株式会社SCOUTERのCOOが人事を尽くして考えた

渋谷で「SCOUTER」を運営する株式会社SCOUTERのCOOがスタートアップ・組織について書いているブログです。

与えた「目標」が機能するたった二つの時

「目標」の正体は何なのか

会社の中にはいたるところに目標が存在する。会社の目標、部署の目標、個人の目標。MBOやOKR、KPIなど目標管理に関する手法・用語も毎日飛び交っている。しかし、なぜ会社組織にはこれほどまでに目標が存在するのか。目標を設定することで上手く行ってる会社と上手くいっていない会社の差分は何なのか。最近は目標を設定することが当たり前過ぎて、きちんと理解できていないこともしばしば。今回はどのような時に目標という概念が有用なのか。つまるところ、目標を「与えること」の効果を考えてみました。

目標を与えること効果

目標を与えることによって得られる効果は主に以下の三つがあると考えます

  • 集中するため
    • 目標が定まることでやるべきこと、考えることの焦点が合い、それに集中することができるようになる
  • 継続するため
    • 目標を追いかけること自体に意味を感じ、物事を継続する、ゴールが見えていることで安心し、頑張ることができる、一度自分で決めたことでそれを否定しづらくなる
  • 修正するため
    • 理想状態があることで、理想との差分を認識することができ、現状の進捗度合いがわかるようになるため、進捗が悪い場合、早期に対処することができる

これを経営という活動に対して当てはめてみると、目標設定の意義は以下のようなものになるでしょう。

「経営において目標の役割とは、ある1時点での理想状態を定めることにより、従業員の意識をそこに集中させ、行なって欲しい活動のみを継続したくなるように仕向け、その活動が正しいかを日々修正することを可能にすること」

つまり、従業員の活動を間接的にコントロールする一つの重要な要素なのです。この目標設定が上手く行けば行くほど、従業員はその達成に集中し、継続し、日々修正を繰り返す。つまるところ、目標とは理想状態への到達可能性を高めるために有用な"環境設定"であり"思考ツール"であるというのが自分が考える目標の正体。目標には二面性あり、他者が目標を与える場合には"環境設定"の要素が強く、自分で目標を設定する際は"思考ツール"の側面が強くなる。経営者が理解しておくべきことは他者が与える目標というのは付与した者の"環境"を定義することであり、それによる影響というのは与えた人が想定する以上の影響を与えることになるということである。

与えられた目標が機能する時

経営における目標において最も注意が必要な点は立場によって自ら設定した目標なのか、与えられた目標なのかが異なるという点です。特にスタートアップでは経営メンバーが全社・部署・個人の目標全てを作ることも多いかと思います。すると、ほとんどのメンバーは目標を与えられた立場になります。この時、その目標を機能させるには以下のどちらかを必ず満たしていなければいけません

  1. 目標の達成自体に大きな意味があると理解できる時
  2. 目標に対して評価がセットの時

目標の達成自体に大きな意味があると理解できる時

一つ目は目標≒目的になる時です。設定された目標を達成すること自体に意味があるとき。何故これが機能しやすいかというと、従業員がよく陥る「自分は何のために頑張っているんだろう??」という自問自答に陥らず、目標達成すること自体に集中することができるからです。そして、目標≒目的になるというのは、別の言い方をすれば、目標を達成した瞬間に、次のステージへと進めたと感じることができることが重要です。例えば、月商1,000万円目指すという目標。もし月商1,000万円を達成することが、収益を安定させ次の新規事業に取り組める条件であったり、次の資金調達を成功させる一つの目安であった場合、この目標というのは達成すること自体で別の何かを可能にする目標になっています。このようなただの1,000万という数字ではなく、その1,000万に意味がある時に目標というのは非常に機能しやすくなります。経営者はこの数字に対するコンテキストを伝えることを努力しなければならないのです。

目標に対して評価がセットの時

しかし、どうしても目標自体に意味を込め辛い時もあります。例えば管理部門の目標だったり、四半期の目標。とりあえず一年後の目標から逆算して出てきた目標では、そこに大きな意味を感じることはできません。そのような時に目標を機能させる残りの方法は、目標に対して必ず"評価"をセットにすることです。従業員は常に正当な評価と小刻みなフォードバックを求めています。その欲望を満たすきっかけに目標を使うのです。目標の進捗・結果に対してしっかりと評価・フィードバックする。これ当たり前のように思いますが、特にスタートアップでは忙しい中でなかなかできていないことも多いかと思います。また、評価自体が形骸化して形式的になってしまっている場合もあるでしょう。その中で目標を与えられる従業員の気持ちを考えると、目標を達成した時には正当な評価がなく、目標を達成していない時は怒られる。この感覚に陥った時に目標という概念自体に嫌悪感を抱き出し、目標の効果が失われます。

目標は諸刃の剣

目標というのはどんな時も機能する万能なものではありません。特にスタートアップでは誤った目標の使い方をした瞬間に、負の連鎖に陥ったり組織が崩壊することもありえる。それほどまでに実は危険を伴った概念だと思います。個人的には目標を上手く機能させられない時は、目標というのを設定せず「ただただ全力で頑張ろう」という空気を作った方が上手くいく場面も多いかと思います(何が成功で、何が失敗かは定義した上で)。目標設定自体が会社の活動を非常に限定させるものであるということは、設定する側はよく理解しておいた方が良いと思います。その中でどのような目標を設定するべきかという問いに対してはそれぞれの会社によって違うでしょうが、共通して言えるのは以下の三つを満たすということです。

