株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

起業家のみなさま、メルカリのストックオプション発行を安易に参考にしない方が良いですよ

はじめに

メルカリの上場承認が話題になっております。様々な角度からメルカリに対しての分析/評価が行われ、その意見は多種多様でございますが、スタートアップ界隈の中では当然大きな祝福と共に大きな希望となっております。スタートアップとしてのお手本であり、他のスタートアップとは次元が一つも二つも上のように感じさせられますね。また、メルカリの取り組みはスタートアップ企業にとって参考になるものが多く、OKRや採用広報のための自社メディア、リファラル採用への取り組み等、メルカリの事例を参考にする起業家はとても多いと思います。そして、今回目論見書が出たことでメルカリのストックオプションの全貌も公開され、話題になっております。全従業員にストックオプションを配り、SO比率が20%を超えていると。スタートアップの定石を大きく覆した事例です。今回はメルカリのストックオプションの活用事例を見ながら、ストックオプションについてはメルカリを安易に参考するべきではない理由を説明していきます。今回の内容の結論は以下です。

「あなたの会社に合ったストックオプション設計をしましょう。メルカリの事例は気にせず。」

メルカリのストックオプション詳細

まず、メルカリ社のストックオプションの内容を見ていきましょう。

  • 発行回数:39回
  • 発行対象者:2,229人(同一に人物に対しての複数回発行を含む)
  • ストックオプション比率:20.9%
  • SO利益総額(公募価格にて利益確定のケース):580億円

全体の概要を見ると、圧倒的な発行量の多さに驚きますね。よくもここまで配ったなと思うほど、非常に多くの量と対象者に配っています。そしてSO持ってる全ての人が公募価格にて利益確定をさせると約580億円になると。とてつもない規模であることがよく分かります。ただ、この情報だけだとミスリーディングを引き起こす可能性があるので、山田的視点で重要な要素をグラフにしました。それがこれです。

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このグラフを見て気づくことがあります。

  • かなりの割合のSOを創業当初に配っている →発行したSOの半分は創業1年半くらいで配ってしまっています。実態としてSOは創業期のメンバーにかなり寄っているということです
  • SO比率が高まっている時の対象人数はかなり少ない →これが意味することは、重要人物の採用の際にかなりのSOを渡しているということです。SO比率がここまで高まったのは従業員全員に配ったからではなく、重要人物の採用に積極的にSOを活用したからでしょう
  • 逆に対象人数が多い時のSO比率はあまり上がっていない → 従業員全体には全体を通してかなりの少量しか渡していません(それでも十分な資産価値があるものですが)
  • 行使価格がかなり低い段階で大半のSOを配っている →公募価格が2,500~3,000円程度と予測されていますが、大半のSOの行使価格は350円未満のときに配っています。故に資産価値が非常に高いSOを渡していることになります

メルカリのストックオプションについて、最初に話題に上ったのは発行量の多さと従業員全員に配っているという点でした。でも、重要なところはそこではありません。重要なのは経営戦略上ストックオプションをどのように位置付け、いつ、どのように活用したからこのような配布になったのか。そして、その配布は組織人事としてどのような意味/効果を持っているのかです。以降、そこについて検討していきます。

メルカリだからできたストックオプション戦略

ストックオプションの内容を見ていくと、メルカリにとってストックオプションというのは経営戦略上非常に重要な役割を持っていたことがわかります。では、具体的にどのような意図でこれだけのストックオプションを発行していたのか。以降、山田による推測をまとめていきます。あくまでも推測ですのでご理解を。

まず、メルカリのビジネス環境として重要な点が三つあります。ストックオプションについての判断をする上で、前提となるような事柄です。

  • 事業がwiner takes allのCtoCマーケットプレイス領域であること
  • フリマ領域において後発組であること
  • 目指しているものが最初から世界であること

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僕は上記三つがSOに対する判断に大きな影響を及ぼしていると思っています。上記の前提は以下のように読み替えることもできます。

  • とにかくマーケットシェアが最重要。市場での2位以下は死を意味する
    • この場合株主にとっては希薄化よりも市場で勝つ方が優先されます。市場で勝てないと株式が無価値になってしまうので(通常、2位でも十分な企業価値になるのが普通です)。なので、優秀な人材を獲得する方が圧倒的に優先で希薄化しないことよりも、SOを使って採用するという判断に至ります
  • 巨大な市場があることはわかっている
    • CtoCのフリマ領域はもともとオークション領域という中古売買の市場があり、そしてメルカリの前にフリルが出てきており、それなりのトラフィックが出ていた。目の前に確実に大きい市場があることが見えていたわけです。市場で勝てればどれだけの企業価値がつくかも、予測がある程度可能な状態。そうなると、ストックオプションの不確実性が軽減され、現在価値が高まります。ストックオプションの現在価値(もらう側が認識する資産価値です)は将来の見込み時価総額×実現可能性で決まります。そして実現可能性の観点においてメルカリの場合、市場がどれだけあるかというよりは、市場で一位になれるかという自分たちの努力による勝ち負けの方が因果関係が強い。すると優秀な人からすれば、自分達が勝てる確率は高いと判断するので、SOの実現可能性が高まり現在価値は非常に高く感じてもらえる。早い段階からSOの価値を高く感じてもらえるので、有効活用すべきという判断になります
  • IPOは通過点でしかない
    • そして最も重要なことは日本は通過点でしかないと本当に経営者が思っていること。スタートアップは通常、最初のゴールをIPOに設定します。そしてSOはゴールに対するご褒美という位置付けになります。なので、IPOしたら権利行使して人が辞めていくということは通常のスタートアップでは起こることです。ただ、メルカリの場合、最初から目指しているのは世界であり、より長期的な成功であることを経営者が明確にしている。すると、IPOするための努力ではなく、より長期的な価値を生むための経営を行うため、IPO後もさらに株式価値が高まる可能性を従業員側は感じるし、日々の仕事もより将来の高い価値のためにという意識になる。つまり、世界を目指すことで、SOはIPOではなく、より長期的なインセンティブに変化する。より長期的なインセンティブなのであれば、通常のSO比率よりも多く配ることに対して抵抗はないし、IPO後も燃え尽きず、より長期的な目線で従業員に仕事をしてもらえるようになる。

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メルカリは近年のスタートアップ企業の中でも圧倒的に異質な存在です。通常のスタートアップ企業とはあらゆる前提が違うと思った方が良いと思ってます。そのためメルカリのSO事例を安易に参考にすると大変なことになります。「メルカリが20%配ったのだから、自社も20%までならいいのか」・「メルカリが従業員全員に配っているからうちでも全員に配ろう」こういう考えはやめた方がいいです。メルカリには20%配った理由があります。従業員全員に配った理由があります。メルカリの経営者たちが死ぬほど考えて導き出したメルカリにおける最善の答えがこれだったというだけです。メルカリには世界で戦える人材を集めなければならない理由があった。メルカリには従業員にIPOはゴールではないと伝える必要性があった。メルカリには短期的価値よりも長期的価値の方が圧倒的に重要であるとメッセージを伝える必要があった。それは明確に経営者の意思であり、経営者としての戦略です。

もちろんメルカリだからと言って、全てが完璧であるというわけではありません。例えば、メルカリの従業員の平均年収は500万ちょっとです。決して高い金額ではありません。メルカリにいる多くの優秀な人材を含めて500万円なんです。もちろんCSメンバーが多いことによって平均が少し下がっていることはあるでしょう。それでも、僕は報酬をSOの方に寄せたんだなと感じました。あえて、フローではなくストックを渡すことで同じ夢を追いかけてもらう方を選択したのだと。そうしないと、メルカリが目指しているものは実現されないのだなと。

