株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

人材紹介にAIが導入されて誰が幸せになるのか

はじめに

先週SCOUTER社ではAI構文解析技術を持つ英国DaXtra社との業務連携を発表しました。詳細は以下となっております。

prtimes.jp

しかし、この提携が一体何を意味しているのか、誰にどんなメリットが生まれるのか人材紹介を詳しく知らない方からよくわからないというお言葉をもらったため、ブログにて非公式ではありますがなるべくわかりやすく説明することを試みたいと思っております。あくまでも本内容は個人的な理解であり、考えであることを前提に読んでいただければと思います。今後のSCOUTER社の動きを保証するものではないことご了承いただければと思います。

AIは人材紹介の何を変えるのか

さて、「AI」という言葉が出てきてしまいました。この言葉、本当に厄介でございます。厄介な理由はいくつかあるのですが、主には「AI」という単語の意味が広すぎること、また単体ではほとんど何も意味をなさないことが要因かとは思います。「AI」単体のみで大きな意味を持つのはまだ当分先の話で、現代では「AIをどのように活用するのか」がセットとならないと意味のある話になりません。ただ、それって非常に専門的な話になってしまうので、なかなか汎用性のある話にならず、一般的な理解ではAI=すごい技術くらいにしか理解できないものはしょうがないのかなと思います。ただ、今回は上記のような困難があることは承知の上で、人材紹介とAIの関係について説明してみたいと思います。

そもそも、人材紹介というのは何をやっているのかという話から始めます。人材紹介には「エージェント」という存在がいます。よくプロ野球選手とかサッカー選手が移籍するとき仕事をする人たちをイメージしてもらえれば良いかと思います。選手が希望するような条件のチームを探して、条件を交渉する人のことです。なぜ彼らはエージェントを使うかと言えば、彼らはプレーをするプロであって、あくまでも交渉とかチーム事情には詳しくないわけで、選手たちが最適なチームでプレーできるようにお手伝いする人たちが必要なわけです。で、それって転職でも同じだよねっていうのが基本的な「エージェント」の役割かとは思います。働く人は自社の会社以外のことはあまり知らないわけで、詳しいエージェントが代わりに希望条件に合う企業を紹介していきます。また、それと同時にエージェントは企業側から"こんな人が欲しい"という依頼が来ておりますので、その希望とも合っているのかを確認し、マッチする両者を繋ぎ合わせるのが仕事となっております。

つまり、転職者と企業両方の希望がマッチするように繋ぎ合わせるのがエージェントの仕事となります(故にマッチングビジネスと呼ばれております)。この役割を前提として、エージェントの仕事のフローを簡略的に図にしたものが以下となります。

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人材紹介における「AI」の意味を理解するには、エージェントのワークフローとセットで考えなければいけません。あくまでもAIはこれらのフローのいずれかを「代替」あるいは「簡略化」するために存在するのです。では、AIはエージェントのワークフローのどこに影響を与えるかというと、個人的には二つあると思っています。

一つ目は「インプット」という活動です。エージェントは転職者の様々な情報をデータとして登録していきます。その理由はいくつかあるのですが、やはり全てを記憶できないからが最大の理由かとは思います。転職者の経歴や聞いた内容を全て記憶していくのは至難の技です。なぜならエージェントは毎月数十人の転職者と会うので。なので、必ず転職者の情報は何かしらにインプットしてデータとして溜めておく必要があります。そして、それが大量に蓄積されれば、過去の傾向や売上との相関等も分析できるようになり業務改善を行うことが可能になっていきます。ただ、このインプットすごい大変です。要は転職者の仕事に関する情報ほぼ全てをインプットしなければいけないわけで、これまでのエージェントというのはそれらを頑張って手打ちするか、データ化することを諦めて紙にメモ書きするかのどちらかが大半だったわけです。ここでAI(本件はDaxtraというソフトウエア)の登場です。転職者の情報として最も重要なのは経歴やスキル情報となります。そしてそれが記載されているのが履歴書・職務経歴書と呼ばれる情報です。この書類の厄介なところは全員書き方がバラバラなところなのですが、AIはその書き方の違いを学習しながら同じ形式でデータ化していくことができます。人間の記述の癖やパターンを勉強していき、必要な情報を適切に判断し、使いやすい形に再編集してデータ化してくれるんです。これは人材紹介において大変大きな変化となります。これまで諦めていた、もしくは多大なコストがかかっていた転職者の経歴・スキル情報をデータ化することができる。AIはエージェントの「インプット」活動を大きく簡略化していっております。

