株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

COOセッションへのご招待

「COOセッションの開催をここに宣言します」

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皆様に対してCOOセッションへのご招待としてお手紙を書きたいと思い筆を取っております。COOブログを定期的に書き始めてからはや半年。なぜこのような活動を始めようと思ったのか、そしてこれから何を仕掛けていくつもりなのか。山田のあくまでも個人的な想いとなりますが、COOとして5年。COOブログを書いて1年。最近は多くの方々とお会いする機会をいただいた中で湧きてできた感情をしたためたものとなります。

なぜこれほどまでにCOOというのは透明な存在なのか

COOというのは一体何者なのでしょうか?僕が出会ってきたCOOは全員がこの問いに悩んでいました。そして、なぜこれほどまでにCOOという存在は話題ならず、コミュニティがなく、お互いを支え合っていないのでしょうか。COOという存在は一般的には経営を執行する最高責任者となります。それは言葉を変えれば"ビジネス"という範囲において最高の責任を持っており、No.2であることも非常に多い役職であります。そして、スタートアップにおいてNo.2という存在は極めて重要な存在であるというのが山田の認識です。CEOは夢を語ります。全員を未来へ連れて行こうとします。全員をやる気にさせ、人間としての限界を越えようとします。しかし、そこには必ず"現実"が立ちはだかります。その現実に向き合い、乗り越え、CEOの夢へと下から押し上げていくのがCOOだと僕は理解しています。組織が壊れるのはCOOの責任、マネタイズできないのはCOOの責任、会社が潰れるのはCOOの責任。これら経営において重要な事柄の多くはCOOが命運を握っていると言っても過言ではありません。にも、関わらず何故これほどまでにCOOに関する情報がないのか。僕は毎回Google検索に絶望します。欲しい情報がない。同じ悩みを抱えていた人はいないのかと。そして、それを解決した人はいないのかと。CEO同士はお互いに支え合う。CTO同士は技術情報を共有し合う。CFO同士は専門知識を共有し合う。なぜCOOはないのか。理由はそれなりに分かっています。でも、それは乗り越えられる理由だと思ってます。COOが余計な言い訳をやめ、ただ必要なことを、CEOのように理想を語り合いながら少しずつ積み上げていけばCOOだってお互いに切磋琢磨できるコミュニティを創れるはずです。

僕は素敵なCOOたちとセッションがしたい

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COOは常に異なる課題を抱えます。会社が変化すればCOOの役割や解決すべき問題は変化していきます。だからこそ、"即興"でいいと思ってます。COOが自由に表現する空間。その存在こそが、体系化しづらいCOOという領域において一つの光を差し込むと思ってます。体系化は後で良い。僕らは後から体系化することができる。それよりも先に"即興"で経営というものを表現しあう。そんな空間があっても良いのではないか。COOが舞台の真ん中に立っている空間があった時、世の中が少し変わる気がしている。これは論理的な解ではありません。ただ、そんな気がするんです。COOとして珍しい欲望です。だから、僕は即興のセッションにこだわりたい。

COOセッションが行き着く先

COOセッションの目的はスタートアップエコシステムの繁栄です。よく思うんです。「みんな起業をしろ」と言う。でも、みんな仲間探しで苦労している。何故か。みんな社長になろうとしているからです。そして、素敵なCOOが見つからない。経験のあるNo.2がいない。そんな問題にスタートアップはぶち当たっています。僕の持論は「スタートアップの成功確率はNo.2で決まる」です。どこまで大きな存在になるかはCEO次第ですが、少なくとも一定の成功に到達するかどうかはNo.2次第だと思っています。だからこそ、No.2やCOOというポジションにつく人材はこれからどんどん求められる存在になります。このままいったら深刻な不足状態に陥るでしょう。だからこそ、このセッションを通してCOOって良いなって思ってもらいたいし、COOにはCOOとしての知見がたくさんあるので、それを共有していける場にしていきます。COOを増やし、COOとしての成功確率を高めることによって、日本の全体のスタートアップ成功確率を上げる。それがこのセッションが行き着く、眩しすぎる未来です。

COOはたくさんの"失敗"を知ってる。だから、それを晒す

COOは会社全体を最も俯瞰して見ており、最も失敗を見る人間です。そして、ほとんどの失敗は自分が関与しています。だからこそ、COOはそこから多くを学び成長していきます。CEOは会社の顔です。そんな簡単に自社の失敗を言いふらす事は出来ません。あまりしたくもないでしょう。でも、どんなに上手くいっているスタートアップでも失敗の山を積み重ねています。そして、その失敗から多くを学び取っています。だからCOOセッションではそれを晒していきます。第一回のテーマは「成長の裏に隠された"大失敗"から学ぶ実践経営論」です。

最後に

かっこつけましたね。なんか色々と書いたのですが、本当の目的をお伝えします。それは山田が個人的にできるだけ多くのCOOの方と出会いたかった事、そしてそこに興味を持ってくれるような方がSCOUTER社に興味を持ってもらいたかったから、今回の企画は立ち上がりました。主催はSCOUTER社です。そのためSCOUTER社にも価値が還元できる形で運用していく事は間違いありません。COOセッションの参加者から未来のSCOUTER役員が生まれる事を心から願っております。ただ、そうは言ってもそれは随分先の話でしょう。なので、とりあえず楽しみたいと思います。皆様と一緒に唯一無二のセッションを創り上げ、一緒に楽しめていければと思います。興味ある方はぜひセッションにお越しください。

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主催者:株式会社SCOUTER COO 山田浩輝より

COOが伝えたい事業責任者に求められる5つの視点〜僕はこうして事業責任者になった〜

はじめに

これまで会社を経営してきて約5年弱。僕が一番成長できた瞬間というのは新規事業である「SARDINE」を立ち上げ、事業責任者として軌道に乗せた期間でした。今、COOとして自分の存在価値を出せているのも、まさしくこの経験があったからでしょう。事業責任者を経ずに今もCOOとして仕事をしていたのであれば、これから先の会社の成長に対して適切な価値を出せるようになっていたか疑わしい。それほど、僕にとって「SARDINE」を立ち上げるという経験は重要な経験となりました。そして、それと同時に事業責任者というものの難しさも感じた期間でした。事業責任者という立場はそれ以外のポジションと比べ非常に差分が大きいポジションになります。経営者と従業員という乖離が最も大きな差分であることは間違い無いですが、その次に大きな差分こそが事業責任者とそれ以外の事業従事者だと思います。事業責任者というポジションは必ず1つの事業に1つです。そのため、なかなか事業責任者というポジション固有の知見というのも世の中に多くないですし、事業責任者はマネージャーともまた違います。故に僕自身が事業責任者になったことによって、考えたことや意識したことをまとめてみました。事業責任者に初めてなった人、これから事業責任者になりたいと思っている方々の事業成功に少しでもお役に立てると嬉しいです。

事業責任者とそれ以外の違い

事業責任者というのはそれ以外のポジションと大きな差分があると書きました。それはなぜなのでしょうか。例えばマーケティング責任者になることや、営業マネージャーになること、PMになることと事業責任者になることとはなぜ、これほどまでに勝手が違い、異なる視点が求められるのか。そこには三つの要因があると思っております。

  1. PL責任
  2. 人事権
  3. 経営側とのコミュニケーション

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上記の三つというのは、事業責任者が一手に持つ可能性が高いです。特に組織が大きくなり、権限構造等がちゃんとしていればしているほど。逆を言えば、事業責任者の配下に配置しているメンバーは上記三つが取り除かれた状態で仕事をしている可能性が高いです。それ自体どうなのと思う人もいるかもしれませんが、一般的な組織だと上記を複数人に持たせることはせず、メンバーレベルは自らが抱える目標を達成することに注力してもらうよう設計していきます。よって、これまで上記三つとの接点がない状態から事業責任者になるということは、相当大きな差分を認識しながら、それを早く埋められるように仕事をしないといけません。逆に言えば、上記三つを乗り越え、事業責任者として責任を全うできた場合、それは市場価値のとても高い人材になるということなので、是非とも多くの方々にチャレンジしてもらいたいとは思っております。

しかし、何の考えもなく事業責任者になると、非常に大きな壁にぶち当たるでしょう。そこで、今回は事業責任者になった人、なりたい人に是非とも持っておいた方が良い視点を5つまとめました。それが以下の5つです。

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これらは事業責任者として欠かせない視点だと思いますし、相当意識的に持とうとしないと得られない視点だとも思います。それくらい、メンバーレベルの仕事と事業責任者としての仕事というは質が異なる(優劣があるとはあまり思いません)ということを理解しておくことが重要だと思います。

その1:「時間軸」の視点

一つ目は「時間軸」です。事業責任者というのは、過去・現在・未来全ての時間軸に対して考えを巡らせ、意思決定をしていかなければなりません。現在のことばかりに囚われ、未来を犠牲にしてもいけないし、過去を振り返らずに突っ走るのもダメ。未来のことばかりを考えて、現在を炎上させすぎても潰れる。このバランスを常に時間軸の視点でとっていかなければなりません。そして事業責任者であれば少なくとも3年先までは考えることが求められるでしょう。メンバーレベルの時には長くても1年程度のスパンで物事を考えることが多いと思います。クオーターの目標達成が一番の重要命題のため、クオータースパンでしか考えないということもあると思います。ただ、事業責任者はそれではダメです。いかに未来から逆算できるか。未来を描くことは事業責任者の責務です。今何をやるべきか、3ヶ月後に何をやるべきか、1年後に何をやるべきか。これら全てに理由がないといけません。そして、それが時間軸において整合性が取れていないといけない。この未来からの逆算による物事の順番付けを間違えると、事業全体が壊れます。過去に一度、その辺りをまとめたので詳しくはこちらを。

reno-coo.hatenablog.jp

故に、事業責任者というのは時間軸の視点を持たなければならない。過去・現在・未来全てを捉えた上で、「今」正しい意思決定を常にしていくことが求められます。

その2:「シェア」の視点

二つ目は「シェア」の視点です。ビジネスというのはシェアという陣取り合戦です。しかし、特にスタートアップにいるとそれを忘れてしまうことがあります(おそらくイノベーティブで競合が少ない環境なのが要因なのかなと)。ただ、最初は競合が少ないとしても、もし市場が有望であれば当然競合は増えますし、最終的には市場のシェアをどれくらい取れたのかで、売上も利益も変わります。経営というのは、簡単に言えば市場を決めて、その市場のシェアをどれくらい取れるのかのゲームをしているとも言える。故に、経営者は常にその視点で物事を考えています。しかし、メンバー時代にはシェアの観点で物事を考える時間というのは、非常に少なかったと思います。意識するのは、よほど競争が熾烈なマーケティング部署くらいでしょうか。そのため、事業責任者になったばかりの時はこのシェアの視点がごっそり抜けます。周りがどうかを無視し、自分たちを全ての基準とする。成長するスピードはこれまでの成長率を基準に。全てのスピードが自分たちが出せる最大のスピードから考えてしまう。でも、それでは適切なシェアを取れるとは限りません。いつまでに、どれだけのシェアを取るか。そのためには、どのスピードで成長する必要があるのか。先に決まるのはこっちのはずです。そのスピードに合わせて、成長をさせることが事業責任者の仕事です。自分たちの市場はどれだけの大きさがあり、どれだけのシェアを取れば、どれだけの売上と利益が出るのか。ここに常に思考を巡らせる視点が事業責任者には求められます。

