株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

与えた「目標」が機能するたった二つの時

「目標」の正体は何なのか

会社の中にはいたるところに目標が存在する。会社の目標、部署の目標、個人の目標。MBOやOKR、KPIなど目標管理に関する手法・用語も毎日飛び交っている。しかし、なぜ会社組織にはこれほどまでに目標が存在するのか。目標を設定することで上手く行ってる会社と上手くいっていない会社の差分は何なのか。最近は目標を設定することが当たり前過ぎて、きちんと理解できていないこともしばしば。今回はどのような時に目標という概念が有用なのか。つまるところ、目標を「与えること」の効果を考えてみました。

目標を与えること効果

目標を与えることによって得られる効果は主に以下の三つがあると考えます

  • 集中するため
    • 目標が定まることでやるべきこと、考えることの焦点が合い、それに集中することができるようになる
  • 継続するため
    • 目標を追いかけること自体に意味を感じ、物事を継続する、ゴールが見えていることで安心し、頑張ることができる、一度自分で決めたことでそれを否定しづらくなる
  • 修正するため
    • 理想状態があることで、理想との差分を認識することができ、現状の進捗度合いがわかるようになるため、進捗が悪い場合、早期に対処することができる

これを経営という活動に対して当てはめてみると、目標設定の意義は以下のようなものになるでしょう。

「経営において目標の役割とは、ある1時点での理想状態を定めることにより、従業員の意識をそこに集中させ、行なって欲しい活動のみを継続したくなるように仕向け、その活動が正しいかを日々修正することを可能にすること」

つまり、従業員の活動を間接的にコントロールする一つの重要な要素なのです。この目標設定が上手く行けば行くほど、従業員はその達成に集中し、継続し、日々修正を繰り返す。つまるところ、目標とは理想状態への到達可能性を高めるために有用な"環境設定"であり"思考ツール"であるというのが自分が考える目標の正体。目標には二面性あり、他者が目標を与える場合には"環境設定"の要素が強く、自分で目標を設定する際は"思考ツール"の側面が強くなる。経営者が理解しておくべきことは他者が与える目標というのは付与した者の"環境"を定義することであり、それによる影響というのは与えた人が想定する以上の影響を与えることになるということである。

与えられた目標が機能する時

経営における目標において最も注意が必要な点は立場によって自ら設定した目標なのか、与えられた目標なのかが異なるという点です。特にスタートアップでは経営メンバーが全社・部署・個人の目標全てを作ることも多いかと思います。すると、ほとんどのメンバーは目標を与えられた立場になります。この時、その目標を機能させるには以下のどちらかを必ず満たしていなければいけません

  1. 目標の達成自体に大きな意味があると理解できる時
  2. 目標に対して評価がセットの時

目標の達成自体に大きな意味があると理解できる時

一つ目は目標≒目的になる時です。設定された目標を達成すること自体に意味があるとき。何故これが機能しやすいかというと、従業員がよく陥る「自分は何のために頑張っているんだろう??」という自問自答に陥らず、目標達成すること自体に集中することができるからです。そして、目標≒目的になるというのは、別の言い方をすれば、目標を達成した瞬間に、次のステージへと進めたと感じることができることが重要です。例えば、月商1,000万円目指すという目標。もし月商1,000万円を達成することが、収益を安定させ次の新規事業に取り組める条件であったり、次の資金調達を成功させる一つの目安であった場合、この目標というのは達成すること自体で別の何かを可能にする目標になっています。このようなただの1,000万という数字ではなく、その1,000万に意味がある時に目標というのは非常に機能しやすくなります。経営者はこの数字に対するコンテキストを伝えることを努力しなければならないのです。

目標に対して評価がセットの時

しかし、どうしても目標自体に意味を込め辛い時もあります。例えば管理部門の目標だったり、四半期の目標。とりあえず一年後の目標から逆算して出てきた目標では、そこに大きな意味を感じることはできません。そのような時に目標を機能させる残りの方法は、目標に対して必ず"評価"をセットにすることです。従業員は常に正当な評価と小刻みなフォードバックを求めています。その欲望を満たすきっかけに目標を使うのです。目標の進捗・結果に対してしっかりと評価・フィードバックする。これ当たり前のように思いますが、特にスタートアップでは忙しい中でなかなかできていないことも多いかと思います。また、評価自体が形骸化して形式的になってしまっている場合もあるでしょう。その中で目標を与えられる従業員の気持ちを考えると、目標を達成した時には正当な評価がなく、目標を達成していない時は怒られる。この感覚に陥った時に目標という概念自体に嫌悪感を抱き出し、目標の効果が失われます。

目標は諸刃の剣

目標というのはどんな時も機能する万能なものではありません。特にスタートアップでは誤った目標の使い方をした瞬間に、負の連鎖に陥ったり組織が崩壊することもありえる。それほどまでに実は危険を伴った概念だと思います。個人的には目標を上手く機能させられない時は、目標というのを設定せず「ただただ全力で頑張ろう」という空気を作った方が上手くいく場面も多いかと思います(何が成功で、何が失敗かは定義した上で)。目標設定自体が会社の活動を非常に限定させるものであるということは、設定する側はよく理解しておいた方が良いと思います。その中でどのような目標を設定するべきかという問いに対してはそれぞれの会社によって違うでしょうが、共通して言えるのは以下の三つを満たすということです。

  • 目標とは達成するべきものでなければならない
  • 目標とは達成したいと思えるものでなければならない
  • 目標とは達成可能と思えるものでなければならない

そして目標を達成した時、会社のビジョンへと繋がる大きな一歩になると、メンバー全員が思える目標がスタートアップにおける機能する目標だと思います。本来目標というのを「与える」という行為は非常に難しい行為です。他人から与えられた目標というのはそもそも機能しづらい。ただ、それを乗り越える目標を設定し、機能させることこそが、優れた起業家の条件の一つなんだと思います。