  • 目標とは達成するべきものでなければならない
  • 目標とは達成したいと思えるものでなければならない
  • 目標とは達成可能と思えるものでなければならない

そして目標を達成した時、会社のビジョンへと繋がる大きな一歩になると、メンバー全員が思える目標がスタートアップにおける機能する目標だと思います。本来目標というのを「与える」という行為は非常に難しい行為です。他人から与えられた目標というのはそもそも機能しづらい。ただ、それを乗り越える目標を設定し、機能させることこそが、優れた起業家の条件の一つなんだと思います。

# 2017年を振り返りシリーズAのスタートアップが後悔してる7つのこと

明けましておめでとうございます。随分と更新が空いてしまいました。2017年は会社としても個人としても本当に色々なことがあり、なかなかブログを更新できない期間が続いてしまいました。今年はインプットの量を圧倒的に増やし、アウトプットに繋げていきたいと思っております。今年もよろしくお願い申し上げます。

シリーズAの会社って選択肢が無数にある

2017年を振り返って、まず思うことはシリーズAというスタートアップの期間というのは本当に難しい状況なんだなということです。スタートアップのフェーズにおいて、シリーズA前後が一番難しいのではないかと思ってしまいます。おそらく、その要因の会社として取れる選択肢が最も多いからなのかもしれません。シリーズAまではとにかくプロダクトを作る期間。やることは顧客に求められるプロダクトを作るだけ。シリーズBを超えるあたりでは、既に勝ちパターンが見えてきて、組織の形も出来上がっているころ。いかに効率的に投資を行い、組織を運用していくかが重要になってきます(もちろん、これが非常に難しいことは承知しております)。その中で、シリーズAというのは、プロダクトの勝ちパターンが見えきっているわけでもない、組織体制が固まっているわけでもない、どこに投資をすればどのようなリターンが返ってくるかわからず、ひたすら試行錯誤の連続。正直言って、合理的な選択をし続けられる状況にはなりにくい。株主も増えてきて、それぞれのアドバイスも違ければ、IPOを視野に入れた経営をしていかなければいけなくなり、制限も増えてくる。そんなあらゆる不確実性がこの時期に集中する。シリーズAで成長が止まる企業が多いのはそんな経営の難しさを起業家が初めて体験し、それに適応するまでに時間がかかるからなんだろうと思います。今回は、2017年を振り返って、後悔していることを書いてみたいと思います。主に、「もっと早くこうしていれば」ネタが多くなるかと思います。

その1_もっと早く経理担当者を入れればよかった

今年の6月くらいまではバックオフィス業務をやる人は誰もおらず、自分が全てやってました。極限まで効率化すると、そこまで多大なリソースは奪われない。わざわざ人を入れるほどでもないかなと思いながらずっとやってきてました。ただ、年の途中から経理系と労務系を処理してくれる週3のバックオフィス経験者に手伝ってもらえるようになり、ここで愕然としました。確かに自分のリソースとして空いたのは20%程度です。ただ、それ以上に脳のCPUがガラッと空き、期限によるストレスも減り、圧倒的にクリエイティブに考えられる時間が増えました。人間というのはマルチタスクができてると思っている人ほど、おそらく自分の潜在パフォーマンスに気づいていません。なぜならこれまでの人生の中で限界まで一つのことに集中したことがないからです。僕はこの歳になって初めてマルチタスクから逃れ、本当に集中するということがどういうことか体感しました。それ以降、僕はほぼ全てのバックオフィス業務をお任せするようにしています。できるからやるというスタンスは経営者のリソース分配として不適切。従業員が1桁のうちに、バックオフィス業務は経営者がやらなくていい状況を作っておけばと後悔しております。

その2_もっと早く秘書的な人を入れればよかった

こちらも上の文脈と一緒。ただ、これはバックオフィスというよりはもっと雑務的なこと。この雑務が見渡すとめちゃめちゃ多いんです。そして、その雑務をそれぞれのメンバーがみんな少しずつ抱えながら、仕事をしている。これは非常に生産性が悪い。まずは経営者の雑務を剥がす。そして、次にメンバーの雑務も極力剥がす。それを任せられ、かつ丁寧にクオリティの高い仕事をしてくれる秘書的な人員が一人入っただけで社内全体の生産性が非常に上がりました。これはメンバーが10人を超えたあたりでいても良かったなと思っております。コストとしては月に20万ちょっと。確かにスタートアップとしては大きな金額ですが、コミットメンバーの生産性を考えると、十分な見返りがある投資です。