その3:「投資」の視点

三つ目は「投資」の視点です。経営活動というのは常に投資活動です。何かに資金を投入することにより、それ以上のリターンを生むことが経営の基本です。しかし、メンバーレベルにはこの投資の権限が限りなく制限されています。投資を行うよりも、自分の身体を動かせというのが、メンバーレベルに求められていることなんでしょう(これも決して良いことではないですが)。故に、メンバーレベルで大きな投資判断をする機会というのはそう多くありません。ただし、事業責任者になったらこの投資判断ができなければ成功へと導くことは不可能でしょう。正しい対象に正しいタイミングで投資をすることにより、事業の成長スピードを高めていく。その投資はもしかしたら、当月の成果にならないとしても、将来に繋がるのであればそこに投資をする。この「資金」をどう効果的に活用して、将来に対してコミットしていくかが事業責任者に求められる視点です。「現在」に対して、今所有しているリソースの範囲内で対策を考えることに留まってしまったら、事業の成長スピードは高まっていかないでしょう。

その4:「城主」の視点

これまでの三つは意思決定をしていくプロセスにおいての視点でした。しかし、四つ目は意思決定そのものに関する視点です。それは「城主」の視点です。事業責任者というのは城主なんです。その事業というのは、あなたの城であり、あなたが最高責任者なのです。メンバーが見ているのはあなたであり、社長ではありません。そして、社長よりもあなたは自らの城について詳しいはずです。それならば、自分の城の事に関しては城主である、あなたが最終決定すべきです。僕が「SARDINE」の事業責任者になった時、初めて社長に意思決定を介入させない状態を意図的に作りました。これまでは当然最後は社長がという意識がありましたが、「SARDINE」の事に関してだけは手出しをさせない。全て自分が決めるという強烈な覚悟を持ち、実際に立ち上げから半年間は何一つ口出しをさせませんでした。事業責任者になるということは、それだけの覚悟と強い意志が求められます。時間軸・シェア・投資の視点を持ち、自分が限界まで考え抜けば社長よりも適切な意思決定ができるようになるはずです。そして、そうなれないのであれば、あなたが事業責任者になる必要がありません。全ての視点を持っていようが、この城主であるという自覚がないのであれば、全ては無駄になるでしょう。これは決して経営層の意見を無視しろという意味ではありません。経営層の意見も聞いた上で、それでも最後決めるべきは事業責任者であるべきということです。その覚悟と努力ができないのであれば、できる限り速やかに事業責任者を降りた方がいいでしょう。

その5:「存在理由」の視点

最後の視点は「存在理由」の視点です。事業というのは必ず存在理由があるはずです。そこに理由がないのであれば、メンバーが行う活動では仕事ではなく、ただの作業になるでしょう。そして、存在理由を見出し、伝えることは事業責任者の責務です。メンバーの時には意味を与えられていたかもしれません。しかし、もう意味を与えてくれる人はいません。あなたが自分で顧客と向き合い、この事業の意味を見出し、それを伝えていかないといけないのです。あなたの心から出てくる言葉で、直接メンバーに伝えていく必要があります。事業の存在理由は事業責任者の言葉でなければいけない。これは僕自身が自分で事業責任者として事業を立ち上げ感じた、最も大きな学びです。もし、事業の途中で事業責任者に就任した人がいたら、既存の事業のミッションや、存在理由の言葉をアップデートした方が良いと思います。どんなに元々の言葉が良い言葉だとしても、そこにはあなたの想いがありません。あなたは他人の言葉で人を動かせるのでしょうか?メンバーを希望のある未来へと連れていくことができるのでしょうか?必ず自分の言葉で紡ぎ、自分の嘘偽りのない想いを伝えてください。それは事業成功の大きな一助になります。

結論:社長と戦う覚悟はありますか?

事業責任者に就くということはある意味、社長と戦うということなんだと思ってます。僕自身も初めて、社長を無視した期間でした。社長に何を言われても、自分の考えを曲げず、SARDINEという自分が責任を持っている事業にとって最も最善の意思決定をしようと振る舞い続けた期間でした。社長というのは大きすぎる権力を持っています。あなたの脳裏にはその権力がちらつくでしょう。でも、それでも社長と戦い、事業のためになることをやり続ける。その恐怖と戦い続け、事業を成功へと導く。それが事業責任者です。社長の言いなりになってる事業責任者なら、いない方がましです。それはメンバーを混乱へと導くだけです。何が一番大事かをブラさないでください。事業責任者のミッションは事業を成功に導くことであり、事業に価値を付与することであり、顧客に価値を届けることです。そのためには、社長とも戦い続けてください。どんなに辛い時でも逃げないでください。事業責任者として事業を成功に導けた時、その時に見える光景というのは素晴らしいものが待っていると思います。

*社長の皆様のことを悪いように書いてしまって申し訳ありません。あくまでも抽象的な比喩として書いておりますので、どうかお見過ごしいただけますと幸いです

人材紹介にAIが導入されて誰が幸せになるのか

はじめに

先週SCOUTER社ではAI構文解析技術を持つ英国DaXtra社との業務連携を発表しました。詳細は以下となっております。

prtimes.jp

しかし、この提携が一体何を意味しているのか、誰にどんなメリットが生まれるのか人材紹介を詳しく知らない方からよくわからないというお言葉をもらったため、ブログにて非公式ではありますがなるべくわかりやすく説明することを試みたいと思っております。あくまでも本内容は個人的な理解であり、考えであることを前提に読んでいただければと思います。今後のSCOUTER社の動きを保証するものではないことご了承いただければと思います。

AIは人材紹介の何を変えるのか

さて、「AI」という言葉が出てきてしまいました。この言葉、本当に厄介でございます。厄介な理由はいくつかあるのですが、主には「AI」という単語の意味が広すぎること、また単体ではほとんど何も意味をなさないことが要因かとは思います。「AI」単体のみで大きな意味を持つのはまだ当分先の話で、現代では「AIをどのように活用するのか」がセットとならないと意味のある話になりません。ただ、それって非常に専門的な話になってしまうので、なかなか汎用性のある話にならず、一般的な理解ではAI=すごい技術くらいにしか理解できないものはしょうがないのかなと思います。ただ、今回は上記のような困難があることは承知の上で、人材紹介とAIの関係について説明してみたいと思います。

そもそも、人材紹介というのは何をやっているのかという話から始めます。人材紹介には「エージェント」という存在がいます。よくプロ野球選手とかサッカー選手が移籍するとき仕事をする人たちをイメージしてもらえれば良いかと思います。選手が希望するような条件のチームを探して、条件を交渉する人のことです。なぜ彼らはエージェントを使うかと言えば、彼らはプレーをするプロであって、あくまでも交渉とかチーム事情には詳しくないわけで、選手たちが最適なチームでプレーできるようにお手伝いする人たちが必要なわけです。で、それって転職でも同じだよねっていうのが基本的な「エージェント」の役割かとは思います。働く人は自社の会社以外のことはあまり知らないわけで、詳しいエージェントが代わりに希望条件に合う企業を紹介していきます。また、それと同時にエージェントは企業側から"こんな人が欲しい"という依頼が来ておりますので、その希望とも合っているのかを確認し、マッチする両者を繋ぎ合わせるのが仕事となっております。

つまり、転職者と企業両方の希望がマッチするように繋ぎ合わせるのがエージェントの仕事となります(故にマッチングビジネスと呼ばれております)。この役割を前提として、エージェントの仕事のフローを簡略的に図にしたものが以下となります。

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人材紹介における「AI」の意味を理解するには、エージェントのワークフローとセットで考えなければいけません。あくまでもAIはこれらのフローのいずれかを「代替」あるいは「簡略化」するために存在するのです。では、AIはエージェントのワークフローのどこに影響を与えるかというと、個人的には二つあると思っています。

一つ目は「インプット」という活動です。エージェントは転職者の様々な情報をデータとして登録していきます。その理由はいくつかあるのですが、やはり全てを記憶できないからが最大の理由かとは思います。転職者の経歴や聞いた内容を全て記憶していくのは至難の技です。なぜならエージェントは毎月数十人の転職者と会うので。なので、必ず転職者の情報は何かしらにインプットしてデータとして溜めておく必要があります。そして、それが大量に蓄積されれば、過去の傾向や売上との相関等も分析できるようになり業務改善を行うことが可能になっていきます。ただ、このインプットすごい大変です。要は転職者の仕事に関する情報ほぼ全てをインプットしなければいけないわけで、これまでのエージェントというのはそれらを頑張って手打ちするか、データ化することを諦めて紙にメモ書きするかのどちらかが大半だったわけです。ここでAI(本件はDaxtraというソフトウエア)の登場です。転職者の情報として最も重要なのは経歴やスキル情報となります。そしてそれが記載されているのが履歴書・職務経歴書と呼ばれる情報です。この書類の厄介なところは全員書き方がバラバラなところなのですが、AIはその書き方の違いを学習しながら同じ形式でデータ化していくことができます。人間の記述の癖やパターンを勉強していき、必要な情報を適切に判断し、使いやすい形に再編集してデータ化してくれるんです。これは人材紹介において大変大きな変化となります。これまで諦めていた、もしくは多大なコストがかかっていた転職者の経歴・スキル情報をデータ化することができる。AIはエージェントの「インプット」活動を大きく簡略化していっております。

