株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

【スタートアップ原則シリーズ】1.全ては「順番」で決まる

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スタートアップをやっていると幾多の失敗を繰り返します。これは避けられないことで、個人的にはさっさと失敗できて良かったと思うようにしております。ただ、その中で重要なのは同じ失敗を繰り返さないことであり、自分としても忘れないように「スタートアップの原則」として記していきたいと思います。全てのスタートアップが参考になる、普遍的な内容を目指してまいります。

全ては「順番」で決まる

これまでのSCOUTER社を振り返った時に、最も大きな失敗はあらゆる「順番」を間違えたなということです。一つ一つの物事に対する取り組み方が悪い訳ではないのに、なかなか上手くいかないという時期が長い期間ありました。その一番の要因がなんだったかと考えると「順番」だったわけです。順番は日常用語では「優先順位」という言葉がよく使われますが、ここで言う「順番」はもう少し広義の意味です。例えば、どういう事業から始めるか、どういう人材から採用していくか等も含めて、スタートアップにおける全ての行動の「順番」のことを指しています。この順番を間違えることが、全ての努力を無力化することに繋がってしまうため、経営者の一番重要な仕事だと思います。特にスタートアップの経営者はこれを間違えると死に直結します(そもそも与えられている制限時間が短いため)。それを痛烈な言葉で表現しているのが以下の言葉です。スタートアップが破綻する最大の理由をこう説明しています。

スタートアップは単に「お金が足りなくなる」のではない。そうではなく、彼らはお金がある間に、問題に対処することをずっと怠っていたのだ。失敗が先に起きるのではない。創業者が手遅れになるまで問題を自己正当化し続け、最も深刻な課題に対処するのを避けたときに失敗は起きる。

jp.techcrunch.com

最強の戦い方は各個撃破

「順番」の原則における最も重要なことは「各個撃破」という戦い方を基本とすべしということです。何かの問題を解決したり、強い敵を倒すためにスタートアップができる唯一のことは、一つの対象物に集中するということです。これは戦の基本中の基本です。弱い者が強い者を倒す最善の方法は一人を全員で殺しにいくこと。それを何回も繰り返せば、いつの間にか敵は全滅しているのです。過去の戦争の勝敗の要因や戦略を学ぶとそれがよくわかります。以下の記事は背景等がなくてもわかりやすく説明されております。

ミリオタでなくても軍事がわかる講座 - 戦闘の原則その三・「集中の原則」って何?

経営も同様であり、一つの問題に徹底的に取り組み、解消したら次の問題に取り組む。この各個撃破こそが成長を最も早める戦い方であるにも関わらず、どうしても色々な対象に分散させてしまう。SCOUTER社でも何度もそのようなことが起きていました。その理由を考えるとだいたいは、以下の三つのどれか。

  1. 順番をつけることに時間を使っていなかった
  2. つけた順番に納得していないメンバーがいた
  3. 1位以外のものは取り組まなくて良いと言えなかった

戦場において、誰をターゲットにするかを決めない。ターゲットに納得いっていない。ターゲットを狙いつつも、他の人も倒しにいけと隊長が言っている。こんな状況で戦力が少ない自軍が勝てるわけがありません。ただ、そのことに理解はできても、実行するのは非常に難しい。それは「順番」をつけるという行為に本当に真剣に取り組む人が実はとても少ないからです。

「順番」をつけることは恐怖との戦い

なぜ、順番をつけることを人は避けるのか。その理由は順番をつけることが心の中の恐怖を増加させることに繋がるからです。なぜなら順番がつくと、順番が低いことはどうしても取り組みが弱くなる。放置することになる。それに対しての不安や恐怖を心の中で拭うことがなかなかできないのです。この恐怖を乗り切る心の強さのことを僕は「胆力」と言うのだと思います。経営は論理だけで上手くいくゲームではありません。このような心の不安・恐怖との戦いに勝たなければいけない感情のゲームでもあるのです。

「順番」を考える四つの視点

では、スタートアップではどのように順番をつけていくのが適切なのか。スタートアップにおいて最も重要なことをどうやって導き出せば良いのか。その精度を上げる能力自体は経営者自身の試行錯誤と失敗の積み重ねが重要だと思いますが、これまでのSCOTER社を振り返ると以下の四つの視点を持っているべきだったと学びました。

  1. バリューチェーン
  2. ボトルネック
  3. 連続性
  4. 資産性

1.バリューチェーン

一つ目はバリューチェーンの先端の方が重要性が高いということ。我々はサービスを通して何かしらの「価値」を提供しているわけで、それはサービスの提供するバリューチェーンを通して徐々に価値が形成されていきます。このバリューチェーンは全てのプロセスを通って顧客の元に届かないと意味がないわけで、スタートアップの事業において一番良く起きる問題は、顧客まで価値が届ききってないと言うことです。SCOUTERでも一番最初にユーザー獲得に注力して大きな失敗をしました。ユーザー獲得とはバリューチェーンの一番最初であり、最も価値提供から遠いところにあります。ユーザー獲得を改善したところで、その先のバリューチェーンが上手く機能しなければ何の意味もないわけで、KPI主義の機能不全が起きる理由もここにあります。事業としての価値はバリューチェーンを全て綺麗に通った先にある顧客に届いた価値のみである。なるべく顧客の成果/価値に近い部分から改善を行うべきなのです。この視点に関してはグロースハック領域の誤ったフレームワーク利用の事例が一番参考になるかと思います。以下の記事にそれがよくまとまっております。

