり続ける継続性こそが鍵です。この継続性に長けているのはメンバーなんですよね。逆にフローの活動というのは蓄積はされないけれども、短期で成果が出やすい性質があり、かつ活動する人の能力や影響力で良い結果が出やすいということもあり経営レベルの人がやるならフロー活動だと。例えば採用という活動で考えてみると、採用においては採用広報というストックの活動と媒体出稿やSNS採用・ダイレクトリクルーティングというフロー活動があります。普通に考えて人事は採用計画があり、そこに対する目標を追っています。この目標を達成するには短期で考えればフロー活動をやることが最も適切です。なのでメンバーはフロー活動に力を入れます。じゃないと採用計画をビハインドするので。経営側も採用目標は必達だって言うので、そこに拍車がかかります。ただ、一年間フロー活動で採用をした結果、残るのはなんでしょうか?今年の採用目標達成という事実だけで、来年より多くの人員を採用しなければならない時、来年に残せているものは非常に少ないんです。それならば、短期の採用は経営側がどうにかする。その分、人事にはストックの活動を最優先でやらせて会社としての資産を作らせる。そうすれば、来年の採用は経営側がコミットしなくてもできるようになるかもしれない。このようなメンバーに資産を作らせておくべきだったという事案が社内でもたくさん散見され、後悔の連続です。そしてこれはほぼ全てが経営の責任です。メンバーに両方やれというのは無理です。どっちかを優先させなければならない。その時にストック活動を優先させ、資産を作ることに励ませる。その判断ができる会社とできない会社では大きくなった時に差分が生まれるんだろうなと感じております。

その4:もっと早く「一人部署」をなくすべきだった

振り返ると一人部署というのは何も良いことがないなと。一人部署は言い訳を作りやすく、競争環境がなく、評価が異常に難しく、事業の真の課題が見えづらくなる。辛いことばかりです。弊社も営業が一人部署の時期が結構長い期間ありました。この期間はこの営業マンの成果がどのくらいの水準なのか経営側も正しい評価ができませんでしたし、この営業マンがもう売れませんと言ったらそこまでだったのです。これ二人いれば二人を比較した上で合理的なフィードバックができたり、上手く売れている方のノウハウを共有させたりと組織として正しいことができるのですが、一人部署ではどうにもできない。今振り返ると、工数として一人しか不必要だったとしてもできるだけ早く二人部署にすべきだなと思います。工数が余るのであれば、ノウハウを文章として残したり、効率的な仕組みづくりを行なったり将来に繋がる資産づくりに時間を充てられます。このように、リソースはどうにでも有効活用できますが、一人部署によるデメリットはどうしても打ち消せないので。どこかの部署の人数を増やすよりも先に、全ての部署を二人以上にすることの方が重要だったなと後悔しております。

その5:「現場」へは行き続けるべきだった

今年最大の後悔はこれです。私自身、現場からかなり遠ざかった一年でした。これが経営の仕事だからと、事業計画上の数字と現場から上がってくる報告で意思決定をする日々。ただ、どうにも壁を感じる瞬間がありました。そして本当にこの事業は上手くいかないかもと疑う瞬間もありました。そう思ってしまった最大の原因は間違いなく現場に行かなくなったからです。これは現場にずっといろという意味ではありません。そうではなく、現場で起きてることは現場メンバーと同じレベルで理解しておかなければならないということです。現場は常に大変な状況です。それはどんな現場でもそうだと思います。すると、疲弊した現場は上手くいかない理由を世の中や顧客のせいにします。そうじゃないとやってられないというのが本音じゃないでしょうか。すると、その疲弊した現場の解釈を通った情報しか経営に上がらなくなります。この場合、現場が大変であることを伝える情報ばかりが上がってくるようになります。もう少しサービスレベルを落とさないとやっていけない。人が足りない。顧客ターゲット変えるべきだ。これはしょうがないことだ。それは一種の現場から上がってくる情報の性質です。それを全て頼りにするわけにはいかない。理想を描き続けられるのは経営側であり、そうじゃないと理想の事業には行き着きません。自分の五感で見て・聞いて感じ取った情報をもとに意思決定を行なっていく。事業や会社が大きくなればなるほど、それを忘れないようにしないといけません。

その6:クオーターごとに「実験」・「整備」・「売上」・「利益」の中で最優先にすべきテーマを選ぶべきだった

もちろん、事業や経営をやる上で年間やクオーターのテーマはあります。ただ、その言葉は活動の方針であり、経営活動における最優先事項が何かを目指しているかと言われればかなり曖昧になりがちだと思います。弊社もクオーターごとにありましたが、じゃあ売上が最優先なの?利益?それ以外?というのはかなり不明確。その中で現場と経営で乖離が起きたり、経営の中でも何を最優先にすべきか擦り合わせられていない時期もありました。これは会社が大きくなればなるほど致命的です。だからこそ、明確に選ばないといけないし、逆に選ぶとしたらこの四つしかないのかなと思います。売上・利益はわかりやすいので説明を省きますが、この二つ以上に優先されることがあるとすれば、それは実験と整備だなと。この二つは将来の売上・利益につなげるための活動であり、準備期間を明示するということです。会社は常に右肩上がりでいける訳ではありません。無理な成長をし続けたら組織が崩壊したりします。その意味で、次の売上の軸を作るために実験をするクオーターなのか、諸々発散させてきたからこそ、将来のために整備していくクオーターなのか。この二つのテーマはどこかで必ず必要とされるでしょうし、逆にこれが明示されていないとメンバーはやりづらいでしょう。会社のベクトルを全員が理解するためにも、4つの選択肢の中から何を重視するのか。これを明示的にしていくことは重要だなと感じました。

その7:「オペレーションファースト」であるべきだった

BtoB向けのサービスをやっていると行き着く先はオペレーションでしかないことに気づきます。決定的に差別化を生める何かというのはBtoBでは非常に難しいです。ただ、一つ一つのオペレーションのクオリティの積み重ねは最終的に非常に大きな差になる。サービスの価値の源泉というのはこの一つ一つのオペレーションでしかない。この一年でそれを非常に強く感じております。スタートアップでは何かすごい施策をしなければ。大きな変化を生み出さなければ。そう感じてる人も多いでしょうし、我々もそう感じていました。ただ、最終的にはそこではありません。一個一個の細かいオペレーションをどれだけ高いクオリティでやれる組織になるか。当たり前のことを当たり前にできる組織になるか。これが全てです。だからこそ、毎日オペレーションについて考え、改善しなければならない。何を考えるにもまずオペレーションから。それがオペレーションファーストであり、オペレーションから価値が生まれていることをメンバー全員が理解している組織ほど強いBtoBサービスはないなと感じております。来年はオペレーションファーストのチームを作っていきたいです。

目の前のことに全力で向き合うことが最良の戦略

会社が大きくなったり、組織が大きくなり一番感じていることは、自分が余計なことを考えるようになったということです。余計なこととはより将来のことであったり、ifの世界のことであったり。その可能性が高くなったからこそなんですが、この余計な思考こそが会社を殺す最大の要因なのではと感じております。今目の前のことへの集中度が落ち、間違った場所に思考やリソースを投じたり、目の前の問題を見て見ぬ振りをしたり。そうやって、現場は現場に任せるという間違った言い訳をすることにより事業が壊れていく。こういうプロセスの一端を今年は感じた気がします。スタートアップとはそんなことをしてたら死ぬ小ささのはず。余計なことをしてる暇はありません。とにかく、目の前に集中し続けること。それが生き残るための最良の戦略であるということを学んだ一年でした。それではみなさま良いお年を。