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二つ目は「求人選定」という活動です。双方の希望をマッチさせる人材紹介における肝となる活動です。この「求人選定」がAIになってしまったらエージェントって要らなくない?って思われる方もいるかもしれません。ただ、個人的にはAIが「求人選定」の全てを正しく行うことは難しいと考えております。エージェントにおける求人選定というのは主に二つの活動で構成されます。「絞り込み」「選択」です。つまり、大量の求人の選択肢の中からある程度条件に合ったものを「絞り込み」、その中から転職者に最も合っているであろう求人を「選択」して紹介します。これ、エージェントの頭の中ではどうなっているかというと、

「この人の経歴と希望なら、あそこらへんの会社群が良いだろうな。えっと会社で言うと、AとBとCとDとEか。うーん。この中だったら、BとDが一番合ってそうだな。」

って、思考回路になってます。エージェントは過去の経験や知識を活用して、筋の良い絞り込みをし、選択肢をある程度絞り込んだ上で最適な求人を選択します。ただ、問題は「筋の良い絞り込み」なんです。これ、誰にでもできるわけじゃないんです。俗に言う経験が必要ってやつです。しかもエージェントが活用する求人は年々増加傾向(求人ニーズの上昇や求人管理コストの低下等理由は複数あります)にあり、そもそもの選択肢も増え続けています。故に絞り込みをするのがどんどん難しくなってきているし、コストも上がっている。かつ、そもそも筋の良い絞り込みを全員ができるとは限らない。これがエージェントの「求人選定」に関する大きな課題でした。しかし、ここにAIに入ることによってAIが筋の良い絞り込みを「代替」できるようになります。AIは転職者の希望条件/過去の経歴やスキル情報と求人側の条件等の情報をマッチング。そこに過去の選考情報等を加えて分析することによって、現実的に内定の可能性がある求人の中で、条件にマッチする求人を絞り込むことができます。その中からエージェントは最も適切な求人は何かを考え、最後の「選択」を行うことで優れたエージェントの仕事を一般化させることを可能にできるかもしれないのです。

こうなると、AIが最後の「選択」まで行えば良いじゃんという意見もあるかと思います。ただ、それは現状危険だなと思っております。それは転職という意思決定には多くの人間が絡むからです。人間というのは常に非合理的な存在です。人間が複数人関与すれば、それらの活動には必ず揺らぎが生まれます。この揺らぎをAIは捉えることは現状できません。なんとなく、こっちの方が良さそう。なんとなく、この会社の人事は気に入ってくれそう。この「なんとなく」が人間が人間たる所以であり、AIには代替しづらい部分であります。エージェントってそんなテキトーなのと思われるかもしれませんが、人間が究極まで突き詰めると結局は説明不可能な「なんとなく」に行き着きます。全ての意思決定に合理的な理由があるわけではありません。そして、それは人生を左右する意思決定であればあるほどです。だからこそ、最後は「なんとなく」でしか決められないのだと個人的には思っております。

ここまでの内容をまとめると、AIは人材紹介において以下の三つに好影響を与えます

  1. 「インプット」活動を大幅に効率化する
  2. 「求人選定」活動における絞り込みを効率化する
  3. 「求人選定」活動における筋の良い絞り込みを汎用化させることができる

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エージェントにとって、AIは自らの仕事を効率化し、エージェントの能力を補完しながら高水準なレベルのサービスを提供できるようにするために非常に重要な存在であることがわかると思います。ただ、ここまでの話ではAIが幸せにしているのはエージェントのみとも言えます。ここにAIと人材紹介の危うい未来が隠れています。

誤ったAI導入は転職者を不幸にする

AIは確かにエージェント業務を大幅に効率化します。エージェントはこれまでの仕事を半分の時間でこなせるようになるかもしれません。ここ5年で上記の効率化は確実に実現していくでしょう。では、エージェントは効率化され余った時間は一体何に使うのでしょうか?この時間の使い方次第では、エージェントだけが幸せになる未来が生まれてしまうかもしれません。そして、その未来は転職者を今よりも不幸にするかもしれません。

どういうことか。エージェントが仮に余った時間でこれまでの二倍の転職者をサポートする場合どうなるか想像してみてください。確かにエージェントの売上はそれで二倍になるかもしれません。しかし、これでサービスのクオリティは上がるのか。転職者にとってより良い転職体験に繋がるのか。それは否です。エージェントがAIを導入することによって、対応する転職者の量を増やす方向に走った場合、それはエージェント同士の転職者確保競争が加速し、転職者を囲い込むための無意味な活動に勤しみ、転職者はこれまで以上に多くのエージェントがうざったい連絡が来るようになり。求人企業はより多くのエージェントと契約を結ばなければいけなくなります。エージェントの"量"を増加させる傾向は、転職者を不幸させる最大の要因であり、AIがその起爆剤になってしまう可能性があるのです。その成れの果てはエージェントが全てをAIに頼り、AIの指示通りに転職者を支援する未来です。なぜなら、それが最も効率的で量をこなせる方法だからです。ただ、その臨界点が来た瞬間にエージェントの存在意義は0になります。エージェントは既得権で守られなければ生きていけない、中間業者でしかなくなります。AIの誤った導入は転職者を不幸にし、ひいてはエージェントという存在を消滅させることにもなりかねないと思っています。

エージェントの存在理由とは

僕らは「SCOUTER」というサービスを運営しています。個人がキャリアアドバイザーになって活動することができるサービスです。この「SCOUTER」の運営を通して、エージェントの存在理由を深く考えさせられますし、我々はそこに向き合い続けて来ました。これだけ、技術が発展した世界において、人間にしかできないこととは何なのだろうかと。エージェントとはなぜ必要なのだろうかと。そしてその中で僕個人が行き着いた答えは「"人を想う"ことが"人を動かす"」のではないかということです。僕らの世界には無数の選択肢が広がっています。正直真っ当に選び続けることなんでできません。この世界には常に「もし〜だったら」というパラレルワールドが存在しています。そして、それが僕らの決断を邪魔します。不安になり、怖くなります。人間は後悔したくない生き物です。だから身動きが取れなくなってきます。そこから抜け出すにはその「選択した、もしくは選択せざるを得なかった自分を肯定する」しかありません。選択とは、意思決定とはそういう活動です。そして、「人の想い」はその活動の背中を押してくれます。エージェントの存在理由は最後そこにあるのだと思っています。転職者のことを「想う」ことで、転職者の背中を押す存在。それは常に正しい選択とは限らないかもしれません。間違うこともあると思います。ただ、その時の転職者の「自分」を肯定できるように「想い続ける」ことがAIにはできないエージェントの仕事なのだと思います。

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SARDINEが描くAI×エージェント

SARDINEはエージェントの業務支援を行うサービスです。そして、SARDINEにAIを導入することを決めました。それは、僕ら自身の意思表示でもあります。SARDINEは人材紹介に誤ったAI導入をしないことを誓うということを。正しいAI導入ができると確信したからこそ、導入したということを。SARDINEがAIを導入することで上記で説明した好影響は全て実現するでしょう。

  1. 「インプット」活動を大幅に効率化する
  2. 「求人選定」活動における絞り込みを効率化する
  3. 「求人選定」活動における筋の良い絞り込みを汎用化させることができる

エージェントには必ず時間の余裕が生まれるようになります。そして、常に「筋の良い」絞り込みを全てのエージェントができるようになります。問題はその後です。SARDINEが描く未来のエージェントはその時間を更に転職者と向き合う時間に使います。一人当たりの対応時間を増やすのです。そうするからこそ、転職者にとって納得のできる転職を実現できる可能性を高めることができます。転職者にとって、筋の良い求人(受かる可能性があり、条件にマッチする求人)が紹介される世界は確実に来ます。それが"どんなエージェントであっても"です。そしてそれに加えて、そもそも転職をするべきなのか、どんな転職にすべきなのか、最終的にどの企業に行くべきか、人生をどう充実させていくのか。これらの論点を時間をかけて納得のいく答えを見つけていくことにエージェントは時間をかけられるようになります。転職者にとって「求人」を提案する存在から、「人生の喜び」を提案する存在へと変化していくことなんだと思います。SARDINEというサービスはその流れを加速化させるためのサービスです。SARDINEはエージェント支援を通して、転職者を「想い」、転職者の「幸せ」の手助けをできればと思っております。

SARDINEについてのお問い合わせはこちら

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スタートアップCOOが旅行休暇を取るべき5つの理由

はじめに

先週、一週間お休みをもらって沖縄に旅行に行っておりました。スタートアップなのにそんなに休むのはどうなのかというご意見もあるかとは思いますが、個人的に経営レベルのメンバーがこのような休暇を取るのは推進派でございます。なので、今回は特にCOOという立場の人間がなぜ旅行休暇を取るべきなのか、その理由をまとめてみました。自分としてはこの理由は会社組織やスタートアップというものの構造的なものからくる理由になっていると思っておりますので、どの企業様にも当てはまるかとは思っております。

COOが旅行休暇を取るべき5つの理由

大前提、スタートアップというのは常にハードワークです。一般的な労働の2~3倍(もしくはそれ以上)の労働や生産性を実現することで、通常よりも短い期間で大きな成果を生み出すのがスタートアップなので。問題は「通常より短い期間」と言ってもそれは、「想像以上に長い時間」であるということです。つまり、確かにハードワークが前提だが正しい休息を取れないと、途中で倒れるほどの距離であることもまた事実であるということです。このバランスを組織全体が正しく理解し、ハードワークと休息を両立させることが走りきるために重要になってくると思います。しかし、ここで一人だけ例外の化け物がいます。それが創業社長です。彼らは生活と仕事が完全に一体化しております。なのでそもそも、「ハードワーク」という言葉が不適切な表現だと感じるでしょう。「俺らの人生はハードライフなのか」というご指摘をもらうことが容易に想像できます。それくらい、"仕事"を一般的な人々が認知している"仕事"と認知していない存在がいるのでこの人だけは、休息を取らずとも走り切れてしまう。社長とそれ以外という「ワーク」に対する認識ギャップは組織全体のワークと休息のバランスを崩す一番の原因になる可能性があります。だから今回伝えたいのは「社長が」休暇を取るべき理由ではなく「COO」が休暇を取るべき理由としたのです。社長の休暇は社長個人の問題であり、組織全体に継続的に良い影響を及ぼすとは限りません。社長は行きたい時に行ってください。重要なのはCOOが意図的に休暇を取るべきということです。それは個人だけでなく、組織に対して継続的に良い影響をもたらしてくれると思います。