ストックオプションインセンティブの一つの手段でしかない

スタートアップというとどうしてもSOがセットで語られがちです。ただ、SOはあくまでもインセンティブの中の一つの手段でしかありません。報酬はいくつもの手段があり、それぞれメリット・デメリットあります。スタートアップだからSOを配らないといけないわけでもないし、有名企業の事例を真似をしても上手くはいきません。インセンティブ設計は各社の状況によって最適なものは全く異なります。会社として何を目指しているのか、競争環境がどういう状況なのか、成長のためにどういった人材が必要なのか。これらを加味した上で、自社に最適な設計をする必要があり、この設計こそ経営者の腕の見せ所です。最近ストックオプションという言葉が一人歩きをしていますが、あまり気にしない方が良いのではないでしょうか。ストックオプションを発行しないで上場している企業もたくさんあります。重要なのは経営者とメンバーお互いの信頼関係であり納得です。僕はwantedlyがメンバーを搾取していたとは思いません。メルカリがSOを全員に渡したことがすごいとも思いません。ただのインセンティブとしてのオプションを行使しているだけです。そして僕らが見ているのは結果です。結果を見ればなんとでも言えますが、判断が求められるときには将来の結果はわからないのです。結果がわからない中で判断をする必要があって、そこに良いも悪いもありません。重要なのは、そのとき考えられる限界まで考えて、経営者が納得し自信を持ってメンバーに伝えられる意思決定をすることではないでしょうか。

結論:自分の頭で考えよう

スタートアップ経営というのは、先が見えなく、不安で、多くのプレッシャーに耐えなければなりません。だから、どうしても上手くいってる企業の成功事例に目がいってしまいます。でも、僕はそこに答えはないと思います。もちろん、定石はあります。そして成功事例から学ぶべきこともたくさんあります。ただ、それに溺れて思考停止することは経営者にとって最も恐ろしいことです。「あの会社がやっていたから」という理由で意思決定してしまっているものはありませんでしょうか?「スタートアップだから」と色んな好ましくない事象を正当化してしまっていませんでしょうか?経営は経済の上に成り立っています。科学的根拠に支えられています。でも、最後の部分は哲学の世界だと思うんです。そこに唯一の解はないし、合理性だけでは意思決定できない部分もあります。だからこそ経営は面白いし、全ての会社にオリジナリティがあるのです。起業家の皆様。どうかメルカリのSO事例は「そんな会社もあるんだ」程度に捉えておきましょう。「20%まで発行することもあり得るんだ」くらいの学びにしておきましょう。その上で、自分の会社はどのようなインセンティブ設計にするべきか。どのようなSO発行をすべきか。専門家を含めて議論し、自分の頭で考えましょう。そうやって自分で考えて決めた自分なりの答えに納得してくれ、ついてきてくれるメンバーと働く時間はきっと、かけがえのない時間になると思います。

COOとファスティング(断食)

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これは感動の体験記ではありません

GWにファスティング(断食)に行ってきました。元々興味があり、長期の休みが取れたら行きたいと思っており、ちょうど良かったので。今回はファスティングを体験した自分の思考をまとめるとともに、ファスティングというものをCOOの観点から考えてみたいと思います。そのため、"感動の体験記"が記載されているわけではありませんファスティングによる劇的な効果が書いてあるわけでも、明確な身体の変化が書いているわけでも、ファスティングを絶対にやるべき理由が書いてあるわけでもありません。ファスティングがどのように行われるのか詳細が書いてあるわけでもありません。あくまでも個人的なファスティングの体験の概要とファスティングという体験を通したCOO、経営者としての思考の変化を書いているだけであります。

ファスティングの目的

ファスティングという活動は身体的に疲れやすい自分にとっては非常に興味をそそる活動でした。そこで今回の主な目的は以下でした。

  • 蓄積した身体疲労の回復
  • カフェインの遮断による脳の活動トリガーのリセット
  • 外部情報の遮断による思考のリセット
  • 自然との触れ合いによる精神的なエネルギーの充填
  • ファスティングに対する自分の理解を深める
  • 大切な人との深いコミュニケーション(一番の目的でしたが今回は省略します)

大枠としてはあらゆるものを遮断することで、自己の体内をリセットしたいということが主目的で、特に「カフェイン」と「液晶画面」の遮断で身体に変化が起きるかを学びたいという想いが強かったです。

ファスティング概要

今回は初めてのファスティングということもあり、一番ライトに行える2泊3日のプランを選択しました。また、ファスティングというと寺で修行みたいなイメージが強いみたいですが、今回はヘルスリゾートと呼ばれる宿泊施設を活用しました。自然に囲まれた素敵なホテルで、プールやヨガや庭での散歩をしながらのファスティングなので非常に快適に過ごすことができます。

  • 期間:2泊3日
  • 摂取可能食材:指定のドリンクと水/お茶のみ
  • 場所:天馬夢

www.amamu.jp

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こんな緑道があったり

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大きな池があったり

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馬と触れ合えたりできます

いつの間にか終わってたファスティング

今回の体験を一言で表現するとすれば「えっ、もう終わり??」って感じでした。丸二日以上飲み物以外何も摂取しないわけで、体験前はめちゃめちゃ色んなことを想像していたのですが、特に何も起きませんでした(笑) 確かに常に胃は空っぽなんですが、異常な食欲が湧くとか、何か食べたくてしょうがないという感覚は一切なかったんです。おそらく指定のドリンクによって血糖値が安定していたからだと思います。ということで、ファスティング中のことについて書くことは何もありません。

と、思ったら帰り道が一番辛かった

盲点でした。施設を後にし、家まで帰るまでの帰り道。この間が食欲のピークでした。特に上野駅は厄介です。駅の中にあらゆる食材が陳列されています。これを見た瞬間に食欲がうわーっと出てくるんです。その時、理解しました。施設には食材がどこにもないんです。見えないんです。視界に入らない。これも食欲が強くならなかった要因だったのだと。人間とは目の前にあると、どうしてもそれに対する欲が強まるのだと。食材が見えた瞬間に身体が反応するのです。人間とはこれほどまでに「自己」ではなく「環境」に依存するものなのかと改めて考えさせられました。

ファスティング体験まとめ

現状のファスティングに対する理解と身体に起きた変化をまとめると以下のようになります。

  • 身体の変化
    • 体重は0.7kg減
    • カフェインなしでも脳の活動を感じるようになる
    • 目の疲労がなくなり、慢性的な疲労が弱まる
    • 寝起きが少し楽になる
    • 集中して活動できる時間が長くなる
  • 食欲について
    • 血糖値が安定しているとそこまで強い食欲は湧かない
    • 少量の食事でお腹がいっぱいになるようになる
    • ファスティング中よりも帰り道が辛い
  • ファスティングに対する理解
    • 手法によっては全く辛い活動ではない
    • ファスティング中よりもその前後の過ごし方によって効果が変動する
    • ファスティング自体よりもどうやるのか方が重要。自分一人の自力で実行するのは相当完遂難易度が高い
    • 身体は目の前にあるものに反応する
    • 効果は一定あるが劇的なものではない
    • 一回というよりも定期的に実行し、少しの効果を期待するのが良い

COOがファスティングをして考えたこと

今回ファスティングを通して感じたことが一つあります。実は今回のこのファスティングに一人5万円払ったんです。消費者というよりは経営者として衝撃を受けました。2泊で5万円なので1泊で2.5万円。部屋での値段ではなく、一人あたりなので参加人数が増えても単価が下がるわけではありません。食事は出ません。接客が一流なわけでもありません。場所は僻地です。このお金があれば一流ホテルに泊まることも可能なわけです。にも関わらず、消費者としての自分は何も気にせず申込みをしたし、同日は満室でした。「何も提供しないこと」が価値になっているということに対して、経営者は真剣に考えないといけないなと感じるわけです。明らかに時代の空気が変わっている。あえて何もない方を選択する消費者。そして何もない時間を"良い"時間だと感じる消費者。一体我々の中に何が起きているのか。一体我々は何を求めているのか。何のために人はサービスを提供し、わざわざ仕事をしているのか。経営では"付加価値"という言葉をよく使います。価値を加えることが企業の役割であると。そして、これまでサービスや機能を"加える"ことで価値を加えていた。でも、ファスティングという体験はサービスや機能を減らすことで価値を加えることに成功した。いや、もしかしたら価値を"加えた"という表現は間違っているのかもしれない。今回のファスティングに価値を見出したのは紛れもなく自分自身であり、自分が勝手に解釈して価値を感じ取った。そこに付加価値があったわけではなく、消費者である自分が勝手に価値を発見したという表現の方が正しい。ファスティングという体験には余白がたくさんある。ファスティング中に何をするのか自分次第であり、何を考えるのか自分次第であり、ファスティングという活動をどう解釈するのかも自分次第。もしかしたら、そういう余白が消費者を冒険へと導き、自分で価値を見出すきっかけを作っているのかもしれない。決してファスティングの価値を誰かに説かれても、僕はファスティングに価値を見出さなかっただろう。自分で考え、自分で試し、自分なりのファスティングの位置付けを見出したからこそ、ファスティングに価値が生まれ、それをサポートしてくれる施設/サービスにはお金を払う。それが今回の消費の正しい理解であり、このような消費の形こそこれからの時代のスタンダードになってくるかもしれない。新しい消費のあり方、新しい付加価値の付け方について改めて考えさせられる体験でした。