その3_もっと早く組織のことだけを考える人を入れればよかった

弊社にはつい最近まで正社員で経営企画・管理部に所属しているメンバーがいませんでした。全員が事業部に所属していて、事業のことを考えている。メンバーが少なかった時はそれで構わなかったのですが、メンバーが10人超えたあたりから、どうしても組織に亀裂が入ってくる。それもそのはずで、その亀裂が入る原因を集中して考える人もいなければ、対処も場当たり的。そして、メンバーの不満は組織という抽象的なものが対象になっていく。この状態すごい深刻です。事業が上手くっていない理由を、みんなが組織のせいにできるということです。組織に不満があり、それの解消に動けていないということは、成果が出ないことを正当化できる材料が増えるという他責思考を助長します。弊社では最近、組織のことだけを考える役割の人員を配置し、組織問題の調査・原因の検討・対策の実行まで行う窓口をしっかりと作ることで、組織自体の改善を図りながら、メンバーの意識を変えることにも成功しました。専属のメンバーを一人つけるということは、組織の問題を改善していくという経営側のメッセージにもなるので、これも10人超えたあたりから一人担当にすべきだったなと後悔しております。

その4_もっと経営者からのメッセージを伝える機会を増やせばよかった

シリーズAの時期って本当に色々あります。上手くいかないことの連続で、目標が未達になることもあれば、戦略を変更することもある。人の出入りも増えてきて、メンバーの経営に対する不信感が生まれる要因が時期的に増えてしまいます。ここで経営ができることって二つしかありません。数字として成果を残すことと経営としてのメッセージを伝えること。なぜ計画を変更するのか、なぜ戦略を変更するのか、今後の会社をどう考えているのか、失敗をどう受け止めているのか。非常に意図的に伝えない限り、メンバーには伝わらないんだなということを改めて実感しました。経営者としても上手くいっていない時はそれを隠したり、認められなかったりしがち。ただ、そこで強がっても何のいいこともなく、素直に認めた上で、次どうしていくのか、会社として変えること・変えないことは何なのかを明確にメッセージとして伝えていく場をもっと増やしていかなければいけなかったと思います。理想は週に一回はそのような機会を設けるべきかと思います。

その5_もっと採用選考に時間をかければよかった

もちろん、候補者探しに時間をかけるのは当然ですが、一個一個の選考にもっと時間をかけるべきでした。特に一次面接を超えた人に対して、その後一回/一時間の面接を何度重ねようと、これはわからないということがこの一年感じたことです。シリーズAの時期ってとにかく人手不足でやりたい打ち手が無数にあるにも関わらず、人がいないため、良さそうな人がいたらとりあえず採用しておこうという思考になりがちです。ただ、これが本当に組織を壊す要因で、経歴では本当に人はわからない。ピカピカの30代よりも新卒二年目の子の方が活躍するなんてザラで、正解のない問題に取り組んでいるスタートアップに過去の経歴は無意味。そんな中で、どう相手を見極めていくかはもっと真剣に取り組む課題でした。ここには惜しみない時間をかけて、できる限り入口の時点でリスクを最低限にする(もちろん、0にはできないが)。個人的には今振り返ると「その人と一晩語り合えることができるか」という物差しで見るべきだったなと思います。というか、本当に一晩一緒に過ごせるか、試してみる勢いの方が良いと今は思っています。

その6_もっと勉強する時間を確保すべきだった

どうしても現場が気になってしまうのがこの頃だと思います。ただ、せっかく軌道に乗ってきた時に次の打ち手を経営側が提示できなかったら、経営者の存在理由がない。最近、その瞬間を想像するとゾッとしてしまいます。もっとメンバーに任せられる仕事はないか考え、少し不安でも任せる。そのぶん、もっと次のことを考えるための勉強の時間を確保すべきであり、それをすることが経営者の重要な仕事なんだという自覚を持つべきだったと反省しております。そのため、今年は徹底的に学ぶ時間を確保することが個人的に重要なテーマです。

その7_もっとメンバーの考えを知れる仕組みを作るべきだった

会社としてある大きな決断を下すとき、初めて事前にメンバーの意見を正しく聞ける機会がありました。その時は、経営者ではなく別のメンバーがインタビューという形で1時間ずつ各メンバーにヒアリングをし、それを文字起こししたものを見ました。この時に、今までどれだけメンバーの意見を無視してきたか、そしてどれだけメンバーが正しい意見を持っているのかを痛感しました。ただ、これおそらくですが、経営者が意識して聞こうと思ってるだけでは、本当にメンバーの本音を知り得ることはできないと思っています。それはコミュニケーションをとる時間が足りないこともそうだし、経営者と従業員という関係上、やはり話しづらいこともあるだろうし。これをいかに吸い上げる仕組みを作るかが経営者の仕事だし、それができてる時と、できていない時では組織の強さが全く違うだろうなと思っております。経営者はいろんな人の意見を聞くべきです。ただ、その時によく外の人間の意見を聞きがちです。成功している人の意見、見識が深い人の意見、専門家の意見。たくさんの人の意見を聞こうと努めますが、意外と社員の意見を真剣に聞こうとする人は少ないのかもしれません。社員の意見には真実がたくさん含まれている。それを思い知った一年であり、来年はそれを仕組みで吸い上げられるようにしていきたいと思っております。