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二つ目は「求人選定」という活動です。双方の希望をマッチさせる人材紹介における肝となる活動です。この「求人選定」がAIになってしまったらエージェントって要らなくない?って思われる方もいるかもしれません。ただ、個人的にはAIが「求人選定」の全てを正しく行うことは難しいと考えております。エージェントにおける求人選定というのは主に二つの活動で構成されます。「絞り込み」「選択」です。つまり、大量の求人の選択肢の中からある程度条件に合ったものを「絞り込み」、その中から転職者に最も合っているであろう求人を「選択」して紹介します。これ、エージェントの頭の中ではどうなっているかというと、

「この人の経歴と希望なら、あそこらへんの会社群が良いだろうな。えっと会社で言うと、AとBとCとDとEか。うーん。この中だったら、BとDが一番合ってそうだな。」

って、思考回路になってます。エージェントは過去の経験や知識を活用して、筋の良い絞り込みをし、選択肢をある程度絞り込んだ上で最適な求人を選択します。ただ、問題は「筋の良い絞り込み」なんです。これ、誰にでもできるわけじゃないんです。俗に言う経験が必要ってやつです。しかもエージェントが活用する求人は年々増加傾向(求人ニーズの上昇や求人管理コストの低下等理由は複数あります)にあり、そもそもの選択肢も増え続けています。故に絞り込みをするのがどんどん難しくなってきているし、コストも上がっている。かつ、そもそも筋の良い絞り込みを全員ができるとは限らない。これがエージェントの「求人選定」に関する大きな課題でした。しかし、ここにAIに入ることによってAIが筋の良い絞り込みを「代替」できるようになります。AIは転職者の希望条件/過去の経歴やスキル情報と求人側の条件等の情報をマッチング。そこに過去の選考情報等を加えて分析することによって、現実的に内定の可能性がある求人の中で、条件にマッチする求人を絞り込むことができます。その中からエージェントは最も適切な求人は何かを考え、最後の「選択」を行うことで優れたエージェントの仕事を一般化させることを可能にできるかもしれないのです。

こうなると、AIが最後の「選択」まで行えば良いじゃんという意見もあるかと思います。ただ、それは現状危険だなと思っております。それは転職という意思決定には多くの人間が絡むからです。人間というのは常に非合理的な存在です。人間が複数人関与すれば、それらの活動には必ず揺らぎが生まれます。この揺らぎをAIは捉えることは現状できません。なんとなく、こっちの方が良さそう。なんとなく、この会社の人事は気に入ってくれそう。この「なんとなく」が人間が人間たる所以であり、AIには代替しづらい部分であります。エージェントってそんなテキトーなのと思われるかもしれませんが、人間が究極まで突き詰めると結局は説明不可能な「なんとなく」に行き着きます。全ての意思決定に合理的な理由があるわけではありません。そして、それは人生を左右する意思決定であればあるほどです。だからこそ、最後は「なんとなく」でしか決められないのだと個人的には思っております。

ここまでの内容をまとめると、AIは人材紹介において以下の三つに好影響を与えます

  1. 「インプット」活動を大幅に効率化する
  2. 「求人選定」活動における絞り込みを効率化する
  3. 「求人選定」活動における筋の良い絞り込みを汎用化させることができる

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エージェントにとって、AIは自らの仕事を効率化し、エージェントの能力を補完しながら高水準なレベルのサービスを提供できるようにするために非常に重要な存在であることがわかると思います。ただ、ここまでの話ではAIが幸せにしているのはエージェントのみとも言えます。ここにAIと人材紹介の危うい未来が隠れています。

誤ったAI導入は転職者を不幸にする

AIは確かにエージェント業務を大幅に効率化します。エージェントはこれまでの仕事を半分の時間でこなせるようになるかもしれません。ここ5年で上記の効率化は確実に実現していくでしょう。では、エージェントは効率化され余った時間は一体何に使うのでしょうか?この時間の使い方次第では、エージェントだけが幸せになる未来が生まれてしまうかもしれません。そして、その未来は転職者を今よりも不幸にするかもしれません。