皆さんもぜひ"余白"を楽しむファスティング体験を。

【スタートアップ原則シリーズ】2.「採用は幻想である」

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スタートアップにおいて「採用」というテーマは欠かせないテーマである。どれだけ良い採用ができるかがスタートアップの成功確率に大きな影響を及ぼすからだ。これは間違いのない事実である。同じ事業を始めたとしても、良いチームを集めた方が勝つ。それがスタートアップだ。

しかし、採用が注目されればされるほど、採用すること自体が神聖化され、常に正しい活動であると認識されがちである。果たして、どんな時にも採用は正しい活動となりうるのか。SCOUTER社の数々の失敗を通して学んだこと、人材業界に身を置くCOOとして感じていることをまとめました。

採用という幻想

スタートアップにとって採用が重要であるという情報はどんどん増えている。このような記事が参考になるだろう。

「たった一人の採用で企業は変わる」スタートアップの成長を支える『人』の重要性 | HR NOTE

web.all-in.xyz

logmi.jp

ただ実際にスタートアップとして採用をしてきた身として感じたのは「採用は幻想である」ということだ。あえて今回はこの幻想側の話をしたい。採用は万能の薬ではない。どちらかと言えば、劇薬に近く上手く効く時もあれば副作用もある。採用が会社が抱える問題解決に寄与する確率はそこまで高くはない。確かに採用はしなければならない重要な活動だが、採用が上手くできれば会社が成長できるという認識は今すぐにやめた方が良い。それは大きな間違いである可能性が高い。SCOUTER社でも採用に力を入れ、採用によって問題を解決しようとした時期があった。今はその時期に比べると従業員数は30%以上少なくなったが、パフォーマンスは現在の方が圧倒的に高い。人が少なくなってパフォーマンスが高くなるという現象は、なかなか理解しにくい現象だが事実として起きることなのである。この先、その理由を記載していくが先に総論を記載しておく。

「採用をすることよりも、採用しなくても成長できる仕組みを創るのが本当のスタートアップである」

採用すると何が起きるか

採用という行為が奇妙なのは、「一人の採用」が組織に与える影響が想像以上に大きいということだ。しかも、悪影響に限って。10人いるスタートアップだとして、11人目の採用というのは感覚的に「たった一人」である。全体の10%にも満たないため、影響も10%以内と想像したくなる。しかし、実態としては全く異なる。一人の人員増が組織に非常に大きな変化をもたらすのだ。それが以下の事象である。

  • コミュニケーションパスが指数関数的に増える
  • 「他責同盟」が増殖的に増える
  • 故に非本質的な"人"の問題が爆発的に増える

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コミュニケーションパスが指数関数的に増える

コミュニケーションは常に人と人の"間"に存在する。つまり、人が増えるとそれだけ新しいコミュニケーション、"間"が作られる。コミュニケーションパスとはこの"間"を表現するコミュニケーションを行う人同士の連絡経路の数のことである。組織を考える上では人の数よりも圧倒的にコミュニケーションパスの数の方が重要だと思っている。なぜなら、組織に与える影響は人一人の労働力が生み出す生産よりも、一人が増えることによるコミュニケーションパス増加のコストの方が高い可能性があるからだ。コミュニケーションパスが増加すると具体的には以下のような現象が発生する。

  • 情報が一部のコミュニケーションパスで停滞する
  • トップが知らないやり取りが頻発する
  • コミュニケーション自体が偏る

経営側からすると、どんどん「伝わらない」「状況が掴めない」「思い通りに進まない」ことが増えるのである。そしてそれはスピードの低下に繋がる。スタートアップにとっての生命線であるスピードが指数関数的に下がるのである。

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「他責同盟」が増殖的に増える

スピードが下がった後に起きることは、「他責同盟」の増殖である。「他責同盟」とは自分の責任で物事を考えず、常に周りのせいにする、しかもそれを個人ではなく同盟を組むことで自分たちを自己正当化する存在のことである。ただ先に言っておきたいのは、原則人間というのは他責の動物であるということである。大概のことに関して人間は他責である。人間は当事者意識を強く持ったもののみに自分の責任で考えるようになる。なので、他責という現象は常に誰にでも存在するもので、それが"今この瞬間発動しているかどうか"の違いでしかない。なので、他責同盟というのは会社を経営していれば必ず発生する。それを阻止することは不可能だと思っていた方が良い。重要なのは採用すればするほど、その数はどんどん増えていくという事実である。他責同盟はパレートの法則の原理で常に増え続ける。上位2割以外は他責同盟に引き摺り込まれていく。これまで他責じゃなかった人も、人数が増え8割に所属すれば他責になる。人間というのはそういうものであり、経営者としては辛いが個人的には程度はあれど、所与の条件としてあらかじめ想定しておいた方が良いと思っている。

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故に非本質的な"人"の問題が爆発的に増える

コミュニケーションパスが増加し、他責同盟が増えると、驚くほど"人"の問題が起きる。そしてそれは自分たちの事業には何一つ関係のないことなのである。これこそ、採用を"幻想"たらしめる最大の要因である。「採用したらあれができる、これができる」と夢が広がるが、大概は思い通りにいかない。必ずスピードが落ち、他責が増え、"人"の問題が生じる。経営者は事業の事ではなく、組織について考えることを強いられる。そうでないと、組織が組織でいられなくなる。それほど、人が増えるというのは負の影響も大きい。参考としてSCOUTER社で起きた"人"問題の一例を記載しておく。

  • 悪い情報を隠すことが増え、問題への対応が遅れてしまう
  • 周りの人に対する不満が増え、モチベーションが下がる
  • コミュニケーションに気を使わないと上手くいかない人が増え、精神的にイライラする
  • モチベーションが低いメンバーに吊られ、周りのメンバーもモチベーションが下がる
  • 同盟で社長批判を始める

あくまでも一例だが、これらに対処するために経営メンバーは多くの時間を割くことが求められるようになった。これらの問題に対処するのが経営の役割だと言われたらそうかもしれないが、創業者からしたらこのような問題に手を取られたくないという想いが強いだろう。採用というのは、これらへの対応とのトレードオフになりがちであるということを常に頭の中に入れておいた方が良い(もちろんこれが起きない採用ができたら理想だが)

採用しなければならないことに後悔するべき

スタートアップ的な成長というのは人間の労働力によってもたらせるものではない。その技術的な、ビジネスモデル的イノベーションによって成長はもたらせる。これを真とするならば、採用することよりも、採用しなくても良い仕組みを創ることの方が重要である。採用する側は採用の成功を喜ぶと同時に、「採用しないで済む方法はなかったのか、採用をもっと遅らせることはできなかったのか」と後悔するメンタリティを持つべきだと思う。採用できることよりも、採用しないで済む方がより有意義だからだ。採用は目に見えて人が増えるという成果を実感でき、そして従業員の数は目に見えて成長を実感できる。だからこそ、採用中毒にかかってしまうこともある。ただ、それは幻想に過ぎない。常に求める人材を採用できるように活動していくことは重要であるが、採用が上手くいくことは常に重要であるとは限らない。採用自体が誤った手段であることはスタートアップにはよくあることなのである。