重要なことは経営者が最も大事なことが何かをわかっていること

シリーズAという不確実性が高い期間において、何が一番成否を分けるのかと問われれば、それは経営者自身が「自社がシリーズAの次へ進むために何が最も重要で、何に時間を最も割くべきで、そのためにできることを全て実行できているか」だと思います。目の前に踊らされず、最も重要なことに集中する。それが経営者の仕事だと思います。重要なことは各社それぞれ必ず違います。どこかの教科書に答えが書いてあるわけではありません。その答えのない問いに対して考え続けることが重要で、そこに焦点を合わせ続けられる集中力こそ、シリーズAの時期に求められることだと感じた2017年でした。今年は集中を切らさずに1年間走りきれるよう、メンバーを信頼し、十分な休息も取りながら、会社の未来を考え続けたいと思います。

それでは今年もよろしくお願いいたします。

スタートアップが新規事業で失敗する3つのパターンを考えてみた

スタートアップと新規事業

スタートアップが新規事業を立ち上げること自体に関しては賛否両論だと思います。リソースが少ないスタートアップがリソースを分散させることによって、元々のプロダクトの競争力が下がる可能性もあります。逆に新規事業によって一気に成長曲線に乗る企業もあり、単純にどちらがいいかということはなかなか言えないテーマなのかなと思います。しかし、その中で"やってはいけない"パターンは明確に存在すると思います。新規事業は上手くいかないことが多いですが、その中でも特に失敗に陥りやすいパターンが3つあります。

失敗パターン1:とりあえずでやってみる

当たり前ですが、新規事業の立ち上げというのはとても難しいです。特に社内で、既に別のプロダクトがある中で新規事業を作るというのは、最初のプロダクトを作ることよりも難しいかもしれません。それには様々な理由がありますが、予算という概念に制約される、成功のプレッシャーを感じすぎる、逆にプレッシャーを全く感じずに危機感がない、既存プロダクトがあるため経営的な発想が保守的になる、あたりが大きな要素でしょうか。その中で、"とりあえず"新規事業というのは実に危うい思考回路です。特に社長の思いつき、市場が盛り上がっているから、流行りだから、今の事業が伸び悩んでいるからという理由など「解決すべき課題」ではない部分から事業が立ち上がって上手くいくことはありません。特に、専属の責任者が配置されず、既存事業の責任者兼新規事業の立ち上げなど二つのプロダクトを同時に見る人が責任者になってしまった時には、"失敗"しかないでしょう。新規事業の立ち上げには、その事業のみを考える責任者が必要です。当たり前のように聞こえますが、世の中を見ると以外とそうではない状況が多々あるようです。そして、責任者は必ず自ら志願した人でないと勤まらないでしょう。上司の命令で新規事業に携わり、強い覚悟を持てない人間が新規事業を成功に導けることはありません。スタートアップで新規事業を立ち上げたい場合には、事業アイディアは誰が出しても構いませんが、責任者は自ら志願する人がでてくるまでは控えた方が良いでしょう。

失敗パターン2:金儲けに走りすぎる

新規事業を立ち上げる基本的な理由は"もっと儲けるため"であることに変わりはありません。しかし、スタートアップというものは、そもそもビジョンで人を集めている組織です。金儲けに走りすぎてメンバーがついてこれなくなることは想定しておかなければなりません。経営という合理主義と自己実現という人間主義の摩擦。その中で経営者は適切なバランスを取っていかなければいけません。"金"だけで動かなくなった人間。それが今のスタートアップを取り巻く前提です。しかし、だからこそ条件が悪くてもビジョンだけで優秀な人材を採用できる時代になったとも言えます。その中で、新規事業が会社のビジョンにどれだけ貢献するのか。その大義名分が人を動かすには必要です。「ただ儲かるビジネス」であることを強調して始まる新規事業は上手くいかない時期に簡単に折れます。スタートアップはどんな困難にも折れずに立ち向かえるから強い。その原理原則を踏まえれば、金儲けだけの新規事業は、スタートアップ最大の強みを抹殺するウィルスにもなりかねないのです。

失敗パターン3:プロジェクトチームに優秀なメンバーを集めすぎる

チームとはバランスである。これが僕が最近痛感している原理原則です。新規事業には当然力が入ります。絶対成功させたい。その時に、各部署から一番優秀(ここにおける優秀とは最もわかりやすい成果を出している評価されやすい人材を指す)なメンバーを集めようとします。しかし、これは完全なる間違いです。優秀なメンバーだけが集まったチームはバランスを失い、個人の能力は50%も発揮されないでしょう。チームとして機能しないのです。組織には目に見えない貢献をしているメンバーがたくさんいます。そのメンバーがいることによって、優秀だと定義されている人材は成果が残せているのです。攻めと守り・冷静と情熱・論理と感情・マネジメントとプレイング。これらのバランスを失ったチームは統率が取れず、全員がバラバラな動きをし、フラストレーションが溜まり、チームとして崩壊する。それと同時に新規事業は失敗となります。

成功する新規事業の作り方

よって、スタートアップが新規事業を作る際、抑えるポイントは以下の三つになります。

  1. 新規事業に求める期待役割と経営戦略上成功する理由を明確化する

  2. 新規事業が会社のミッション・ビジョンとどう混ざり合うのか全社員が納得するまで伝える

  3. 立ち上げ時のメンバーはデザイナー・エンジニア・営業の3人が基本

特に3つ目の「3人」というのはものすごい重要です。チームのバランスが上手く取れるからです。そしてこの中で責任者に適任なのは「デザイナー」です。デザイナーはプロダクトの見た目だけでなく、ユーザー体験そのものをどう提供するかまで設計する必要があります。そしてそれは、エンジニアと営業の架け橋になるのです。プロダクト的観点とビジネス的観点を両睨みしながら、常に最適な意思決定をできるのが「デザイナー」だと思うのです。そういう意味で、今後の「デザイナー」という職種はより広範囲な領域が求められ、かつプレゼンスがどんどん上がっていくポジションになるかと思います。