以下が、COOが旅行休暇を取るべき5つの理由です。

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その1:組織を客観的に観察できるから

物事を中から見るのと外から見るのでは随分異なるものが見えてきます。特に中から見て、想像するものというのは大概間違っているものです。なのでCOOといえど、組織の中に居続けると自分が所属している組織を間違った想像で捉えることがあります。もしくは、見えていない部分があることに気づかないままの可能性があります。なので、旅行を通して自分を"擬似的"に組織の外に連れ出すことで客観的な観察ができるようになります。旅行に行った際は仕事系のメッセージの通知は全てオフにします。そして見るとしても一日に一回まとめて確認する程度です。すると、日々大量の情報がフローで入ってくる時には気づかなかった部分が見えてくるようになります。コミュニケーションの偏り、情報量の偏り、明らかに議論が不足しているまま結論がでたこと、一週間で自分が想像した進捗との乖離。このような組織の弱い部分が見えるようになるのです。頭の中の意識を変えてもこのように組織を客観的に見ることはできません。そこには必ず身体という物理的な距離と、情報との十分な距離というものが必要です。それは一週間程度の旅行というのがぴったしなのです。

その2:自己不必要性を認識できるから

COOは「組織にとって必要なこと全て」を行うことが仕事です。ただ、それが故に二つの副作用があると思ってます。一つは自分がやらなくても良いことまでやってしまうということ。仕事の処理能力が高いため、大量の仕事を抱えてもこなすことができてしまう。それゆえに下に回すべき仕事や、本来必要のない仕事を自分でやり続けてしまうということがあります。それは部下の成長にも繋がらないですし、組織としての生産性も上がりません。二つ目は自己認知として「俺すげー」と勘違いしてしまうこと。この会社は俺が回しているみたいな認識を持ってしまいがちです。まぁ、それが事実なら良いんですが、勘違いだった場合は害悪にしかなりません。この二つの副作用を旅行休暇は防止してくれると思います。自分も初めて長期で休暇を取った時は不安で仕方がありませんでした。本当に仕事が回るのだろうかと。でも、その不安はものの見事に打ち砕かれるんです。自分がいなくても全然回ってる。自分がいる時と違う点を見つける方が難しい。その事実を見せつけられるんです。この感覚は毎回喜びと同時にちょっとしたショックという二つの感情を同時にもたらしてくれます。これをきっかけとして休暇から戻ったら、自分がいなくても回ってた仕事を完全移譲したり、メンバーの評価を自分の中で更新したりとかできます。そして最も良いことは、「やばい、自分の存在価値がなくなる」という危機感が自然と湧いてくるということです。あの事実を見せつけられると勘違いなんてできません。これまで自分がやってた仕事は、自分がいなくても進んでいく。だからこそ、新しい仕事を生み出したり、より生産性を高める方法にトライしていかなければと自分を大きくアップデートしようと思うきっかけになります。スタートアップの経営者にとってはどれだけ自分が変化できるかこそが勝負だと思います。組織や事業の成長に合わせて自分を変化させていけること。これが重要な中で、COOは自己不必要性を認識できないと、現状に満足してしまい、変化や成長に怠けることがあると思います。自己陶酔状態ですね。そんなものは邪魔なだけなので、休暇を取ることで意図的に組織における自己不必要性を感じ取る。これが自己のアップデートにおいて非常に重要になると思います。

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その3:無意識の認識を確認できるから

旅行中は原則、仕事のことを忘れます。仕事を忘れるくらい素晴らしい旅行にしようと努めますし、自然体(スマホとかPCを極力見ない等)でいれば意外と仕事のことを考えないでいられるものです。ゆえに自分の思考の中に仕事があまり出てこない状態に持っていくことができます。重要なのはこの時に、それでも自分が仕事のことで考えてしまう何かがあるのか、あるとしたらそれは何なのかということです。この状態でも考えてしまうことというのは、自分が無意識的に思考してしまう対象なので、すごく不安に思っていることや強い期待を持っていることの可能性が高いです。COOは通常あらゆる物事を意図的に考えており、感覚で動いているわけではないので、意外と自分の無意識に気付きにくいです。無意識の自分の思考に気づくことで、会社の長期的な視点に対する思考の材料を手に入れたり、隠れている組織の問題点を炙り出せたりできる。きっと社長たちは常時そういう感覚で色んなものを察知しているのでしょうが、COOもこの時だけはそれができるようになります。数ヶ月に一度COOが意図的に感性を使った問題提起ができるようになり、自分の無意識を活用できるようになったら、非常に強い組織になると思います。そういう意味で頭の中を空っぽにできる旅行休暇は優れております。

その4:仕事欲を醸成できるから

スタートアップのハードワークを社長以外の普通の人間が乗り越えられるとしたら、それは「感情を消す」か「仕事を楽しむか」のどちらかでしょう。それくらい、普通の人からしたらありえない働き方をしているんだろうなということは、自分の家族とかとコミュニケーションを取ればわかると思います。「あなた何で土曜日なのに働いてるの?」みたいなことをよく親に言われます。ここにおいて、なかなか「感情を消す」ということは難しいですね。できたとしても、あまり推奨はしないと思います。メンバー全員が感情を消しながら働いて欲しくはないので。なので、組織としてスタートアップのスピードを維持する方法は、メンバーに「仕事を楽しんでもらう」状態を作り出し続けることだと思います。それは、もちろん個々人のモチベーションに依存するという側面もあるのですが、意外と重要だと思うのが「COOが仕事を楽しんでいるか」だと思います。社長はいつでも楽しんでいるのでこれは対象外です。社長は楽しむと同時にめちゃくちゃな要求をする立場なので、メンバーからすると「お前、よくそんな俺たちに無茶振りばっかして笑ってるな」みたいな感じが本音じゃないでしょうか(笑)。なので重要なのは現実を一番見ているCOOが笑っているか、この組織を楽しんでるか、仕事を楽しんでるかなのかなと思ってます。それは"普通"の人々にとって仕事を楽しめる状態なのかどうかの重要な指標だと思うし、COOが楽しめてないのであればその下に楽しめと言うのも無理があるでしょう。

ということで、結構COOが仕事を楽しんでいるかは重要な要素だと思うのですが、COOは社長と違い普通の人間です(例外もあるかとは思いますが、個人的には普通の人間がCOOをやった方が上手くいくと思います)。人生=仕事ではありません。そのため、ずっと仕事をしていたら途中で仕事が辛くなってくることもあります(ただCOOは未来予知能力が高いので、ここで放棄すると後々よりめんどくさい状態になると想像できるので仕事は完遂しますが)。なので、意外と何も考えずにハードワークしてたらCOOの仕事に対する感情というのはマイナスに振れる可能性もあるんです。そんな時、定期的に旅行等にいき、仕事から離れると旅行最終日とかに仕事欲が驚くほど湧いてきます。ここで仕事欲が湧いてくるあたりは仕事人間だなと思いますし、COOっぽいなと思いますが、この仕事欲は非常に重要で定期的に醸成することでCOOが仕事を常に楽しむことができるようになると思います。COOにとって本来仕事というのは楽しいものです。ただし、度を過ぎたハードワークを続けていると、いつしかその楽しさを失いかける。なので、強制的に仕事から離れることで仕事欲を醸成する。このコントロールが、ひいては組織全体に影響を与え、組織の中に仕事を楽しめる人が増えるのではないかと思っております。

その5:大切な人を大切にする文化を作れるから

最後はなぜ"旅行"休暇なのか。自分は長期の休暇を取る際には明確に「どこ」に「誰」と行くのかを社内に伝えて休暇を取ります。それを伝えることで、「大事な旅行だから連絡してくるなよ!」という牽制の意味もあるのですが、それよりも「大切な人とはちゃんと時間を作って素敵な時間を過ごした方が良いよ」というメッセージを伝えたい方が強いです。仕事というのはとても恐ろしい活動です。自分の生活を支えている活動だからこそ、人間の優先順位を狂わします。みんな大切な人と素敵な時間を過ごしたい、それが人生にとって一番重要だということは頭ではわかっています。でも、それを形にして実現している人は周りを見る限りすごい少ないと思ってます。仕事というのは、優先順位としてその下のはずなのに、いつの間にか一番優先されるべきものになってるのです。「仕事だから」と家族や恋人との時間を失っていくことが、しょうがないことだと、正しいことだと、正当化されているように感じます。でも、個人的にはその状態での仕事にサステイナビリティーを感じません。どこかで折れる気がします。そしてこれは、個人の意識の問題ではなく、組織としての文化の問題のように感じます。きっと個人の優先順位がどんなに正しくても、間違った文化を持った組織に入ったらその優先順位は歪められる。仕事を優先できない人は、きっと人間として否定される。だから、個人にどんなに働きかけても無意味で、「大切な人を大切にする文化」を会社に創れるかどうかが全てだと思います。そして、それは上の人間にしかできません。経営メンバーが休んでいないのに、下のメンバーが休むことは精神的にすごい難しい。特に経営と現場の距離が短いスタートアップであればあるほどです。だから"普通"の人間としては最も上に立つCOOが自らを持ってそのメッセージを発信し続けないといけないと思います。旅行休暇というのはそのメッセージとして非常に優れています。休みをそんな使い方して良いんだと、出発するときはみんなから「楽しんできて」と言われ、帰ってきたら「おかえりなさい」と言われる。それがこの組織とって当たり前だし、それを全員が当たり前にして欲しい。大切な人との時間を最優先にしても、仕事に支障はないし、むしろその方が継続的に高いパフォーマンスを出せる。それが"スタートアップ"という状況であっても。そういうことをCOOは自ら証明し、組織の文化にしていくことは義務に近いものだと思っていますし、個人的にそういう組織の一員として働きたいと思っています。