スタートアップが取るべき唯一の人材とは

数々の採用に失敗してきた上で、最近行き着いた採用すべき人材の結論がある。それは「今後の採用のスピードを遅らせることができる人材を採用すべき」ということである。スタートアップには常に新しい問題が生じる。それを事前に認識するのは不可能だ。その中で新しい問題を解決するためにいちいち採用を行なうのは割に合わない。そうではなく、新しい問題が発生した時に今のスキル/知識では解決できないのであれば、自らそのスキルを高め、解決できる人材になろうとする人を採用すべきである。今あるスキルだけでなんとかしようと思ってる人、自分の領域を決めつけてそれ以外やろうとしない人はスタートアップには要らない(少なくともシリーズAまでは)。以下は、SCOUTER社で活躍しているメンバーの一例である。

  • エンジニアであってもデザインを勉強する人
  • マーケッターでも採用・組織づくりを勉強する人
  • 顧客のためなら領域問わず(顧客業務からプログラミングまで)何でも取り組む人

このように目的達成のためなら何でも手段として取り組む、しかもそれが上司の命令でなく、主体的に自らの成長の機会と捉え動ける人こそスタートアップが採用すべき人材だと思うのです。それを面接で見極めるのが恐ろしいほど困難なのですが。

*「私、多分そういう人材です!」と思っている方はぜひランチでもお茶でもいきましょう。DMしてもらえれば必ずお会いいたします!! twitter.com

【たった5STEP!!】COOが社長の信頼を勝ち取る方法を教えます

会社を創業して4年半が経ち、僕にはいつの間にかCOOという肩書きがついていました。最初からCOOをやりたいと思っていたわけではないですし、気づいたらそうなっていたと言った方が正確でしょう。そして、組織は少しずつ大きくなり今は十数名のメンバーがいます。色んなメンバーが入り、そして去ることもありました。その中で会社を去って行った人の多くは社長との信頼関係を築けていなかったなとふと思いました。もちろん、良い会社の去り方をした人もいましたが、やはりネガティブな去り方をする方はまだ多いです。もちろんそれは組織課題として今後解消していかなければならないのですが、今回は個人の方に焦点を当ててみたいと思います。僕は「創業メンバー」だからと特別視されることがあります。でも、それは間違いだと思うんです。「創業メンバー」だから社長と上手くやっていけてるわけではありません。創業メンバーで会社を去ったメンバーもいます。それは上手く行かない人の言い訳に過ぎません。僕はいつ、どんな立場で入ったとしても社長との信頼関係を築けると思いますし、社長との信頼関係を築くことはその会社で生きるその人にとって、非常に重要な要素だと思います。信頼関係を築くことが、物事をスムーズに進め、自分のチャンスを増やし、結果として多くのリターンを得ることができる。スタートアップで仕事する上で一番最初に行うべきことは社長との信頼関係を築き上げる事だと思うわけです。今回は社長を一番近く見てる立場としてどうしたら社長からの信頼を勝ち取ることができ、自分の仕事をやりやすくできるかまとめてみました。あくまでも僕なりのやり方ですが、社長と特別仲が良いわけでもなかった自分が社長と信頼関係を築いていきた方法なので、多くの方々が実践できる内容だとは思います。

STEP1:社長からのタスクは最優先で終わらせろ

大前提、社長というのは会社のことを一番真剣に考えている人です。そして社長は会社の「全て」について考えなければいけません。すると社長は常にマルチタスク状態になるわけです。マルチタスクというのは聞こえは良いですが、地獄です。社長には"深い"思考が求められます。その深い思考をマルチタスク状態で実現することは不可能なのです。なので社長はどうするかというと、「一つのことに対して一気に考え、一気に結論をだす」。これを何回も繰り返すことで会社の「全て」に対して「深く」考えることを実現しています。この状況を理解すると社長とコミュニケーションをする上で重要なポイントが見えてきます。社長がタスクを指示するときというのは、まさにそれについて"今"考えているわけであり、そのタスクが終わらないと社長は次のことを考えることができないということです。つまり、あなたへ指示されたタスクが常に社長の思考のボトルネックになる可能性があるということです。そのタスクを終わらせないと社長が次に行けない。次に行くとしたらマルチタスク状態に陥る。これ社長からするとすごいストレスであり、生産性が低い状態なのです。ちなみに、「事前に予測してタスクを早めに指示出しすれば良いのに」って思う方。それは無理です。社長は最も不確実性と戦っている存在です。事前の計画なんて当てになりません。なので社長は"今日中に"とか"明日までに"という無茶ぶりをよくするのです。確かに無茶ぶりなんですが、逆にいうと社長に無茶ぶりをするなという方が無茶ぶりなんです。そういう仕事なので。ということで、あなたがやるべきことはたった一つです。社長からタスクを振られたら無条件にそれを最優先にするということ。そして最速で終わらせる努力をすること。スピードは信頼の土台です。社長から「早いね!!」って言われたら合格点です。このスピード感を自分の中に染み込ませ、社長のボトルネックにならないことが信頼関係の第一歩なのです。このタスクに意味があるのかなんてことは考えなくて良いです。会社のことを一番真剣に考えている人が、指示するタスクなんで何かしら意味があるんです。意味を考える暇があったら、終わらせることに集中しましょう。

STEP2:「できない」を言うな

社長が嫌いな言葉ランキングを作るとしたら一位は「できない」じゃないでしょうか。「できない」と思ってたらそもそも起業しないですし、できると思ってるから言ってる訳です。当然社長の知識不足で実現不可能なことを言うこともあるでしょう。ですが逆に言うと、社長のその「やりたい」を叶えるためにあなたがいるわけです。その領域の専門家としてより実現可能性の高い方法を探るのがあなたの仕事です。社長にとって「できない」という言葉は言い訳でしかありません。失敗するのが怖くて自己保身をしたい人間の言葉でしかありません。社長は基本そういう人が嫌いです(笑)。もちろん時にはリスクを示したり、社長の意見を否定するときは必要です。ただそれは、あくまでも会社を前に進めるためのものであり、会社の動きを止めるものになってはならないのです。「できない」と思っても、まずはやってみましょう。全力でやって、できなかったことに対して社長は怒りません。「あっ、これはできないんだ」と学びます。社長が怒るのはやってもないのに「できない」と言ってやらないその"考え方"なのです。

STEP3:常に先手を取れ

社長は大抵、極度のビビリであり不安症です。それは優れた社長の資質の一つなのです。なので、「あれどうなってる?」「これはどうなってる?」ってめっちゃ聞いてきます。しかも突然。そして何も準備しないまま、あたふたして「えっと、、こんな感じです」と報告し、更に不安が募りどんどん質問が増えるという悪循環に陥ります。一通り事が終わった時に、「事前に言ってくれれば準備したのに」とか、「こういう言い方した方が誤解与えずに済んだのに」とか思う事がよくあるでしょう。ただ、僕から言わせれば社長に確認させてる時点でアウトです。社長が気になる前に報告すべきものは自ら報告する。常に先手を取るべきなのです。社長とコミュニケーションを取っていくと、どのくらいで社長が聞いてくるか、どういう時に社長が聞いてくるかはわかってくるはずです。なのでその一歩手前であなたから動くのです。あなたから動けば社長は「ちゃんと考えているんだ」と安心します。それが悪い報告でもです。悪い報告であるならばどう解決すべきか、すぐに相談に乗ってくれます。これが社長の確認から始まった場合だと、「どうすんの?」「今まで何やってたの?」という手をつけられないモードになるんですね。このモードは不安の極限状態だと思ってください。重要なことは不安を解消してあげるように先手で情報を渡すことなのです。