以下、ポジションごとのオススメの期待役割とそれを実現できる人物像です

  • デザイナー→事業責任者となり、UXを中心にユーザーに提供する価値・解決する課題・ユーザー体験を設計しながら、それをプロダクトに落とし込んでいく。そして、チーム全体にビジョンを見せていく。サービスの大枠を作っていく人物。チームビルディング・サービス設計・財務的観点など様々な視点を理解しているゼネラリスト

  • エンジニア→デザイナーが設計したユーザー体験を機能としてプロダクトに組み込んでいく。自分で全てをコーディングしながらも、開発のロードマップ作成や優先順位を見極め、進捗管理をしていくマネジメント能力が求められる

  • 営業(マーケッター)→プロダクトの価値を伝えながら事業の仮説検証を現場で行う。売れる営業力を持ちながら、丁寧なユーザーヒアリングを行い、プロダクト開発に必要な情報を徹底的に集め、チームに共有していく。圧倒的な人間力と行動力が求められ、チームの特攻隊長としてユーザーと一番向き合う存在。

この3つの役割を3人で上手く分担できたチームは、立ち上がりがとてもスムーズになり、新規事業の成功確率が非常に上がると思います。

SCOUTER社でもついに新規事業始動

SCOUTER社でも現在、新規事業の立ち上げにトライしています。最近始まったばかりですが、徐々に手応えを感じております。「SCOUTER」と並ぶプロダクトにするため、プロジェクトメンバーは日々チャレンジの日々です。そして、人材がまだまだ足りません!!やれることは腐るほどあります。未来には可能性しかありません。人材業界を変えるプロダクトを一緒に作ってくれるメンバーを大募集中です!特に営業マンは不足気味ですので、「エントリー」・「応援」大募集です!!お待ちしております!!

www.wantedly.com

スタートアップが陥る「仕組み化」の落とし穴

加速する仕組み化の流れ

最近、仕事の生産性の話題が多くなり、それに伴い「仕組み化」に関するナレッジも多く世の中に共有されるようになってきました。スタートアップだとメルカリさんやwantedlyさんあたりがナレッジをたくさん公開しています。

www.supporttimes.com

www.wantedly.com

リソースの少ないスタートアップにとって、いかに無駄な時間を減らすか、仕組み化によって業務を効率化するかは成長角度の重要な要素、ひいてはビジネスそのものの利益率に大きく関わってくる重要な要素です。SCOUTER社でもサービスをリリースして一年がたち、この「仕組み化」に非常に力を入れております。CS・営業・マーケティング領域では続々と仕組み化を進めています。その中でも特に対人の仕事が多いCSの部門ではどれだけ仕組み化が上手くできるかがとても重要になってきております。

CSが陥る仕組み化の落とし穴

そんなCSの仕組み化ですが、焦って仕組み化を早まると非常にまずいことが起こります。極度な効率化による質の低下です。全てをテンプレートに、全てを最速で、全てを効率的に進めようとするあまり、対応の質がどんどん下がっていき、初期のユーザーが離れていきます。仕組み化を進めた途端に対応が変わってしまうのです。プロダクトの初期というのは、まだまだプロダクトの質が高い訳ではありません。その中でCSがユーザーを離脱させない一つの大きなポイントとなっているにも関わらず、そこの質が低下することはつまりユーザーの離脱に繋がります。

ベストクオリティーと仕組み化

対人コミュニケーションにおける早期の仕組み化がユーザー離れを引き起こす大きな要因になりうる。これがスタートアップが陥る落とし穴です。そのため、スタートアップは仕組み化を着手する前にやらなければいけないことがあります。「ベストクオリティー」の実現方法の模索です。それぞれのフェーズや、コミュニケーションにおいて「最高の対応とは何か」。これを突き詰めることです。これに時間を惜しんではいけません。初期のCSはひたすらこの模索を全ての時間を捧げてでも行うべきです。誰もが満足し、感動するような対応。これはユーザーが少ない初期こそ、一番模索できるタイミングなのです。そしてそれぞれのベストクオリティーが見出せた頃にはCSの人員も増加してきているはずです。そのタイミングから仕組み化・ノウハウ化・効率化を図ります。その出発点はあくまでも「ベストクオリティー」を誰でも・いつでも・効率的に再現するためにはどのような仕組み化が必要かという観点です。この観点なしに仕組み化の道を歩み始めると、その仕組み化はユーザーにとって悪にしかなりません。