結論:全ての社員の模範となれ

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COOが旅行休暇を取るべき理由を「自己認識」「組織認識」「組織文化」の観点から見てきました。"休む"という活動はハードワークをするからこそ重要であり、"旅行"という活動は組織に入り浸っているからこそ重要です。そして何よりも"普通"の人間として、仕事のための人生ではなく、人生のための仕事とするにはどうすれば良いのかという命題において旅行休暇というのは非常に有意義なように思えます。組織のトップは社長です。でも"普通"の人間としてのトップはCOOなのかもしれない。メンバーから見たらそう見えているのかもしれません。そう考えた時にCOOは全ての社員の模範になるべきだと思っています。経営と現場という分離をしたらそれは対立構造にしかなりません。でも、COOは普通の感覚を持っているし、人としては社長よりもメンバーたちとの距離の方が近いと思ってます。そんな自分がどう振る舞うのか、どう考えるのか。それは組織としての文化や行動様式に直結するし、社員がもし参考にするとしたら、それは社長よりもCOOの振る舞いです。だからこそCOOは「意図的」に旅行休暇を取るべきだと思うし、それでも十分なパフォーマンスが出ることを組織に対して証明する必要があると思います。COOは全ての社員の模範となるべきであり、それを強烈に意識するべきです。それが未来の組織文化を、未来の素敵な組織を、未来の素敵な働く人々を創り出すのだから。

【徹底解説】COOが社長の忙しい5つの理由を説明します

はじめに

会社を立ち上げてから5年目となりました。社長と一緒に仕事をしていく中で、実はわからないことが一つだけありました。それは「なぜ、社長ってこんなに忙しいのだろう」ということです。逆に言えば、「なんで社長はこんなにも仕事を処理できないのだろう?」でした。そして、時にはその状況に対して怒りや憎しみが湧くこともありました。そんな中、社内の状況が変化し、会社のフェーズも変わりつつある中で、気づいたことがありました。

いつの間にか、昔社長がやってたような仕事を自分がやるようになっていたのです。ここ2.3ヶ月くらいは自分が昔の社長っぽい仕事をやるようになって、やっと謎が解けました。「なぜ、社長ってこんなに忙しいのだろう」に対する答えが見つかったのです。社長という人たちは当然自分が忙しい理由を自ら説明することもしないでしょうし、忙しいアピールもしたくないでしょう。なので、社長が何をやっているのか実はメンバーたちはわかっておらず、不信感とかを募らせることも多いかと思います。なので、COOが理解した社長の仕事や忙しい理由をまとめてみました。スタートアップで働いている方々はこれを読んで、不信感とかが多少和らげばいいなと思います。

社長が忙しい5つの理由

そもそも、社長というのはどういう仕事をするべきなのでしょうか。何のために存在すべきなのでしょうか。個人的な考えでは社長は「想定外の仕事を生み出すこと」が仕事だと思ってます。仕事というのは誰かが創り出すものです。メンバーの人達は誰かが生み出した仕事をしているのです。そして、その仕事を生み出すのが社長です(特にスタートアップでは)。新しい事業や新しいサービスを着想し、それを仕事としてメンバーに与えていく最初のきっかけを創ること。そして最も重要なことはそれが"想定外"であることです。既存の延長線上にある想定内の仕事はNo.2以下が作り出すことができます。社長が想定内の仕事ばかり作ってたら、会社の成長は止まります。そうではなく、既存の延長線上にはなかったメンバーからすると「何だそりゃ」と思うような仕事を持ってきたり、生み出したりする。これが社長の仕事です。なので、当然既存のオペレーションを回すこととか、タスクを処理することとかは社長にとってどうでもいいのです(どうでもいいというのは、ちゃんと回っていればどうでもいいって意味です)。それよりも、会社を未知の世界へと導くことが社長にしかできない仕事なのです。

その上で、社長が忙しい5つの理由が以下となります。

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その1:人と会うアポイントがえげつない

まず何と言っても社長はアポイントが多いです。そして量もさることながら、その質もすごいものがあります。これが「えげつない」と書いた理由なんですが、イメージでいうと皆様にも1年に一回くらい、すごい人とのアポイントがあって、とても緊張しながら会いに行くみたいなことがあると思います。そういうアポが社長には毎日入ってると思ってください。同世代のバチバチの起業家や、上場している企業の経営者、将来投資してくれるかもしれない投資家等、気を抜いたら殺されるようなアポイントの連続です。そして何と言っても社長は会社の顔です。社長がダメと思われたら会社全体がダメだと思われるので、常に気を張っていなければなりません。そういう人達とのアポイントをこなしながら、更に後輩起業家の相談に乗ったり、事業会社の人達から提携の話を相談されたりするわけです。そんなアポイントが一日に2つ、3つ入るのが当たり前。夜のアポイントが終わるのは夜の12時を回ることもザラです。僕も先週の一週間、毎日夜にアポイントが入りましたが、恐ろしいほど大変でした。これをずっと繰り返しているのかと思うと社長を心の底から尊敬するようになります。

じゃあ、アポイント減らせばいいじゃないかと思う方もいるかもしれません。しかし、それは違います。新しい仕事は必ず人と人の間に生まれます。いつ、どんな会話がきっかけで新しい仕事が生まれるのか、新しいチャンスが生まれるのかはわからないのです。もしかしたら事業の提携の話が始まるかもしれない、もしかしたら出資の話が始まるかもしれない、後輩起業家の相談だって将来何かに繋がる可能性は十分にあるのです。そのため、今時点でどんな意味があるかはわからなくても、社長だけは会い続けなければいけないのです。社長は未来の、想定外の仕事を生み出すのが仕事なので。

その2:一日中連絡が来る

人と会うことが増えると何が起きるのかというと、一日中誰かから連絡が来るようになります。一度このモードに入ると一定のところまではどんどん連絡が増えていきます。これ想像以上に体力と気力を使います。もちろん社長は会社の顔ですので即レスをします。全ての連絡に即レスをするともちろん会話が途切れません。気づいたら、全ての連絡が終わるのに二時間かかってたなんてこともよくあります。これは僕自身も体験して驚きました。たかがチャットなんですが、相手は社内の人ではないので気も使いますし、目上の人も多い。そういう連絡が延々と続くのです。社長は大概ずっとスマホ見てると思いますが、だいたい誰かに返信をしております。社長というのは、それほど社外の人間と繋がり、日々コミュニケーションを取り、新たなきっかけを模索しているのです。

その3:twitterをめちゃめちゃ見てる

最近のスタートアップの社長はほとんどがtwitterをやってると思います。僕も数ヶ月前からtwitterをちゃんとやり始めましたが、これで時間の使い方がかなり変化しました。なんでtwitterなの?そんなくだらないことするなよって思う方もいるかもしれません。しかし、twitterはスタートアップにとって宝の山です。スタートアップ経営に役立つ情報というのは世の中的にはマイノリティです。なかなか情報収集は難しい中で、twitterであれば適切な人をフォローしていくことで自然と適切な情報収集ができるようになっていきます。社長にとって情報収集というのは人と会うことの次に重要な活動と言っても過言ではありません。手に入れた情報の中でしかアイディアは生み出せないので。また、twitterでの発信は会社の知名度向上にも繋がりますし、採用にも繋がります。なのでスタートアップ社長にとってtwitterを触ってる時間というのは非常に重要な仕事の時間なのです。決して暇つぶしにやってるわけではありません。社長がtwitter見てたら、おっ社長ちゃんと仕事してるじゃんって思ってあげてください。

その4:一発勝負の仕事が多いため実はめちゃめちゃ準備してる

社長の仕事の中にはメディア出演とかイベント登壇、ブログでの情報発信、ピットバトルへの出場等があります。これらの仕事の特徴に「一つの仕事のインパクトがとてつもなく多い」にも関わらず「一発勝負で失敗が許されない」というものがあります。最近のスタートアップはリーンで学習しながらやりましょうが基本スタンスなので、まずやって失敗から学ぶが基本です。しかし、社長の仕事だけは失敗したら痛手が大きすぎたり、チャンスを失う仕事が多いです。ここは仕事のスタンスとしてリーンが流行ったからこそ生まれた解離だと思います。そのため、このような仕事をこなすために社長は実は多大な準備をしています。でも当然これらの準備って社員の前でやることは少ないですし、頭の中で考える準備が多いのでなかなかメンバーに伝わりません。僕自身も最近イベントへの登壇とかの機会をいただくようになりましたが、正直そのイベントが入ってる日は他の仕事なんて手につきませんでした。イベントで何を言うべきか、会社に対してどういう印象を持ってもらうべきか、他の人たちはどんなことを言うのだろうと延々と頭の中で考えて、気づいたら時間になっている。それくらい、インパクトが大きい仕事をしているので、そこへの集中が求められますし、他のことをこなす余裕はないのです。それは今まで「なんでこなせないんだよ」って思ってた自分もこなせなかったんで、どんな人でもその立場になったらこなせなくなるというか、そこまでの仕事をこれまでの自分はしてなかったんだなと思い知らされるだけでした。

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その5:考え始めたら2~3時間経ってることもざら

社長が考える論点は難解なイシューばかりです。会社の成長率をもっと高めるためには、次の事業はどの領域に進むべきか、資金調達はどのタイミングでどれくらいするべきか、どのような人を採用したら会社が成長するか。たった数分で答えが出るものなんてものはほとんどなく(意思決定"するだけ"なら数分でもできますが)、また合理的な思考だけでは答えが出せないイシューも非常に多いです。そのため、これらのイシューについて考え始めたら2~3時間なんてあっという間です。このような論点は社内でも相談できる人は多くないです。なので、外部の人にアドバイスをもらいながら、社内のメンバー様子を見ながら、一人で考えなければ時間が多いのです。それは僕らには「見えない」時間であり、「手を出せない」時間なのです。ただ一つ言えるのは、社長がこういう論点にゆっくりと向き合う時間を取れなくなった時は、会社の将来が非常に危ぶまれているということです。社長が集中してこれらのことについて考え、その時に答えが出なかろうが自分の身体の中に論点を刻み込みあらゆるパターンを自分の頭の中で駆け巡らせ、決めなければならない時が来た時に即断即決で決められるように頭と心を整理することは会社の未来にとって必ず必要な時間なのです。