どういうことか。エージェントが仮に余った時間でこれまでの二倍の転職者をサポートする場合どうなるか想像してみてください。確かにエージェントの売上はそれで二倍になるかもしれません。しかし、これでサービスのクオリティは上がるのか。転職者にとってより良い転職体験に繋がるのか。それは否です。エージェントがAIを導入することによって、対応する転職者の量を増やす方向に走った場合、それはエージェント同士の転職者確保競争が加速し、転職者を囲い込むための無意味な活動に勤しみ、転職者はこれまで以上に多くのエージェントがうざったい連絡が来るようになり。求人企業はより多くのエージェントと契約を結ばなければいけなくなります。エージェントの"量"を増加させる傾向は、転職者を不幸させる最大の要因であり、AIがその起爆剤になってしまう可能性があるのです。その成れの果てはエージェントが全てをAIに頼り、AIの指示通りに転職者を支援する未来です。なぜなら、それが最も効率的で量をこなせる方法だからです。ただ、その臨界点が来た瞬間にエージェントの存在意義は0になります。エージェントは既得権で守られなければ生きていけない、中間業者でしかなくなります。AIの誤った導入は転職者を不幸にし、ひいてはエージェントという存在を消滅させることにもなりかねないと思っています。

エージェントの存在理由とは

僕らは「SCOUTER」というサービスを運営しています。個人がキャリアアドバイザーになって活動することができるサービスです。この「SCOUTER」の運営を通して、エージェントの存在理由を深く考えさせられますし、我々はそこに向き合い続けて来ました。これだけ、技術が発展した世界において、人間にしかできないこととは何なのだろうかと。エージェントとはなぜ必要なのだろうかと。そしてその中で僕個人が行き着いた答えは「"人を想う"ことが"人を動かす"」のではないかということです。僕らの世界には無数の選択肢が広がっています。正直真っ当に選び続けることなんでできません。この世界には常に「もし〜だったら」というパラレルワールドが存在しています。そして、それが僕らの決断を邪魔します。不安になり、怖くなります。人間は後悔したくない生き物です。だから身動きが取れなくなってきます。そこから抜け出すにはその「選択した、もしくは選択せざるを得なかった自分を肯定する」しかありません。選択とは、意思決定とはそういう活動です。そして、「人の想い」はその活動の背中を押してくれます。エージェントの存在理由は最後そこにあるのだと思っています。転職者のことを「想う」ことで、転職者の背中を押す存在。それは常に正しい選択とは限らないかもしれません。間違うこともあると思います。ただ、その時の転職者の「自分」を肯定できるように「想い続ける」ことがAIにはできないエージェントの仕事なのだと思います。

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SARDINEが描くAI×エージェント

SARDINEはエージェントの業務支援を行うサービスです。そして、SARDINEにAIを導入することを決めました。それは、僕ら自身の意思表示でもあります。SARDINEは人材紹介に誤ったAI導入をしないことを誓うということを。正しいAI導入ができると確信したからこそ、導入したということを。SARDINEがAIを導入することで上記で説明した好影響は全て実現するでしょう。

  1. 「インプット」活動を大幅に効率化する
  2. 「求人選定」活動における絞り込みを効率化する
  3. 「求人選定」活動における筋の良い絞り込みを汎用化させることができる

エージェントには必ず時間の余裕が生まれるようになります。そして、常に「筋の良い」絞り込みを全てのエージェントができるようになります。問題はその後です。SARDINEが描く未来のエージェントはその時間を更に転職者と向き合う時間に使います。一人当たりの対応時間を増やすのです。そうするからこそ、転職者にとって納得のできる転職を実現できる可能性を高めることができます。転職者にとって、筋の良い求人(受かる可能性があり、条件にマッチする求人)が紹介される世界は確実に来ます。それが"どんなエージェントであっても"です。そしてそれに加えて、そもそも転職をするべきなのか、どんな転職にすべきなのか、最終的にどの企業に行くべきか、人生をどう充実させていくのか。これらの論点を時間をかけて納得のいく答えを見つけていくことにエージェントは時間をかけられるようになります。転職者にとって「求人」を提案する存在から、「人生の喜び」を提案する存在へと変化していくことなんだと思います。SARDINEというサービスはその流れを加速化させるためのサービスです。SARDINEはエージェント支援を通して、転職者を「想い」、転職者の「幸せ」の手助けをできればと思っております。

SARDINEについてのお問い合わせはこちら

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