CSは最後の砦

CSはユーザーの離脱を防ぐための最後のタッチポイントです。CSの後ろには何もありません。その先には無言での離脱しかないのです。最近ではCSが「カスタマーサクセス」と呼ばれるようになり、注目を浴びてきていますが、それほど重要なポジションになってきています。ユーザーの離脱を防ぎ・ユーザーをファンにし、プロダクトを前に進めるための意見を吸い上げる。これが全てできて初めてCSは役目を全うできるのです。決して日々の問い合わせを処理することが仕事ではありません。本質を見失った仕組み化は全てを悪い方向に導きます。効率的に悪い方向へ向かうのです。その恐ろしさは仕組み化が終わってから出ないと気づけません。だからこそ、徹底的な順序が必要なのです。「ベストクオリティー」からの「仕組み化」。これを担う一人目のCSというのはスタートアップにとって恐ろしく重要な存在です。

最高のCSメンバー募集しております

SCOUTERではサービスリリースして一年がたち、ようやく「ベストクオリティー」が出揃ってきました。そしてこれから「ベストクオリティー」を効率的に再現するための仕組み化を一気に進めていくことになります。数ある組織・サービスの中でもこれまでCSが中心のサービスはないと思っていますし、CSのレベルとしては最高峰を目指せる組織だと思っております。ぜひ、興味ある人がいましたら気軽に話を聞きにきてください。弊社CSメンバーと共にお待ちしております。

www.wantedly.com

総額1.5億円の資金調達をして変わったこと・変わらなかったこと

シリーズAの資金調達が完了いたしました

先日、正式に発表させていただきましたが、株式会社SCOUTERは総額1.5億円の資金調達を実施いたしました。 調達の内容や今後の展開について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

thepedia.co

今回の調達も本当に多くの方々に支えていただいからこそ実現したものであり、ご支援していただた方には本当に感謝しかありません。必ずやサービスの成長という形でお返しできるよう邁進していきます。

シリーズAを迎えて変わったこと・変わらなかったこと

SCOUTER社は昨年、シードとして資金調達を受けてから1年ちょっとでシリーズAを迎えることができました。目まぐるしく変化する日常に戸惑いながらも、成長のスピードを日々実感しております。その中で振り返ると、会社として変わったこと・変わらなかったことがありました。シリーズAというと、会社の露出がグッと増えたりとか、オフィスが綺麗になるなど、外から見た変化のほうが気づきやすいですが、今回は会社を創業から見てきた立場として、経営者の目線で内部の本質的な変化をまとめてみたいと思います。

変わったこと

問題のほとんどが「人」の問題になった

1年前はこれほど「人」の問題に悩まされるとは思いもしませんでした。当時のメンバーは自分を含めて4人。全員が同じ熱量で、同じ方向に向かいながら仕事をするのが当たり前。議論の対象は「事業」そのものしかありませんでした。しかし、従業員が20人を越え、部署ができ、組織になっていく。その中で当然、モチベーションの差が生まれたり、異なる方向性でぶつかることが多くなっていきました。この規模になると、「人」の問題が、一言の号令でどうにかなるものではなくなってきます。バックグラウンドも異なれば、会社の入ってきた理由も違う。そんな中で、共有されている"あたりまえ"は徐々に減り出し、コミュニケーションが複雑化していく。20人の組織というのは、人を「頂点」の数として見るとそれほど大きくないと感じますが、20人をそれぞれのつながり「辺」の数として見ると膨大な数になります。それだけ人が増えていくと指数関数的に組織は複雑化されていき、特に部署間での隔たりなどが非常に少ないスタートアップのこのタイミングこそ、もっとも従業員間のつながりが複雑で、コミュニケーションコストが高まる瞬間となります。「経営」というのはこの組織の複雑化・コミュニケーションの複雑化を抑制することが日常的には最大の仕事なのだと最近感じています。これまでは「事業」そのものに触れて、自分たちで直接議論し、意思決定してきたものが多かった。半分以上はプレイヤーとしての時間でした。しかし、今は組織の複雑化を防ぐため組織体制を考えたり、ミッション・ビジョンを統一したり、戦略を構築したりと、社員の思考の焦点を絞り、コミュニケーションがシンプルになるよう努めることが一番の仕事となっています。そういう意味で、頭の使い方が全く切り替わった1年間でした。自分が全てを把握し、手を下せるうちは想像もできないような問題が次々と起きる。それに一つずつ真摯に向き合いながら、組織として問題を解決する。そんなフェーズに入ったのだと実感しております。

計画が必要不可欠になった

1年前と比べてとにかく関係者が増えました。従業員・株主・クライアント・ユーザー。1年前は数えるほどしかいなかった関係者が、今では数千という膨大な数になりました。その中で感じることは、本当の意味で「計画」がないとどうにもならなくなるということです。もちろん、どんな時にでも計画というのは必要ですし、重要です。しかし、やはり立ち上げ期のスタートアップにとっては何よりも「実行」が重要であり、完璧な計画を作り上げる前にまずやってみるのがあたり前でした。それが関係者が増えるごとに徐々に変化していきます。関係者が増えるということは一つの活動・意思決定の影響範囲が広くなるということです。そして多数の合意が必要になってきます。ここに思考の変化が求められます。最も合理的に考えて、これまではまずやってみるのが正解だった。しかし、いつしか最も合理的に進めるには、計画を作り・共有し・合意を取ることが必要になってくるのです。計画がなければ、結局のところ上手く進まない・最後に破綻する。それに合理的に気づいた時、自分自身が変わらなければいけませんでした。頭ではわかっているつもりでいた計画の重要性も、様々な破綻を経験して真の意味での必要性を理解できるようになりました。