growiz.us

2.ボトルネック

二つ目はボトルネックから手をつけるということ。当たり前のように思えますが、意外とこれが難しいものです。「自社の最大のボトルネックはどこですか?」という質問に社員全員が同じ回答になるでしょうか?おそらくほとんどがならないと思います。それほど実はボトルネックが「認知」によって形成されており、「事実」に基づいて形成されているわけではないのです。ボトルネックは元来、製造におけるサプライチェーンマネジメントという領域において発達してきた概念であり、製造の世界では全てのサプライチェーンのプロセスを数字化するのが当たり前になっているわけです。だからこそ、ボトルネックは常に自明のものであるという前提が成り立ちやすいのですが、これをインターネットサービスに持ち込むと簡単ではないわけです。サプライチェーンの経路も多種多様であり、全てのユーザー行動を数字化することも初期のスタートアップでは困難な場合があります。その中でボトルネックは自明ではないわけで、社内での認識の擦り合わせが必要になるのです。これをやらないと、全員の認識がずれ誤った順位がつくことが多々あるわけです。そのため経営者は以下の二つのことをする必要があるのです。

  1. できるだけ早くボトルネックが自明になるようバリューチェーンの数字を可視化する
  2. サービス内のボトルネックが何か常に明確に言葉にし、メンバーに伝える

スタートアップ領域における名著である『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント』のメインの主張もここであり、マネージャーの効果を最大化するためにはボトルネックを明確にすることが重要であることを教えてくれます。

studyhacker.net

3.連続性

三つ目は連続性です。連続性とは「AがあるからBが成り立つ」「AがあることによってBはより効果を発揮する」というような、独立して機能することが難しい性質のことを指します。スタートアップ経営はストーリーを紡ぐことであり、個々の事象は小さくても、一連のストーリーになること、断絶しない連続性を獲得し続けることが、指数関数的な成長を生み出す重要な要素です。例えばプロダクト開発において、単体ではAという機能の効果が高そうであったとしても、それはBという機能が使われていることによってより効果が高まるのであれば、まずはBの機能を使ってもらうことに注力すべきなわけです。このような、連続性を獲得できるロードマップを引くことは、経営者の重要な仕事であり、連続性を無視したぶつ切りの活動は大きな無駄に繋がります。

4.資産性

最後は資産性。その活動がどれだけ今後の資産になるかという観点です。短期目標を追いすぎるとどうしてもこの資産性が乏しい活動ばかりに焦点が当たりやすくなります。SCOUTER社でもまさにこれを幾度となく体験しました。「今月の目標を達成する」ために行うことは資産に繋がらない行動。しかし、確かに最も早く今月の数字が上がりそうな施策なわけです。そしてメンバーは与えられた目標を達成することに重きを置くわけなので、この状況で資産性を考えろと言われても無理なわけです。そのため、経営者は目標を少しロングスパンで設定したり、資産性が乏しい施策は行ってはいけない等、明確な方向性を打ち出す必要があります。

四つの視点で社内リソースについて考えてみる

最後に、上記四つの視点について具体的な例を用いて考えてみたいと思います。これまでSCOUTER社では「常にリソースが足りない」という問題を抱えていました。これに対して四つの視点を基に以下の「順番」で取り組もうと決定しました。

  1. 今いるメンバーのパフォーマンスを最大化する
  2. 入社直後のメンバーがパフォーマンスを出せるまでの期間を最短化する
  3. 採用の失敗確率を最小化する
  4. 内定後の入社承諾率を最大化する
  5. 母集団を最大化する

これまでは「リソースが足りない」という問題に対して真っ先に採用だ!!という意思決定になり、何人採用できるか、そのためにどれだけ候補者にアタックできるかを最重要視していました。しかし、よくよく自社の状況を見回すとボトルネックは採用ではなく、今いるメンバーが100%機能しきっていないことによる、一部のメンバーへのしわ寄せが起きていることや、採用しても活躍できないまま離職してしまうという「入社後」でした。バリューチェーンの視点で考えても、このリソース足りない問題の価値は「リソースが足りてる」「業務が問題なく回っている」という状況なのであり、メンバー数ではありません。そして、採用というのはあくまでもフローであり、資産性があるわけではなく、会社としての資産は入社後のパフォーマンスをどう上げていくかや、採用を失敗しないためにはどうすれば良いのかという制度やノウハウの部分にあると判断しました。そしてこれらの連続性をロードマップにまとめると、上記の順番で取り組むのが現状は最適だろうと判断したわけです。

経営者は「順番」を決めることに一番時間を使うべき

「順番」が決まると、その順番に基づいて全ての時間が消費されることになります。それほど、順番というのは重要な概念です。また、「順番」が決まっていない時は、全てが混沌となり全員のフラストレーションが溜まり、組織は空中分解します。故に、経営者に最も求められることは、最も成功確度が高いと思われる「順番」を決め、その順番を全てのメンバーに理解してもらうようコミュニケーションを取ることなのです。そのことを忘れ、順番を間違えたことによる失敗は全て経営者の責任であり、メンバーを責めることはできません。なぜなら、スタートアップで頑張るメンバーの頑張り方はそれは異常なものであり、当たり前に全員頑張っており、全員努力しており、全員が本当に成功を願っているので。それを成功に導けるかどうかは全て経営者の責任なのです。