STEEP4:社長よりもできることを一個身につけろ

今は専門性の時代です。何事もそつなくこなす人よりも、何か一つでも圧倒的に優れている人の方が価値が高い時代になりました。そして、社長というのは仲間集めが最も得意な人です。社長は自分のスキルを高めるのではなく、自分よりもスキルの高い人を集めることで、最短で目標を達成していくのが仕事です。なので、社長が仕事を任せたい人というのは"自分にはできないこと"をできる人なのです。あなたが重要な仕事を任されたいのなら、自分にこう問うてください。「自分が社長よりもできることとはなんだろう?」と。その答えがあなたが社長から任される仕事であり、社長があなたに仕事を任せる理由なのです。

STEP5:3ヶ月に一度、期待を大幅に超える提案をしろ

上記4つを実践すればかなり社長の信頼を勝ち取る事ができると思います。少なくとも社長があなたに対して「不安」を持つことはないでしょう。ただし、それだけでは絶対的な信頼というのを得ることはできません。もしあなたがボードメンバーだったり、会社の運命を左右する重要な仕事を任されたいのであれば、必ず達成しなければならない事があります。それは社長の期待を「大幅に」超える事です。これができないと、本当に重要なことを任されるようにはなりません。そして社長の期待値水準とはベーシックめちゃめちゃ高いので、「大幅に」超えることってすごい難しいんですよね。ただ、ここにはコツがあると思ってます。重要なのは「頻度」「黙って準備する」という二点です。まず頻度ですが、3ヶ月に一度くらいがちょうど良いと思ってます。そんな頻繁に期待は超えられませんし、期待を超えるためには準備期間が必要です。ただ逆に期間が長すぎても、評価が蓄積されていきません。そうなるとスタートアップだと3ヶ月がちょうど良いのです。会社の方向性に合っており、かつ社長が考えもしないような切り口の提案を3ヶ月間準備して提案するのです。そして次のポイントはこれを「黙って準備する」ということ。先に言ったら期待値が高まってしまいます。期待値低めの中で提案するからこそ、差分が大きくなるのです。なので、日々社内でテーマになっているようなことに関する提案はあまり好ましくありません。日々議論されているので。そうではなく、誰かに考えて欲しいのだが、今は手をつけられないことや、長期的には考えないといけないような課題に対してのアイディアを「勝手に」・「黙って」考えていくのです。3ヶ月間考えると相当自分の中で突き詰めることとなり、自信もみなぎってきます。その状態でプレゼンするんです。すると社長からすると度肝抜かれるわけです(もちろん、社長は強く見せたがりなんで度肝抜かれたみたいな反応は見せませんがw)。そして、こいつは「会社に不可欠な存在」として社長からの強固な信頼を勝ち取る事ができるのです。もちろん、3ヶ月考えて提案したが、社長が考える方向性と違くて拒否されることもあります。その時はすぐに身を引きましょう。ダメな時はダメなんです。次のアイディアを考えた方がいいです。という事で、3ヶ月に一度、期待を大幅に超えられるようになったら社長からの信頼は確固たるものになります。

結論:社長についていけないと思ったらすぐに転職しましょう

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まとめると信頼というのは「スピード」→「マインド」→「情報共有」→「スキル」→「感動」という順番で少しずつ積み上げていくものであるということです。まぁ、この5STEPを見ると「えっ、社長のためにここまでしないといけないの?」みたいに思う人もいるでしょう。もしくは「私は今の社長のためにここまではできない」とか思う人もいるかもしれません。僕からすればそう思うのであれば今すぐに転職した方が良いと思います。上記のことをやっても良いと思える社長がいる会社に行った方が良いです。これはスタートアップに限った話ですが、それくらいスタートアップにとっては社長が全てです。なぜなら創業社長がいなければこの会社はなかったわけで、社長は人生の全てを賭けているので。社長が命をかけて、不可能だと思われていることや、今まで存在しなかったものを新しく産み出そうしているわけです。だから僕はスタートアップ企業というのは社長のものだと思っているし、IPOするまではそういうもんだと思います。その中で"社長"を言い訳にするのであれば、それはあなたのいるべき場所ではありません。今いる会社で、社長についていきたいと思うのであれば、変わるべきはメンバー側だと思ってます。自分自身がそうやって変わってきたし、水準の高い人間の近くで変われてきたから、ここまで成長できたと思っています。スタートアップってそういう場所なのです。

"名詞"で考えるキャリア論はもう終わり。新入社員へ告ぐ。「キャリアは"動詞"で考えろ」

「名詞」で考えるキャリア論の時代は終わった

新年度が始まり、新社会人になった方、転職をして新しい場所で働く方。みなさんにお聞きしたいことがあります。

「あなたはご自身のキャリアビジョンを持っていますか?」

YESと答える人の方が少ないかと思います。キャリアビジョンってなんか難しい。考えるの大変。自分のやりたいことなんてわからない。就職活動でも転職活動でもよく聞かれるので、キャリアビジョンを持っていない自分に嫌気がさすこともあるかもしれませんが、はっきり言います。キャリアビジョンは無意味なので大丈夫です。全く問題ありません。なぜか。あなたの描くキャリアビジョンがその通りに行くことなんてまずないからです。時代の変化が早すぎる今、「職種名」で考えるキャリアプランに意味はありません。10年前には「youtuber」という仕事はありませんでした。「データサイエンティスト」という職業もほぼなかったでしょう。そう、10年以上のスパンで考えた時に、今と同じ仕事があるとは限らないですし、今存在しない仕事もたくさんあるのです。今、キャリアビジョンを考え、決め、その通りに実現することを目指すということは、将来存在しない仕事を選択肢に入れているということであり、逆に今存在しない選択肢を含めずに決めるということです。そんなキャリアの計画をあなたの人生として決めてしまうのはあまりにも、もったいないことなのです。

人材業界で会社を起こし、これまで多数の方のキャリア相談に乗ってきました。今回はキャリアという概念のど真ん中に身を置いているものとして見えてきた、これからのキャリア論について書いてみたいと思います。結論はタイトルの通りキャリアは「動詞」から考えるべきであるという内容になっております。サマリーは以下の表のみで伝わるかと思います。少しでも参考になったら幸いです。

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「名詞」で考えることの脆さ

「名詞」で考えるキャリアビジョンとはどのようなものか。例えばこんなの。

私は新卒で総合コンサルティング企業に就職して、経営の基礎を学びます。様々な業界に触れ、マネージャーまで上り詰めたいと考えております。その間にMBAを取得して、経営への知見を深めます。次に事業会社のマーケティング部門へ転職し、ブランド戦略を担当。商品をヒットさせるノウハウを学びます。そしてベンチャー企業にて新規事業の立ち上げにトライ。そこでSNS関連のサービスを事業責任者として開発したいと考えています。

非常に極端な例ですが、この文章はほとんど「名詞」で構成されているんです。「コンサルティング」「マネージャー」「MBA」「マーケティング」等。こういう名詞を組み合わせたキャリアビジョンにたいして価値はありません。名詞には以下の特徴があるからです。

  • 名詞が社会の変化によって生まれたり、消えたりする
  • 名詞自体の意味/解釈が社会の変化に伴い変わる
  • 人の名詞に対する興味・関心は変わりやすい

特に人間の名詞に対する興味・関心の移ろいというのは自分が想像している以上のものだと思います。人生好きになったものを永遠好きでられる自信ありますか?子どもの頃好きだったけど、今は興味ないものありませんか?これまで興味なかったけど、突然好きになったものとかありませんか?