変わらなかったこと

SCOUTERに対する想いとそれを伝える重要性

SCOUTER社はこの1年間であらゆることが変化しました。戦略も組織も財務状況もメンバーも。一つ一つを見ていったら1年前と同じ会社だとは思えないほどの変化です。しかし、その中でも変わらないことが1つだけありました。それは「SCOUTER」というサービスに対する、そして「株式会社SCOUTER」という会社に対する想いです。それはメンバーを見ても同様のことが言えるように感じます。日々目まぐるしく状況が変わり、それに対して相当なハードワークが求められる中でも、それを楽しむことすらできるのは、やはりこの想いの部分にあります。今でも1年前と全く同じ想いを持ち、1年間同じことを伝え続ける。それでも、気持ちは冷めるどころか、より高まっていく。この想いに出会えたことが僕にとっても最大の幸運だったと思います。「SCOUTER」には人材業界を変える可能性を持っている。人々の人生をより良くできるきっかけを作ることができる。転職者に最も寄り添ったサービスになることができる。そして、その中心には必ず「人」がいる。「人」にしかできないことを追い求め続け、時代に合った「人」中心の社会を提示し続ける。SCOUTER社のこのスタンスは1年間全く色褪せることなく我々の真ん中にいつづけ、そしてこれからも僕たちを連帯させる最大の要素になっていくと思っています。だからこそ、その想いを発信し、伝え続けることが創業メンバーとして、創業メンバーにしかできない仕事だと感じております。

おわりに

自分は自分のことをとても冷淡で、冷たく、合理的な人間だと思っているのですが、そんな僕でも熱狂してしまう組織がSCOUTER社です。この想いの火は絶対に消してはいけなく、灯し続けなければいけないと素直に思うことができる。そんなSCOUTER社はシリーズAの資金調達を行い、歴史上最大の勝負の1年を迎えます。これほどエキサイティングなタイミングはありません。そして、その時間を一緒に戦う仲間がまだまだ足りません。プロダクトを最高のものに仕上げ、転職体験を劇的に改善する。そんなチャレンジを共にしてくれるメンバーを募集しております。少しでも気になったら、まずはオフィスに遊びにきてください。

【募集職種】

新しい転職体験を創り出すデザイナー

技術で人の人生を変えるエンジニア

最高のクオリティでユーザーに感動を提供するCS

急速成長を支える少数精鋭の営業

webサービスを1年運営してわかった「スタートアップにおける真のユーザーファーストとは」

「SCOUTER」が一周年を迎えました

2017年3月31日に「SCOUTER」をリリースしてちょうど一年が経ちました。振り返ると激動の一年で、リリース時とは大きく異なる現状に、日々驚きながらも、その忙しさに喜びを感じる毎日です。

一周年当日には過去最大のイベントを開催し約100名ほどのスカウターさんに集まっていただきました。直接スカウターの声を聞けば聞くほど、このサービスは正しいことをやっており、もっともっと大きくしなければいけないという使命感を感じるとても良い機会でした。

corp.scouter.co.jp

「ユーザーファースト」という言葉の意味

webサービスを創る上で良く聞く「ユーザーファースト」という言葉。この一年間を通して、僕はこの言葉の意味を履き違えて理解していたのではと感じております。というよりも、そもそも「ユーザーファースト」って言葉が抽象的過ぎて、具体的なサービス運営の指針にはなり得ない言葉なのかなと感じました。良く出てくるがよくわからない「ユーザーファースト」。この言葉をどう理解しておくと、我々のようなスタートアップにおいて有益なのか、この一年間で学んだことを通して記しておこうと思います。これは僕自身の経験と反省をもとに記す「スタートアップ」における「ユーザーファースト」の解釈です。

「ユーザーファースト」の一般解釈

まずは、世の中が「ユーザーファースト」という言葉をどう理解しているのかを見てみたいと思います。

thinkit.co.jp

www.wantedly.com

blogs.itmedia.co.jp

うーん。結論よくわからないって感じですかね(笑)一般的な解釈も多々ありすぎて、もはや意味をなしていない状況なのかと思います。ただ、その中でも共通項として見えてくるのは以下あたりでしょうか。

  • 価値提供を最大化するための「姿勢」のことを指している

  • ユーザーの意見をすごく聞く派と聞かない派に分かれる

  • 多くの人は無自覚的にこの言葉を使っている

ということで、わかったことは「ユーザーファースト」という言葉はその企業が置かれている文脈によって、大きく意味が変わりやすい言葉であるというところでしょうか。どの言葉にも文脈次第な部分は多いですが、特にその性質が強い言葉なのかと思います。そのため、僕が考える際には以下のような文脈の会社にとっての「ユーザーファースト」ということにします。