結論:社長を支えてあげてください

社長が忙しい理由、そして社長が細かい仕事を処理できない理由を5つの視点で見て来ました。社長の一日というのは複数のアポイントと一日中鳴るチャットとtwitterと、一発勝負への準備と未来への思考で終わります。むしろ時間は圧倒的に足りないんです。この一日の中でちょろっと言われたタスクなんて覚えていません。だから忘れます。それは社長の能力とか性格じゃないです。社長の仕事をしてると忘れるくらい他のことに集中しないといけないんです。だから、タスクを期限通りにやらないことを怒らないでください。自分のことを棚に上げてなぜタスクを期限通りにできないんだと怒られても、社長のことを憎まないでください。社長に頼み事をする時は、期限を3日前に設定してください。そして、最初の期限の日にチャットでリマインド、次の日にチャットでリマインド、本当の期限の前日に口頭でリマインドしてあげてください。そしたら、ちゃんと期限通りにやってくれます。

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社長は確かに多くのタスクを抱えているわけではありません。もしかしたら、何をやっているのかわからず、暇そうに見えるかもしれません。でも、会社には社長にしかできない仕事がたくさんあるのです。そして、それは会社の"現在"ではなく"未来"のための活動です。明らかに誰よりも社長という仕事は忙しくなります。365日24時間、社長は会社と向き合い続ける必要があります。だから、皆様が社長を支えてあげてください。社長じゃなくてもできる仕事は巻き取ってあげてください。社長が余計な心配をしないように会社の"現在"を確固たるものにしてください。それができる人は優秀で、信頼される人になります。そして、それは社長の様子をあなたが"どう捉えるか"にかかっているのです。

全ての若者がカスタマーサクセスを経験するべき3つの理由

「CSキャリア論vol.1」を開催しました

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5月29日にSCOUTER社主催で「カスタマーサクセス」×「キャリア」をテーマにイベントを開催いたしました。有料イベントにも関わらず満席の50名の方にお越しいただき大盛況となりました。

今回はイベントの内容を簡単にまとめてお伝えすると共に、より深いカスタマーサクセスのキャリアについて考えていきたいと思います。

カスタマーサクセスとは

そもそも、カスタマーサクセスとはなんでしょうか?英語版wikipeida記載の説明にはこう記されております。

カスタマーサクセスとは売手と顧客の関係性を構築する機能である。カスタマーサクセスのゴールは顧客を可能な限り成功させることであり、それはLTVの向上という形で会社に貢献する。

重要なのは最後の部分です。カスタマーサクセスは「LTV」の向上という形で会社に貢献する。これが今までの一般的なCS(カスタマーサポート)との最も大きな相違点です。これまでのカスタマーサポートは「コストセンター」という表現をされ、売上や利益を生み出すことはなく、いかに顧客の問い合わせを低いコストで対応するかが最大の争点でした。そのため、何分で顧客の問い合わせを対応できるかみたいな話になり、働き手も顧客も「問い合わせ」という事象は最も嫌な活動の一つになっていました。世の中の誰もが求めておらず、しょうがなく生じているものに向き合っていたのがこれまでのCSです。当然、そこに働きがいを感じることは難しいですし、キャリアとしても優れたスキルや経験を身につけることはできません。顧客からしてもわざわざ電話で問い合わせして、説明してとかめんどくさいのでなるべくそういうのが生まれない、分かりやすい使いやすい商品を使います。よって、企業側もCSに力を入れるのではなく問い合わせをなくす商品開発等に力を入れるのが当たり前でした。

しかし、この流れが現在大きく変わりつつあります。カスタマーサクセスは「プロフィットセンター」である。つまり売上や利益を生み出す機能であり、今後企業が大きく力を注がなければ競争力の低下を招きかねない重要な活動へと変化しているのです。この変化の象徴が「ザッポス」という企業です。少し前にアマゾンに買収されて話題になりましたが、彼らはカスタマーサクセスという言葉が生まれる前から、自然とそのような振る舞いをしており、そしてそれがザッポス最大の競争力になったのです。『ザッポスの奇跡』に記されているザッポスのサービスに感動したある女性のエピソードを引用します。

その女性は病床の母親のためにザッポスで何足か靴を買ってあげたが、母親の病状が悪化して亡くなってしまった。悲しみがさめやらぬなか、ザッポスから靴の具合をたずねるEメールがとどく。母親が亡くなってしまったので靴を返品したいこと、返品期限を過ぎてしまったかもしれないが、もう少し待ってもらいたいことをメール返信したところ、すぐに「宅配の集荷サービスを送ります」という反応があった。  ザッポスでは返品時も送料無料サービスを行っているが、通常は購入者が集荷場まで靴を持っていかなければならない。規則を曲げて自宅への集荷を手配してくれたことに女性は驚き、感謝した。  だが、話はそこで終わらない。翌日、女性の玄関先にお悔やみの花束が届けられ、ザッポスからのメッセージカードが添えられていたというのだ。  女性は、自身の体験をブログに書いた。  「感極まって、どっと涙がこぼれました。人の親切にはもとから弱い私ですが、今まで人様からしてもらったことの中で、これ以上に心を打たれたことを思い出せません」ブログの締めくくりは、「もし、ネットで靴を買うのだったら、ザッポスから買うことをお勧めします」だった。  

このようにザッポスは顧客体験を最重要視した結果、圧倒的な顧客ロイヤリティと顧客が顧客を呼ぶ好循環が生まれ、サポートチームがザッポスの競争優位性の源泉となったのです。そして、このような考え方をビジネスロジックに落とし込んだのが、カスタマーサクセスという概念です。

セッション:「経営目線で考えるCSの重要性とCSのキャリアという可能性」

セッションの内容の一部を断片的にですがまとめました。総論としては、経営におけるカスタマーサクセスの重要性が高まっており、将来のキャリアパスの選択肢はかなり多い。スタートアップなら何でも屋が、大手ならスペシャリストが向いているという趣旨でした。

<経営におけるカスタマーサクセスの重要性>
  • カスタマーサクセスは「コストセンター」ではなく売上・利益を生み出す「プロフィットセンター」である
  • 機能や価格、ビジネスモデルというのは模倣可能だが、カスタマーサクセスと顧客の「関係性」は模倣不可能であり競争優位性に繋がる
  • カスタマーサクセスのミッションは顧客を解約させないこと
<経営者から見るキャリアパスの可能性>
  • カスタマーサクセスは最も組織を横断するチームであるため、将来的にはどのポジションにもなれる可能性がある
  • カスタマーサクセスは突き詰めればCEOにまでなることも可能
  • 全てのサービスがサブスクリプション化していくので、どんなサービスにも携わることができるようになる
  • Linkedinの情報だとカスタマーサクセスが三番目くらいに増えている
  • カスタマーサクセスから営業やコンサルティングスペシャリストや、マーケティング領域に行く事例もある
<カスタマーサクセスの採用要件>
  • 「打ち返す」「感情移入する」「代弁する」という三つの動作が好きな人は向いてる
  • 立ち上げ期はなんでもできる人、なんでもボール拾える人が向いている=Webディレクター経験者が向いている
  • チームが立ち上がった後は、スペシャリスト的な能力を持っている人を採用するのが良い
  • コミュニケーション能力/観察力/柔軟性の三つが重要

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イベント当日の様子

変化しつつある"優秀"の定義

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今回のイベントを通して一番感じたことは、ビジネスという世界における"優秀"の定義が変化してきているのではないかということです。これまでの"優秀"な人材というのは、強烈なリーダーシップ、圧倒的な説得力、未来を見通す先見性、威圧的なオーラ、完璧な論理性。こういうものだったと思います。しかし、今回登壇していただいた方々には全く別のものを感じました。みなさん穏やかで、親しみやすく、謙虚で、常に学ぶ姿勢があり、目の前の顧客を大事にする。こういう人たちって、もしかしたらこれまでのビジネスの世界では負けてた人たちなのかもしれません。社内の出世競争に負け、何もさせてもらえない。でも、今の最先端のビジネスには、そういう人たちが重宝され、ビジネスの真ん中にいます。これはキャリアを考える上で、大きな変化点であり、その変化の担い手がカスタマーサクセスなのです。

これまでは"社内を動かせる人"が優秀だった。しかし、これからは"顧客を動かせる人"が優秀とされる。それは、これからの世界が人類史上最高に顧客を動かすのが難しい時代であり、あらゆるものが満たされている中で顧客がさらに何を求めているのかを真に理解し、そのために必死にならないと顧客は動かないからです。全てが透明化の方向に向かい、企業の意図はすぐに顧客に見透かされてしまいます。頭の良い少数の人間が、大多数の人を騙すことはもうできない時代です。だからこそ、全てに対して顧客目線で真摯に向き合える人が求められます。そして、それをビジネスロジックとして正しく評価できるようになったのがカスタマーサクセスという職種が生まれた意味だと思います。

カスタマーサクセスで得られるスキル・経験

今回のイベントでもカスタマーサクセスという職種は何を得られるのかということは大きな論点となりました。確かにカスタマーサクセスにおいて何か固有のスキルが得られるかというと、そこは非常に難しいです。ただ、それはカスタマーサクセスには固有のスキルがないというわけではなく、今のビジネスの世界がまだそのスキルを言語化することができていないと言う方が正しいと思います。5年後、10年後には当たり前のようにカスタマーサクセスに必要なスキル・得られるスキルが言語化され、名詞化され社内に飛び交うようになっているでしょう。そういう状況なので、まだカスタマーサクセスにチャレンジする人が多くないのはしょうがないと思いつつ、できるだけ多くの優秀な方々にカスタマーサクセスの世界に飛び込んでもらいたいという思いもあるので、言語化可能な範囲内で何を得られるのかまとめてみます。