「名詞」というのはつまるところ外部環境に非常に依存するんです。名詞で作ったあなたのキャリアビジョンは社会の変化・関わる人の変化等で簡単に変わってしまう非常に脆いものなのです。

これまでの時代は、一人の労働者=一つの名詞で生きる時代でした。20代で始めた仕事を定年まで勤め上げる。これが基本です。そのような時代には名詞で考えることが有効だったと思います。しかし、これからの時代はどうか。これからは100年仕事を続けることを求められる時代です。一つの職業で100年働き続けることが非常に難しい。そして社会の変化のスピードが指数関数的に上がっている。一つの名詞にしがみつくことはできないし、そんな人生はつまらないものになるでしょう。この人生100年時代への変化については『ライフシフト』という名著があります。ぜひ目を通しておくと良いかもしれません。

では、「名詞」で考えるべきではないとすれば、どうすれば良いのか。キャリアについて何も考えなくていいのかというとそれは違います。自分の今後のキャリアや自分の市場価値について考え、意識して日々働いている人と、何も考えていない人の差には大きすぎる隔たりが生まれます。目の前の仕事に対して取り組む姿勢や、全ての意思決定に関する質が変わり、それが積もると大きなビジネスマンとしての価値の差になるのです。だからこそ、キャリアに対する考え方をアップデートする必要があります。

キャリアは「動詞」で考える

キャリアは「名詞」でなく「動詞」で考える。これをオススメします。動詞で考えるとはどういうことか。それはこの質問に対する答えを考えることです。

「あなたが夢中になってしまう動詞は何ですか?」

人生を動詞という視点から考えることで、自分の揺るがないものを見つけるということが新しいキャリア論だと考えております。自分の人生を思い返してください。きっと好きな動作はずっとやってきたし、嫌いな動作はずっと避けてきたでしょう。例えば「計画する」が好きな人もいるでしょう。自分の考えを「説得する」ことが好きな人もいます。みんなの意見を「まとめる」ことが好きな人もいるでしょう。逆に自分の意見を「主張する」ことが嫌いな人は多いかもしれません。ちなみに私は「電話する」という動作がどうしても嫌いです。このように人には好きな動詞と嫌いな動詞があるはずなのです。そして、それが今後の人生で劇的に変わるイメージはなかなか持てないと思います。重要なことは好き嫌いが「名詞」だと変化する可能性が高いが、「動詞」だと揺るがないということです。好きな動作はいつまでも好きであり、好きな動作を仕事にすることがこれからの重要なキャリア戦略となります。

市場価値は「得意」ではなく「好き」で高める

よく仕事を得意・不得意で考える人がいます。特に若い方はこの傾向が強いようです。しかし、私はこの考えに否定派です。なぜなら若い頃に自分が認知している得意・不得意は誤差でしかないからです。おそらくこの認知はこれまでの学生時代の活動の結果から得た認知でしょう。しかし、学生時代の活動はコミットレベルがビジネスの世界とはやはりレベルが違います。すごく限られた時間・リソース等の中で、生まれる差なんて大したことありません。現状の位置よりも今後の伸び代の方が圧倒的に重要なのです。そして伸び代は「好き」なことの方が圧倒的に伸びるのです。

「動詞」×「好き」=最高のキャリア戦略

好きな動詞を見つけ、その動詞にコミットすることが自分の伸び代を伸ばす最善の方法です。あなたにも必ずあるはずです。対象物が変わってきたとしても、妙に好きで暇があるとやってしまう「動作」が。その動作が占める割合が多い仕事こそ、あなたが取り組むべき仕事・職業です。なぜなら世の中に存在する職種とは「ある似通った動作を集約し名詞にしたもの」だからです。例えば営業(売り切り型の営業)というのは以下のように表現することができます。

営業→お客様の話を「聞き」、課題を解決できる内容を「提案し」、提案を受け入れてもらうよう「説得する」仕事

このように自分の好きな動詞・動作から職種である名詞へと考えていくのが適切な順番なのです。そして動詞から考えると思いもよらぬ気づきを得ることができたりします。動詞は名詞を横断することができるのです。つまり、好きな動詞を見つけることは、今の自分が想像もしていない職種への可能性も見えてくるのです。例えば「仮説を立てる」という動詞が好きな場合、もしかしたら「営業」の仕事を好きになれると同時に「データサイエンティスト」の仕事も好きになれるかもしれないからです。両方とも「仮説を立てる」回数が多いからです。扱う対象はお客様とデータと真逆で、名詞から考えれば絶対に繋がらない仕事ですが、動詞から考えるとそこに繋がりが見える可能性もある。

市場価値とは市場の中での"希少性”で決まります。希少であることが重要で、希少であるためには組み合わせることが重要。その時に、動詞を活用したキャリアの組み合わせは非常に有効なのです。「データ分析もできる、営業マン」ってだけで希少性は恐ろしく上がるのです。世の中には優秀な営業マンはいくらでもいますが、「データ分析ができる」営業マンはほとんどいないのです。だからこそ、「動詞」×「好き」で見つけた自分なりのキャリアの組み合わせは自分の市場価値を上げるためのヒントになるのです。

市場価値の上げ方は藤原和博さんの考え方が非常に参考になります。

president.jp

COO 山田の場合

ここからは新しいキャリア論を実例を私、山田の場合で見てみましょう。私の好きな動詞は以下の三つです。

  • 体系化する
  • 予測する
  • 準備する

この三つの動作に関しては対象物が何であろうが好きな場合が多いですね。特に体系化するはどんなものでもワクワクしますし、熱中してしまいます。たとえその結果が上手く行かなかったとしてもその動作を"やること自体"が好きなのです。予測するに関しては趣味が競馬なのですが、競馬を好きになった理由がまさに予測するゲームだからです。競馬のギャンブル性が好きというよりも、ギャンブルの中で最も予測性が強かった競馬に興味がいったという感じですね。

ということで、この三つの動詞で山田はキャリアを考えているわけですが具体的にはどんな仕事をしていくことになるのでしょうか。それを図にしたものがこれです。

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「事業計画」×「経営管理」×「組織人事」が今の社会の名詞で説明すると私が取り組むことであり、狙っているポジショニングでございます。自分がこのポジショニングを目指し、実際の仕事として実行しているからこそ、SCOUTER社にはまだCFOが不要であるという判断を下したり、逆にこの領域以外の部分は代表の中嶋にやってもらっています。COOという肩書きは非常に曖昧で、悩みが多いポジションになりやすいですが、私個人としては非常に明確であり自分なりのCOO像を見出すことができております。それは全て名詞ではなく、動詞をもとに考えていったからだと思います。

「動詞」であなたの「集中」を見つけてください

仕事のために人生はあるのではない。人生のために仕事はある。キャリア論を語るときにはこれが原則のはずです。人生のための仕事を得ることがキャリア論のあるべき姿だと思います。しかし、現代のキャリア論は仕事のための人生を助長しているように思えます。キャリアに「べき論」が蔓延し、みんなが同じことを言い出す。そんなキャリア論に意味はあるのでしょうか?

幸せを目的としたキャリア論を考える際に非常に参考なる研究があります。こちらの動画から研究の主張を見ることができます。

www.ted.com

幸せとは目の前のことに「集中」することで生まれるというが研究の主張です。そしてこれは私の経験上でも非常に正しいように感じます。幸せになりたいのであれば、仕事を好きな「動作」で埋め尽くす。そして好きな「動作」に没頭し「集中する」。するとこんな好循環が生まれます。

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そして、このループが「動詞」という軸をもとに複数の「名詞」を横断し、どんどん高次元になっていく。そうやって螺旋のループを上がっていくと、気づいた時には自分自身が唯一無二の存在として市場価値の高いビジネスマンになっているのです。未来を正確に予測することは誰にもできません。なので、名詞で考えても正確にそこに行きつけるわけではありません。そうではなく、「動詞」という軸を見出しておく。その軸にハマるその時の「名詞/職種/仕事」に集中していくことが自分の市場価値を高める近道だと思います。

これまでは「経験」が何よりも求められる時代でした。しかし今や経験は有効ではなくなりつつあります。思えば経験というのは「名詞」で語る行為です。これから求められるのは"あなたはどんな動作を上手くできるのか"という「スキル」であり、「動詞」で語る行為です。

経験よりもスキルが求められる時代。そんな時代に必要なキャリア論こそ「動詞」で考えるキャリア論なのです。あなたがより幸せになるために、自分な好きな「動詞」からこれからのキャリアを考えてみてはいかがでしょうか。

