株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

OKRってぶっちゃけ使えるの? 〜失敗から考えるOKRの本質〜

最近スタートアップの目標管理でよく「OKR」が使われています。OKRはグーグルやメルカリ等が使っており話題になり日本でも数年前から流行りだしています。詳しくは以下の記事あたりがわかりやすかと思います。

hiromaeda.com

careerhack.en-japan.com

弊社でもSCOUTERサービスをリリース直後、OKRを活用した目標管理を実施しましたが、正直上手く行きませんでした。今回はOKRが上手くいかない時とはどういう時か、OKRを採用する上での注意点等を過去の体験を基に考えてみたいと思います。

OKRが機能しなかった話

弊社で初めてOKRを採用したのはSCOUTERをリリースした直後です。プロダクトがリリースされ部署の構造がはっきりしてきたタイミングで、目標管理を実施したいと考え、方法を模索していたところOKRに巡り会いました。当時メルカリがOKRを採用して1年くらい経っており、当時COOの小泉さんの話を聞いて、弊社でも採用を決めました。しかし、約3ヶ月後にOKRの運用を断念しました。当時の我々には明らかに時期尚早だったのです。

なぜ機能しなかったのか

OKRの良いところはそのシンプルな構造にあります。全社→部署→個人と全ての目標が連動しており、個人の目標の因果がわかりやすい。そして目標自体が非常にシンプルに設定せざるを得ないシステムなので、メンバーそれぞれが自身の目標を理解し、納得し、集中することができる。この観点からスタートアップにとってはMBOよりもOKRの方が適しているという意見が多いかと思います。しかし、この非常にシンプルで、だからこそ集中が可能なOKRだからこそ機能しないタイミングがあります。OKRは半期もしくは四半期ベースで設定して評価をしていく形になります。しかしSCOUTERをリリースした直後の我々にとって3ヶ月間固定で同じ目標を維持すること自体が不可能だったのです。まだユーザーの理解も浅く、日々勝ちパターンを見つける日々が繰り返されている中で、全社の目標を変えるべき瞬間が多々ありました。しかし、OKRをカッチリ構築してしまったが故に、果たして全社の目標を変えるべきが否か、迷ってしまったのです。仮に全社の目標を変えた場合、連動して部署・個人の目標も全て変える必要があります。OKRはシンプルであり全てが明確であるが故に、柔軟性に欠けるということに初めて気がつきました。ここで言う柔軟性とはスタートアップ初期に見られる異常に振り幅の大きい変更に耐えられる柔軟性です。これにOKRを適応させることは非常に難しいのです。

OKRを採用してはいけない企業

以下、経験上OKRを採用することがメリットにならない条件です。どれか一つでも該当するのであれば、OKRのシンプルさというのが逆に大きなデメリットに繋がる可能性もあります。

  • 四半期以上のスピードで全社の方針・戦略・目標が変わる可能性があり、それを変えることが会社にとって適切な場合が多い会社
    • OKRのシンプルさ故に柔軟性が担保できず、運用が困難になります
  • 従業員の人数が少なく一人が複数の役割を担う必要がある会社
    • OKRのシンプルさというメリットを享受できない可能性が高いです
  • 評価・1on1面談等に工数をかける気がない企業、かける余裕がない企業
    • OKRはシンプルだからこそ、ごまかしが効かない目標管理です。目標に対する結果が出た時にそれを正しく評価すること、結果が出なかったメンバーに対するフォローに工数をかけられない場合、逆にOKRのシンプルさはメンバーの不満が出るきっかけになってしまいます

山田的OKR総論

  1. OKRの特徴はシンプル・連動性・目的志向
    • OKRは何度も言っておりますがとにかくシンプルです。シンプルであるからこそのメリットもあればデメリットもあります。そしてOKRの目標は全社目標から全て連動して設定されます。故に、全社の目標が変われば下の目標も全て変わっていきます。最後にOKRはObjectiveから考えるという目的志向です。目標管理は定量化が基本である中であえて、定性的な表現と定量的な表現をセットで設定させるOKRは運用重視の大企業ではなく、創造重視のスタートアップに適していると言えると思います。
  2. OKRを採用すべきタイミングはシリーズA終わったあたりがベスト
    • OKRは上記の特徴がある故に、運用を間違ったら非常に多くのデメリットを享受する可能性があります。会社の方針がどの時間軸で変遷していくべきなのか、社内に人事機能があるか等を鑑みるとシリーズAの調達が終わり出した頃から少しずつ運用を始め、半年くらいかけて試行錯誤を繰り返して行くあたりが適切な導入時期のように思えます
  3. OKRは経営者の力量に依存する
    • OKRを採用して改めて実感したのは、非常に経営者の力量に依存する目標管理手法だということです。OKRでは直属の上司よりも経営者の初期設定の方が重要です。それは常に連動性を伴っているからであり、最低でも四半期は全社目標が常に正しい設定だと従業員が理解できる目標を設定しなければなりません。連動性があるからこそ、全社と個人が切り離されていないので、経営者の力量がOKR運用の成否に大きな影響を与えます。
  4. OKRは万能ではないが、「目標設定」という活動における理想形
    • 当然ですがOKRを採用したからと言って、経営が上手くいくわけではありません。上記で説明した通り、企業の状況や経営者の力量によって採用すべきか否かは別れます。ただ一つ経営者として認識すべきはOKRの構造というのは「目標設定」という意味ではかなり理想に近いものであるということです。近代経営において経営者と従業員という関係性は崩れてきており、主従関係ではなくフラットな関係性に近づいてきています。その中で、従業員はただ与えられた数値目標を達成する駒でもなければ、目標の意味を理解できない馬鹿でもありません。企業としての共通の目的に共感し、その目的を達成するための同志であるのが、近代経営における従業員です。その関係性を体現するためにはOKRの構造を持った目標設定というのは非常に優れているため、経営者はできる限りこの構造を目指すべきだとは思います。

結論:なぜ目標管理をしたいかから考えよう

OKRはあくまでも目標管理の一つのスキームでしかありません。このようなスキームを使いこなすためには、そもそもなぜ会社として目標管理をしたいのかから考えるべきです。目標を設定することが当たり前と思っている方も多いかと思いますが、目標を設定しない方が上手くいく時だって場合によってはあります。

*目標管理の目的等に関して、詳しくは前回書いたこちらの記事をご参照ください

故にそもそも何を目的に目標管理を行うのかをしっかりと考慮した上で、どのスキームを採用すべきかを検討すべきです。くれぐれもグーグルが使っているから、メルカリが使っているからという理由でOKRを採用するのはやめましょう。我々のように痛い目に合いますので。