カスターサクセスで得られるのは主に以下の三つです。

  1. LTVと対峙するという経験
  2. 顧客起点でビジネスを考えるマインド
  3. あらゆるスキルを最短で習得するスキル

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LTVと対峙するという経験

これからの全てのビジネスにおいて最も重要な指標は「LTV」になるでしょう。特に日本では、サービスのサブスクリプション化・人口の減少・海外サービスの日本進出等がどんどん進行し、新規顧客よりも既存顧客に目を向けるようになります。LTV中心のビジネス設計が当たり前になる世界がもうすぐそこに来ており、スタートアップでは既に最重要指標になっております。しかし、考えてみてください。みなさんが所属している部署の最重要指標がLTVになっているでしょうか?LTVは様々な要素が絡む指標であり、一部門ではなかなか扱わない指標であり、だからこそ事業責任者や事業企画のみが扱う指標になりがちでした。なので、日々LTVを意識して仕事をしている人は非常に少ないと思います。ビジネスとして最重要指標にも関わらず、その指標について意識する機会は実は非常に少ないのです。ただカスタマーサクセスは違います。カスタマーサクセスの最重要指標は言わずもがなLTVです。カスタマーサクセスのミッションそのものがLTVの向上だからです。これは一人のビジネスマンとしてあまりにも大きな経験です。LTVの観点でビジネスを考えられる人間と考えられない人間の差はこれからかなり大きくなります。カスタマーサクセスで得られる一番大きなことは、このLTVと対峙してLTVの観点でビジネスを考えられるようになるという経験だと思います。

顧客起点でビジネスを考えるマインド

二つはマインドの部分です。マインドは言い換えると思考の癖なんですが、思考の癖って一度身についたらなかなか取れません。無意識の領域にまで侵入してくるので。そう言う意味で、若い頃に良い癖をつけられるとその後に良い影響をもたらしますし、逆に悪い癖を身につけると成長の阻害になってしまいます。その中でカスタマーサクセスで得られるマインドというのは、非常に有意義なものになると思います。それは顧客起点でビジネスを考える癖です。当たり前と思われがちですが、顧客起点で考えられるビジネスマンなんて滅多にいません。基本、自分の思い込みの顧客像の中で物事を考えるのがだいたいです。そして、その思い込みの顧客像は基本間違ってます(若者向けビジネスや女性向けビジネスを営んでいるおじさんたちのことを想像してもらえれば良いかと)。「ユーザーファースト」なんて言葉も流行るわけで、やはり顧客起点で考えるのは難しいわけです。なので、カスタマーサクセスとして顧客と日々向き合い、顧客の成功と向き合うというのは癖をつける点においてすごく優れています。重要なのは、あくまでも顧客起点で考えるということであり、顧客の言うことを鵜呑みにすることではないということ。顧客の成功とビジネスとしての成長を結びつけるという思考プロセスに慣れることが貴重な財産になります。

あらゆるスキルを最短で習得するスキル

カスタマーサクセスは社内のほとんどの部署とコミュニケーションを取る必要があります。営業・マーケティング・開発・人事部等。そして、そのコミュニケーション次第でカスタマーサクセスチーム自体の成果も左右されます。顧客にとっての唯一の接点はカスタマーサクセスの担当者であり、その声を代弁者として他の部署に届け、顧客起点での改善を主導していく必要があるのです。その意味で、カスタマーサクセスは幅広い知識やスキルを短期間に身につけることが必然のように求められます。そして、それは顧客のためなので逃れられません。なので、カスタマーサクセスの担当者になると、相当量の学びが強いられ、気づいたら様々なスキルを最短で習得できるようになっているはずです。特に社会人になると新しいスキルを習得することに躊躇したり、精神的なコストが高くなりがちです。しかし、カスタマーサクセスでは習得しないと先に進めない訳で、社会人としての学習習慣を早期に身につけることができるようになります。また、カスタマーサクセスチームは多様性のあるメンバーが揃うことが多いです。元エンジニアや元マーケッター、元営業等、様々なスキルを持った人が近くにいるので、最短でスキルを習得できる環境があることも大きな恩恵と言えるでしょう。

カスタマーサクセス×固有のスキル=最強

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上記の三つの能力を身につけ、そこにもう一つ固有のスキルを身につけると恐ろしいほど市場価値は上がります。それは"ただの"マーケッターよりも"ただの"エンジニアよりも、"ただの"マネージャーよりも、付加価値が圧倒的に高くなります。カスタマーサクセスのキャリアパスというのは、これらの+αの固有スキルを自分の意思で好きに選べることが最大の特徴だと思います。何故ならば、どの固有スキルもカスタマーサクセスチームにあったら良いものです。そんなこと勉強するなとは絶対に言われません。むしろ歓迎されます。カスタマーサクセスという基本業務を通してビジネスマンとしてのベーススキルを高めると同時に、業務に関係のある形で+αのスキルを身につけることができる。このような仕事は非常に限られています。その意味で、カスタマーサクセスのキャリアパスは会社が提供するものでなく、ご自身で自由に考えられるものなのです。なので、どのようなキャリアパスがありますか?と聞かれても、色んな選択肢がありますとしか言えません。カスタマーサクセスを突き詰めることも良いですし、+αの固有スキルを身につけても良い。どちらにせよ、これからのビジネスにとって必要なものを得られ、市場価値は高まります。

結論:やりたいことが見つからないならカスタマーサクセスを

カスタマーサクセスという仕事はこれからのビジネスにおける強固な「前提」をよく理解できる仕事だと思います。サブスクリプション・シェアリング・評価経済トークンエコノミー等様々な流れが生まれつつありますが、それらの全てにカスタマーサクセスは求められます。そういう意味で、やりたいことが見つからないのであれば、とりあえずカスタマーサクセスに挑戦することをお勧めします。一昔前、新卒の学生は全員営業からスタートさせたのと同様、これからは全ての若者はカスタマーサクセスを通るべきという時代がこれから来るのだと思います。来るべきその時にカスタマーサクセスのスペシャリストになっていることは大きな市場価値に繋がりますし、カスタマーサクセスはどんなキャリアにも繋げることができます。カスタマーサクセスとは特定のスキルを身につける活動ではなく、現代ビジネスに必要な能力の基礎となるメタ的な能力を最も効果的に身につけることができる職種だと思います。キャリアの視点として日本にはまだカスタマーサクセスを正しく評価する言葉はありません。ただ、カスタマーサクセスの現場と経営者は気づいています。この差分こそキャリアとしての市場価値を高める最大の好機です。飛び込んだ者勝ちの数少ない仕事です。未来ある若者の方々には勇気を持って飛び込んでもらえたら嬉しいです。

カスタマーサクセスについてもっと詳しく話を聞きたい、相談したいという場合はこちらへお気軽にお申し込みください。

jobtag.jp

COOが伝えたい「マネージャー」になったら最初に改めるべき5つの考え

スタートアップにマネジメントは必要か

SCOUTER社も最近急激に組織らしくなってきており、現在4人のマネージャーが頑張ってくれております。個人的にはマネージャーという言葉が嫌いなので(嫌いな理由は別記事でいつか書きます)、社内では別の呼び方をしているのですが、今回は一般的なマネージャーという言葉を使っていきます。スタートアップの初期はマネージャーなんて概念は当然ありません。マネジメントしなければならないような人材をとった時点で失敗。そんな世界です。しかし、事業が大きくなり組織が大きくなるとマネジメントは当然必要になってきます。マネジメントをする組織にしたくないと抗うのは最近の一つの傾向にはなってきますが、僕的にはそれに抗うコストが効果に見合わないなと思っております。なぜなら、事業が大きくなっていくと"つまらない"仕事も比例して増えていくからです。どんなに生産性を上げても、いずれ仕事は"定型化"していきます。定型化した仕事をこなすことは、マネジメントされたくない優秀な人材からすると、"つまらない"仕事になるのです。なので、組織全員がマネジメントされたくない人で揃えるというのは、逆にめんどくさいことだなと。面白い仕事を常に用意しないといけないので。世の中にはマネジメントされたいという人の方が大半で、ある程度仕事が定型化されており、責任の範囲も限られていることを好むんですよね。あまり考えないで良いのでその方が楽なんです。そういうことを好む人がたくさんいるので、それぞれ好きなことを分業しましょうという考え方の方が僕は好きです。なので、事業がそれなりの大きさになればマネジメントは必然の活動になり、当然マネージャーも必要になります。あくまでも個人的な考えですが、マネジメントする側、される側どちらが偉いとかはあまりないと思います。人間としてどちらの方を好むかですし、それぞれどちらが欠けても上手くはいかないわけで、お互いに補って、リスペクトできてればそれで良いかなと思います。逆にマネジメントする立場になったからって、マネジメント対象者を見下して、バカにする人は嫌いです。上司がそういう人だったら、環境変えた方がいいかもしれませんね。

ある日突然マネージャーに

ということで、スタートアップもいつか、マネージャーが必要な時が来るわけです。しかし、それまでにマネジメントがいなかった世界なので、ロールモデルとなるマネージャーがいるわけでもない。マネージャー補佐みたいな仕事もしたことない中で、突然「じゃあ君マネージャーね」となるわけです。当然本人からすると要求されることも違ければ成果の出し方も違う。何をやって良いのかわからないし、頑張っても上手くいかず苦しむのが大半だと思います。こういう時に基本的なマネジメントを知っている人が社内にいて、ただ既存のマネジメントを押し付けるのではなく、その会社にあったマネジメントを授けられるような人がいるとスムーズなんだろうなと思いつつ、逆にそういうマネジメント経験者って、創業期にはあまり活躍できない可能性も高いのでそういう人がいる可能性はあまり高くないなと(特に創業者が若い場合)。なので、マネージャーには創業期のコアメンバーがそのままなるパターンが多いと思います。そして、まさに今のSCOUTER社もそのフェーズに入りました。そこで、今回は彼らに対して伝えたいことをまとめました。同じような境遇の方には参考になるかと思います。

「ビジネス」で考えるな。「戦」で考えろ。

まず、マネジメントレイヤーまで上がった人たちは「スタートアップ」とか「ビジネス」という枠組みだけで物事を考えるのはやめた方が良いと思います。どうしても"綺麗"になりすぎちゃうので。実態はもっと過酷で残酷なものです。すごい希望を持ってスタートアップに参加しているはわかるのですが、だからこそもっとリアリティを持って考えるべきだなと。そうなった時にどういうイメージが一番参考になるかと言うと、やっぱり「戦」なんですよね。ビジネスの根源は戦争であり、そこから学ぶべきことはあまりにも大きいんです。なので、まずは戦の視点でプレイヤーとマネージャーの違いをまとめたいと思います。