スタートアップで必ず「期待通りにいかない」3つの言葉

組織は「言葉」に裏切られる

組織というのは集団活動であり、集団において「言葉」というのは非常に重要な要素となっております。組織や経営というのは見方によっては「言葉」で構成されているとも理解でき、どのような言葉が使われてるか、社内で飛び交っているかは事業の成否を決める重要ファクターだと思います。そして「言葉」には期待と現実があります。もちろん、それぞれの場面によって言葉が持つ意味は大きく変動しますが、スタートアップにおいてよく使われる言葉の中には残念ながら期待と現実の乖離が激しい言葉があるのです。そのようなギャップの大きい言葉が社内・部下からよく出てきた時は、組織の危険信号として捉えるべき状態かもしれません。

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期待通りにいかない言葉ランキング

1位:体制を変更します

2位:戦略変えます

3位:新機能を作ります

これらの言葉は確かに大きな変化を意味します。しかし、だからこそこれらの言葉に人は甘えます。あまり深く考えずに、言葉の力に引っ張られ、効果が出ると"期待"し、現実に"失望"するのです。

1位:「体制を変更します」

去年のSCOUTER社で一番良く聞いた言葉がこれです。体制が悪かった、役割分担を変えれば上手くいくという意見で、確かに大きな変化のように感じます。ベストな体制に変えたのだから何か改善されるだろうと上司も思うことでしょう。ただ、何も変わらない可能性の方が高いです。なぜならば、本質的にやることは変わってないからです。いくつかのオペレーションをやる人が変わったり、肩書きの入れ替えっこをしたところで、何も数字は改善されません。そして体制の変更コストは大抵高くつきます。何回にも渡る体制変更はメンバーの習熟を妨げたり、深く考える機会を奪い取ってしまうため、成長速度が遅くなります。この言葉を聞いた場合、本当にそれが意味あることなのか、一度立ち止まって問いかけたほうが良いでしょう。それは効果的なアイディアが浮かんでないからやる、騙し騙しの策ではないのかと。

2位:「戦略変えます」

この言葉もよく聞きますね。戦略変えるんで大丈夫ですと。これ、大丈夫じゃありません。なぜなら以下の二つを抱えている可能性が高いからです。

  • そもそも戦略は安易に変えるものではない
  • ここで言ってる「戦略」は「戦術」程度のものでしかない

「戦略」という言葉が人にもたらす期待はものすごいものがあります。ハイパーインフレ状態です。戦略を変えたら上手くいく。上手くいっていない原因は戦略が悪いから。これが思考停止状態に陥った人の基本フレームになります。これが本当に危険。スタートアップにおけるあってはいけない症状がどんどん生まれていきます。他責思考であったり、やり切らずに次へ行ってしまう等。なので、基本メンバーには「戦略」という言葉は使わせない方が良いと思います。戦略は事業戦略として経営が定めることであり、経営が変更するものである。故にメンバーは既存戦略の範囲内で思考することに務める。これを基本にすべきだと思います。すると、メンバーの思考は常に具体的なものに変わり、一つ一つの施策の精度が圧倒的に高まります。「戦略」という逃げ場を与えないことがメンバーを思考に走らせるのです。

3位:「新機能を作ります」

人間というのはどうしても「新しさ」に価値を感じるものです。新しいと期待が上がる。ただ新しいというだけなのに。根本的に新しさには価値はありません。しかし、既存の機能の改善と新機能作成だと、どうしても新機能の方が効果が出やすいと錯覚してしまうのです。そして、新機能を作るから数字が上がると考える。当然効果が出る新機能もあると思いますが、そんなに成功確度は高くないでしょう。そもそも機能自体が受け入れられるかからスタートするわけなので。にも関わらず新機能を作ったから必ず数値が改善すると見積もってる場合、大きな誤算が大量に発生します。新機能というのはあくまでも価値の拡張であり、それによってKPIが改善される可能性が高まるとは想定しない方が良いのではないでしょうか?既存の改善で目標達成できるプランニングをした上で、新機能を考えるくらいが目標管理という側面では圧倒的に適切です。

地道な改善こそ近道

以上、スタートアップにおける期待通りにいかない言葉ランキングでした。抽象的な"言葉自体の期待値が高すぎる言葉"をあまり信用しない方が良いというのが結論です。スタートアップであろうが、数字を上げるためには地道な改善を繰り返すしかありません。この改善の工夫度合いがサービスレベルを決め、顧客への価値を決め、それが売上になって返ってきます。たった一つの何かで全てが改善されることなんて絶対にあり得いのです。

経営者は「言葉」の期待値調整をするべき

「言葉」には全てに期待値がついていると思います。そして問題はその期待値が人によって違うということです。この期待値の違いが、あらゆる認識の齟齬を生んでいきます。個人的にはコントロールするべきは「言葉自体」の期待値であり、「実態」の期待値調整は困難だと考えています。例えば戦略という言葉の実態を経営者と同じ程度、メンバーに理解してもらうのは非常に困難です。なぜならば、戦略を自分で決めて実行する機会が少ないから。つまり体験できないからです。同じ体験ができていない中で「実態」の認識を合わせることは驚くほど難しいです。なので、「言葉」の期待値を調整するべきなのです。「戦略」という言葉はどのくらいの期待値を取るべきなのかを決めてしまう。「戦略」という言葉自体に期待値を紐づけてしまうのです。そうすれば、大きくずれることはなくなるでしょう。経営者と同じ期待値を持っていれば、実現したいことに対して十分になりそうか、不足しそうかが検討つきやすくなります。故に「同じ言葉」を「同じ意味」・「同じ期待値」で使える組織は圧倒的に全ての物事のスピード・精度が高くなるのだと思います。

【スタートアップ原則シリーズ】1.全ては「順番」で決まる

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スタートアップをやっていると幾多の失敗を繰り返します。これは避けられないことで、個人的にはさっさと失敗できて良かったと思うようにしております。ただ、その中で重要なのは同じ失敗を繰り返さないことであり、自分としても忘れないように「スタートアップの原則」として記していきたいと思います。全てのスタートアップが参考になる、普遍的な内容を目指してまいります。

全ては「順番」で決まる

これまでのSCOUTER社を振り返った時に、最も大きな失敗はあらゆる「順番」を間違えたなということです。一つ一つの物事に対する取り組み方が悪い訳ではないのに、なかなか上手くいかないという時期が長い期間ありました。その一番の要因がなんだったかと考えると「順番」だったわけです。順番は日常用語では「優先順位」という言葉がよく使われますが、ここで言う「順番」はもう少し広義の意味です。例えば、どういう事業から始めるか、どういう人材から採用していくか等も含めて、スタートアップにおける全ての行動の「順番」のことを指しています。この順番を間違えることが、全ての努力を無力化することに繋がってしまうため、経営者の一番重要な仕事だと思います。特にスタートアップの経営者はこれを間違えると死に直結します(そもそも与えられている制限時間が短いため)。それを痛烈な言葉で表現しているのが以下の言葉です。スタートアップが破綻する最大の理由をこう説明しています。

スタートアップは単に「お金が足りなくなる」のではない。そうではなく、彼らはお金がある間に、問題に対処することをずっと怠っていたのだ。失敗が先に起きるのではない。創業者が手遅れになるまで問題を自己正当化し続け、最も深刻な課題に対処するのを避けたときに失敗は起きる。

jp.techcrunch.com

最強の戦い方は各個撃破

「順番」の原則における最も重要なことは「各個撃破」という戦い方を基本とすべしということです。何かの問題を解決したり、強い敵を倒すためにスタートアップができる唯一のことは、一つの対象物に集中するということです。これは戦の基本中の基本です。弱い者が強い者を倒す最善の方法は一人を全員で殺しにいくこと。それを何回も繰り返せば、いつの間にか敵は全滅しているのです。過去の戦争の勝敗の要因や戦略を学ぶとそれがよくわかります。以下の記事は背景等がなくてもわかりやすく説明されております。

ミリオタでなくても軍事がわかる講座 - 戦闘の原則その三・「集中の原則」って何?