マネージャーは将軍である

マネージャーっていきなり言われて、マネージャーってなんやねんと思うかと思いますが、将軍だと思ってください。国王が戦うぞって言って、軍師が戦略を考える。これは主に本部で行われることであり、会社で言うと取締役会です。そして戦う相手と全体の戦略が決まるとそこで登場するのが将軍です。

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*国王の嬴政に見送られ出陣する王騎将軍

将軍は軍を率いてその戦いを勝利へと導くのがミッション。明らかに一人の兵隊とは背負うものが違いますね。想像してみてください。自分が一人の兵隊から将軍になるなったらどんな感覚に襲われるのか。想像しただけで恐ろしいですよね。責任の大きさ、背負うものの大きさ。これと同じ感覚をマネージャーになった時に持ったでしょうか?将軍というのは以下の三つを司ります。

  1. 戦いの勝ち負け
  2. 部下の生き死に
  3. 自軍の功績

将軍一人次第で、勝つか負けるか、生きるか死ぬか、勝って生還したとしても評価されるかされないかが決まるのです。そして、それは現代のマネージャーも同様です。目標を達成できるかどうか、部下の仕事人生が生きるのか死んだ仕事人生を送るのか、チームが認められるのか、無視されるのか。それはマネージャー次第なのです。確かに重いです。でも、この感覚を持ったマネージャーは圧倒的に強いです。マネージャーって何なんだろうって思ったら戦の場に立っていることを想像してください。それだけで強くなれます。

f:id:hiroki_yamada:20180519154710p:plain *王騎将軍に"将軍"とは何かを教えられる信

しかし、ただ強い責任感を持っただけでは優れたマネージャーにはなれません。むしろ誤った考えで、チームを率いると逆効果になることも多々あります。そこで、マネージャーになったら最初に改めた方が良い考え方5つをまとめました。どれか一つでも該当してるなと思うものがあったら、一つであっても変えるべきだと思います。全てを揃えていないと、部下を死なす可能性が高まってしまうので。

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その1:自分が動くのではなく、チームを正しく動かすことがあなたの仕事

ここからはもう一度、将軍の例を使っていきます。まず、将軍になると兵を率いることになります。当たり前ですが、敵も大軍を率いてこちらを攻め込んでいるわけです。すると、自分一人が頑張っただけで勝てる状況ではありません。確かに、強い将軍は一人で100人ぐらい倒せるかもしれません。ただ、相手が1,000人いたら倒しきれません。だからこそ、強い将軍は原則自分で戦うことをしません。自軍を正しく動かすことに集中します。戦の状況を見極め、どこにどれだけの軍力を投入し、どのような作戦で戦うのか。ここに注力します。マネージャーも一緒です。よくマネージャー自身が一番頑張ってしまう姿をよく見ます。自分でやった方が早いから、自分でやった方が上手くできるから。ただ、あなたが一人でできることには限りがあるのです。そして、一人では成し遂げられないことだからチームを率いているのです。それを本当に理解しているのであれば、自分が一番動くのは"緊急事態"の時のみです。それ以外は、常に戦況を見極めることに注力すべきです。チームが"正しい"努力ができているかを見極めることに集中すべきです。これは優秀なプレーヤーであればあるほど、難しいことです。自分が戦ってないことに不安を覚えてしまうから。自分は仕事をしていないのではないかと思ってしまう。ただ、あなたの仕事は勝たせることであることを忘れないでください。勝てれば、あなたは戦う必要はないのです。一番恐れるべきは将軍であるあなたが間違うことであり、死ぬことです。それはチーム全体の死を意味します。それだけマネージャーというのは重要な役割を担っているのです。

その2:何をさせるか指示するではなく、何が成果かを定める

将軍は全ての人々にリアルタイムで正しい指示を出すことが物理的にできません。それは、いくらITが発達した現代であっても同じです。全ての情報を持てるわけではありません。指示をしてる暇がないこともあります。目の前に敵がいる時に、遠く離れている将軍にいちいちどうすれば良いのか確認することはできないのです。そんなことをしてる間に殺されます。だからこそ、指示を待ってしまう軍にしてはいけません。次にどうすれば良いか、将軍に聞けないと動けない軍にしてはいけません。そして、指示がないと動けない軍になるかは全て将軍に依存しています。将軍が指示を出し続けるのであれば、軍は指示を必要とするようになります。どんなに緊急事態であっても、将軍の指示を求めます。それが当たり前だからです。そうではなく、将軍はそれぞの戦う人たちにどんな成果を期待しているのか、ミッションはなんなのかを明確にするのです。そしてその成果を出せるのであれば、何をしても良いと理解させ、それぞれの判断に自信を持たせるのです。全員がそれぞれの敵と対峙した時に、どんな結果が好ましくて、そのための自分の判断が間違っていないという確信を持てる「指針」を持たせるのです。マネージャーは指示を出すことが仕事ではありません。なんでも好きにやって良いよと放置してもいけません。戦いに勝つために、何が成果で、何が評価され、それはどんな状態なのかを明確に示すのです。そして、それが明確に勝利のために必要であることを理解させ、それぞれがそのためにできることを考えられるように未来を見せ続けるのです。自分がいない戦場で、メンバーが自信を持って、確信を持って戦えるようにしてあげること。そして、それを全うすれば勝利を手にできるようにすることがマネージャーの仕事なのです。

その3:水準は周りに合わせるのではなく、あるべき水準を作る

世の中にはあらゆる水準があります。人間は平均を好み、他の水準に合わせたがる。戦わないのであれば、それで良いのかもしれません。しかし、平均に合わせてたら戦いには勝てません。勝つのはその水準を大きく超えたチームです。他軍が移動できる2倍の距離を移動できれば、機動力で勝ります。他軍の士気の2倍の士気があれば半分の兵力で勝てるかもしれません。そして、その水準を決めるのは将軍です。将軍がこれで良いと言えば、それが限界です。将軍がダメと言えば、もっと上の水準を目指します。水準は自分が作り上げていることを明確に意識した方が良いです。将軍以上の水準が勝手に出来上がることはありません。マネージャーも同様です。あなたが求めるスピード感がチームの水準となります。あなたが求めるクオリティがチームの水準となります。あなたが求める成果がチームの水準となります。他社がこうであるとか、他の人がこうであるとか、前はこうだったとか。そういう水準に合わせていたら、あなたのチームの水準は一向に上がりません。あなたのチームが強い理由が生まれません。歴史上、平均的なチームが偉大な戦果を挙げたことはないのです。

その4:メンバーに合わせるのではなく、自分に合わせる

性格的に優しい人がマネージャーになると、部下を思いやり、部下の意見をよく聞き、部下に合わせてしまう人がいます。でも、部下のためと思ってやっていることが、チームを死に追いやっている可能性があります。戦で「僕は死にたくありません」と言ってる兵隊を戦場に出すことをためらう将軍が勝利を収められるでしょうか?そんなことを全て聞いてたら、誰も戦場に行かなくなります。将軍の仕事は自軍を勝利に導くことであり、そのためにどんな時でもあなたに忠誠を誓い、あなたのために動いてもらう軍を作り上げることです。メンバーに合わせるのはやめた方がいいです。話を聞くなと言いたいわけではありません。自分の仕事を全うするためには、自分に合わせないといけない場面がたくさんあるということです。そして、だからこそついてくるメンバーを絶対に後悔させない。そういう覚悟が必要なのです。

その5:前に進めることは誰でもできるが、チームを立ち止まらせることができるのはあなたのみ

最後に自軍を滅ぼさないために一番大事なことです。それは軍を立ち止まらせることができるのは将軍のみであるということ。マネージャーになりたての場合、自分が引っ張らないとと過度に思い、どんどん前に進めてしまうことがあります。もちろん、それが正しい方向へ進んでいるのであればそれでいいのですが、誤った方向に進んでいることに気づかず、そして誰もがそれを言えずに行き着いた先は地獄であったということはよく起こります。前に進めることは誰にでもできます。兵隊であっても、敵陣に切り込むことはできるのです。そしたら一人が突っ込んだら、その他も動き出すでしょう。ただし、軍の動きを止めることができるのは、将軍のみです(厳密に言うとその場にいるリーダーのみ)。スタートアップは正解がない世界で戦っています。だからこそ、常に誤った方向に向かっている可能性があります。それでも、メンバーは前に進みます。なぜならそれがメンバーの役割だから。一旦動き出したらその流れに乗って進むことがメンバーに求められることです。仮にちょっと違うかもと思っていても、言いません。原則言わないし、言えない、言うという行動原理はそこにないと思った方がいいです(そんな状況でも言い出して勝利に導いた一兵卒はその後大将軍になるでしょう)。だからこそ、危ないと感じた瞬間に全体を立ち止まらせることができるのはマネージャーのみなんです。一度立ち止まることは想像以上に重要です。致命的な死を回避することができます。間違っていなかった場合でも、さらに自信を持って前に進むことができます。重要なのは自分しか立ち止まらせることはできないことを理解し、常にその必要性がないか自問自答することです。立ち止まれないチームはいつか死にます。チームを守るために、チームを立ち止まらせる勇気を持ちましょう。

f:id:hiroki_yamada:20180519154508j:plain *敵地で立ち止まり戦略を考え出す王翦将軍

結論:自分の好きな将軍を目指しましょう

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マネージャーってすごく分かりづらい存在です。マネージャー論は抽象的なものが多くて、イメージしづらかったり、スタートアップとは何か馴染みづらいものであったり。世の中に優れたマネージャーなんてほとんどいないですし。なので、初めてマネージャーになった人は悩みが尽きないと思います。そういう人にとっては、自分が好きな将軍を見つけるのがいいんじゃかなと思います。自分がなりたいと思える将軍が必ずいるはずです。何と言っても、人類とは戦争の歴史であり、数え切れないほどの優れた将軍が過去にいますので。漫画や映画の世界にまで広げたら、無限にいますね。その中で、この人自分に似てるなとか。この人めっちゃかっこいいとかそういう人を見つけたらいいんじゃないでしょうか。すごく参考になると思いますよ。そして日々、自分がその将軍になったつもりで、仕事してみてください。戦において負けは許されません。その感覚で仕事してたら、そのうちすごい成果が出てると思います。好きな将軍を見つけたらぜひ教えてくださいね。ちなみに僕はキングダム登場の「李牧」が好きです。