経営も同様であり、一つの問題に徹底的に取り組み、解消したら次の問題に取り組む。この各個撃破こそが成長を最も早める戦い方であるにも関わらず、どうしても色々な対象に分散させてしまう。SCOUTER社でも何度もそのようなことが起きていました。その理由を考えるとだいたいは、以下の三つのどれか。

  1. 順番をつけることに時間を使っていなかった
  2. つけた順番に納得していないメンバーがいた
  3. 1位以外のものは取り組まなくて良いと言えなかった

戦場において、誰をターゲットにするかを決めない。ターゲットに納得いっていない。ターゲットを狙いつつも、他の人も倒しにいけと隊長が言っている。こんな状況で戦力が少ない自軍が勝てるわけがありません。ただ、そのことに理解はできても、実行するのは非常に難しい。それは「順番」をつけるという行為に本当に真剣に取り組む人が実はとても少ないからです。

「順番」をつけることは恐怖との戦い

なぜ、順番をつけることを人は避けるのか。その理由は順番をつけることが心の中の恐怖を増加させることに繋がるからです。なぜなら順番がつくと、順番が低いことはどうしても取り組みが弱くなる。放置することになる。それに対しての不安や恐怖を心の中で拭うことがなかなかできないのです。この恐怖を乗り切る心の強さのことを僕は「胆力」と言うのだと思います。経営は論理だけで上手くいくゲームではありません。このような心の不安・恐怖との戦いに勝たなければいけない感情のゲームでもあるのです。

「順番」を考える四つの視点

では、スタートアップではどのように順番をつけていくのが適切なのか。スタートアップにおいて最も重要なことをどうやって導き出せば良いのか。その精度を上げる能力自体は経営者自身の試行錯誤と失敗の積み重ねが重要だと思いますが、これまでのSCOTER社を振り返ると以下の四つの視点を持っているべきだったと学びました。

  1. バリューチェーン
  2. ボトルネック
  3. 連続性
  4. 資産性

1.バリューチェーン

一つ目はバリューチェーンの先端の方が重要性が高いということ。我々はサービスを通して何かしらの「価値」を提供しているわけで、それはサービスの提供するバリューチェーンを通して徐々に価値が形成されていきます。このバリューチェーンは全てのプロセスを通って顧客の元に届かないと意味がないわけで、スタートアップの事業において一番良く起きる問題は、顧客まで価値が届ききってないと言うことです。SCOUTERでも一番最初にユーザー獲得に注力して大きな失敗をしました。ユーザー獲得とはバリューチェーンの一番最初であり、最も価値提供から遠いところにあります。ユーザー獲得を改善したところで、その先のバリューチェーンが上手く機能しなければ何の意味もないわけで、KPI主義の機能不全が起きる理由もここにあります。事業としての価値はバリューチェーンを全て綺麗に通った先にある顧客に届いた価値のみである。なるべく顧客の成果/価値に近い部分から改善を行うべきなのです。この視点に関してはグロースハック領域の誤ったフレームワーク利用の事例が一番参考になるかと思います。以下の記事にそれがよくまとまっております。

growiz.us

2.ボトルネック

二つ目はボトルネックから手をつけるということ。当たり前のように思えますが、意外とこれが難しいものです。「自社の最大のボトルネックはどこですか?」という質問に社員全員が同じ回答になるでしょうか?おそらくほとんどがならないと思います。それほど実はボトルネックが「認知」によって形成されており、「事実」に基づいて形成されているわけではないのです。ボトルネックは元来、製造におけるサプライチェーンマネジメントという領域において発達してきた概念であり、製造の世界では全てのサプライチェーンのプロセスを数字化するのが当たり前になっているわけです。だからこそ、ボトルネックは常に自明のものであるという前提が成り立ちやすいのですが、これをインターネットサービスに持ち込むと簡単ではないわけです。サプライチェーンの経路も多種多様であり、全てのユーザー行動を数字化することも初期のスタートアップでは困難な場合があります。その中でボトルネックは自明ではないわけで、社内での認識の擦り合わせが必要になるのです。これをやらないと、全員の認識がずれ誤った順位がつくことが多々あるわけです。そのため経営者は以下の二つのことをする必要があるのです。

  1. できるだけ早くボトルネックが自明になるようバリューチェーンの数字を可視化する
  2. サービス内のボトルネックが何か常に明確に言葉にし、メンバーに伝える

スタートアップ領域における名著である『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント』のメインの主張もここであり、マネージャーの効果を最大化するためにはボトルネックを明確にすることが重要であることを教えてくれます。

studyhacker.net

3.連続性

三つ目は連続性です。連続性とは「AがあるからBが成り立つ」「AがあることによってBはより効果を発揮する」というような、独立して機能することが難しい性質のことを指します。スタートアップ経営はストーリーを紡ぐことであり、個々の事象は小さくても、一連のストーリーになること、断絶しない連続性を獲得し続けることが、指数関数的な成長を生み出す重要な要素です。例えばプロダクト開発において、単体ではAという機能の効果が高そうであったとしても、それはBという機能が使われていることによってより効果が高まるのであれば、まずはBの機能を使ってもらうことに注力すべきなわけです。このような、連続性を獲得できるロードマップを引くことは、経営者の重要な仕事であり、連続性を無視したぶつ切りの活動は大きな無駄に繋がります。

4.資産性

最後は資産性。その活動がどれだけ今後の資産になるかという観点です。短期目標を追いすぎるとどうしてもこの資産性が乏しい活動ばかりに焦点が当たりやすくなります。SCOUTER社でもまさにこれを幾度となく体験しました。「今月の目標を達成する」ために行うことは資産に繋がらない行動。しかし、確かに最も早く今月の数字が上がりそうな施策なわけです。そしてメンバーは与えられた目標を達成することに重きを置くわけなので、この状況で資産性を考えろと言われても無理なわけです。そのため、経営者は目標を少しロングスパンで設定したり、資産性が乏しい施策は行ってはいけない等、明確な方向性を打ち出す必要があります。

四つの視点で社内リソースについて考えてみる

最後に、上記四つの視点について具体的な例を用いて考えてみたいと思います。これまでSCOUTER社では「常にリソースが足りない」という問題を抱えていました。これに対して四つの視点を基に以下の「順番」で取り組もうと決定しました。

  1. 今いるメンバーのパフォーマンスを最大化する
  2. 入社直後のメンバーがパフォーマンスを出せるまでの期間を最短化する
  3. 採用の失敗確率を最小化する
  4. 内定後の入社承諾率を最大化する
  5. 母集団を最大化する

これまでは「リソースが足りない」という問題に対して真っ先に採用だ!!という意思決定になり、何人採用できるか、そのためにどれだけ候補者にアタックできるかを最重要視していました。しかし、よくよく自社の状況を見回すとボトルネックは採用ではなく、今いるメンバーが100%機能しきっていないことによる、一部のメンバーへのしわ寄せが起きていることや、採用しても活躍できないまま離職してしまうという「入社後」でした。バリューチェーンの視点で考えても、このリソース足りない問題の価値は「リソースが足りてる」「業務が問題なく回っている」という状況なのであり、メンバー数ではありません。そして、採用というのはあくまでもフローであり、資産性があるわけではなく、会社としての資産は入社後のパフォーマンスをどう上げていくかや、採用を失敗しないためにはどうすれば良いのかという制度やノウハウの部分にあると判断しました。そしてこれらの連続性をロードマップにまとめると、上記の順番で取り組むのが現状は最適だろうと判断したわけです。

経営者は「順番」を決めることに一番時間を使うべき

「順番」が決まると、その順番に基づいて全ての時間が消費されることになります。それほど、順番というのは重要な概念です。また、「順番」が決まっていない時は、全てが混沌となり全員のフラストレーションが溜まり、組織は空中分解します。故に、経営者に最も求められることは、最も成功確度が高いと思われる「順番」を決め、その順番を全てのメンバーに理解してもらうようコミュニケーションを取ることなのです。そのことを忘れ、順番を間違えたことによる失敗は全て経営者の責任であり、メンバーを責めることはできません。なぜなら、スタートアップで頑張るメンバーの頑張り方はそれは異常なものであり、当たり前に全員頑張っており、全員努力しており、全員が本当に成功を願っているので。それを成功に導けるかどうかは全て経営者の責任なのです。