  • サービスをリリースして間もない

  • 会社を創業して間もない

  • リソースが非常に少ない

スタートアップにおける真のユーザーファースト

僕が一年間「SCOUTER」を運営して理解したユーザーファーストの定義は以下です。

「"今"価値を提供できるユーザーに、"今"価値を提供し切ることに集中すること」

この定義には三つの意味が含まれています。

  1. 提供できるそもそもの価値自体がすぐに向上することはない

  2. 価値は提供し切らないと提供したことにはならない

  3. 価値を提供する先は既存ユーザーしかいない

提供できるそもそもの価値自体がすぐに向上することはない

まず、サービスを提供するということは何らかの"価値"をユーザーに提供することになります。そしてこの提供価値自体に価値がないサービスなんてほとんどありません。人間が認知できる価値というのはそんなに数が多いわけではないですし、少なくとも創業者がその価値を感じ取ることができるのであれば、世の中にそれを価値と感じる人間は他にもいるはずです。そしてそれと同時に、提供価値自体を急激に向上させることなんてスタートアップにとってほぼ不可能です。最初に想像した提供価値を超える価値が提供できるのはサービスが成長仕切ったその後だと思います。よって、提供価値というのはサービスにとって常に一定で、それ自体が増減することは少ないということになります。

価値は提供し切らないと提供したことにはならない

では、その提供価値の高さは何によって決まるかというと、価値の何%をユーザーに感じ取ってもらったかという"伝達"の部分だと思います。提供価値自体は提供する相手さえ間違わなければ、本来価値が高いものです。ただ、それがどれだけ伝わっているかによって受け取る価値は変わってきます。

価値を提供する先は既存ユーザーしかいない

そして、最後に当たり前のことですが、価値を提供できる先はユーザーになってくれた方々しかいません。それ以外の人に価値を提供することはそもそも無理であり、既存ユーザー以外に関心を向けることに何の意味もありません。

既存ユーザーに正しく価値を伝えられるかどうかがスタートアップの成否をわける

スタートアップには勢いがあります。そのため、色んなことをやりたくなったり、新しいことにチャレンジしたくなる衝動に駆られます。新しいユーザーになりうる人はどんな人がいるのか、新しい機能をどうしようか、新しいビジネスモデルはどうしようか等。しかし、それと同時にスタートアップにはリソースがありません。スタートアップには時間がなく、勝負できる回数が少なく、そのため焦点を絞らなければいけない。そうなった時に何に焦点を絞るべきかというと、「価値を伝え切ること」だと学びました。それはサービスを最後まで使い切ってもらい、提供したい体験を丸ごと受け取ってもらうということです。スタートアップはここに焦点を絞る以外、勝ち目はありません。マーケティング予算は小さいし、そもそもの認知度も高くない。信頼も低い。その中で何で勝てるのか言えば、それは最後まで使ってくれるプロダクトになっているということ一点です。ユーザーは少なくても、最後まで使ってもらい、与えたい価値が与え切れているプロダクトなのであれば、それは勝てるプロダクトになります。もう少しビジネス的な表現に還元すると、それは「離脱」をいかに減らし、アクティブなユーザーを正しく積み上げることができるかということです。新規でユーザーが増えていても、それと同じだけ離脱が起きているのであれば、それは価値を受け取ってもらうことができていないプロダクトであり、ビジネス的にも成長する状況になっていないということです。だからこそスタートアップは「ユーザーファースト」でなければならない。"今"価値を提供できるユーザーに、"今"価値を提供し切ることに集中しなければいけないのです。

「ユーザーファースト」を実践するための6つの原則

では、具体的に「ユーザーファースト」を実践するには何をすればいいのか。僕たちが実際に1年間「SCOUTER」を運営して学んだことが6つあります。

1.サービスはとりあえず出す

ユーザーにとってはサービスが存在しないと、価値の受け取り方がありません。ビジネスモデルが決まったらどんな状況でもいいです。最低限の機能を備えたプロダクトをできる限り早くリリースするべきです。提供価値がそれなりのものであれば、最初のユーザーは必ず集まります。そして、実際に使ってもらわないと、どこでユーザーが止まるのか、離脱ポイントがわからないのです。我々も最初に想定していた離脱ポイントと実際の離脱ポイントは異なっていました。いくら頭の良い人でもこれだけは出してみないとわからない。最も早く正しい改善を行うためには、まずサービスを出すことが重要です。

2.数字をいつでも見れる状態にしておく

サービスをリリースする前に時間をかけて考えるべきことは一つだと思います。それはサービスのKPIを全て洗い出し、それを構造化した上で、最初から全て自動的に集計できるように設計すること。ユーザーがどこで離脱するかは、数字からしかわかりません。それを見ずに思い込みで改善を繰り返しても何の意味もないのです。作り手としてはすごく気にしていることが、ユーザーからしたら気にならないところだったということは良くあること。ユーザーの意思は数字から読み取るべきであり、その数字をできるだけ最小の労力で集計できるよう設計しておくべきです。サービスリリース時には後回しにしがちですが、実は最も丁寧にやっておくべきだったなと思います。

3.新規獲得よりも離脱の改善

最初のころは新規ユーザーの獲得に目を向けがちです。やっぱり新規ユーザーが増えると嬉しいので。ただ、それよりも圧倒的に離脱が起きていないか、起きているのであればどこで起きて、それはなぜで、どう改善したらいいのかを考えるほうが重要です。サービスの成長はアクティブユーザーの積み重ねであり、アクティブユーザーの増加に最も大きな影響を与えるのは離脱率です。ここに関しては以下の記事がとても参考になります。僕たちももっと早くこの事実に気づいておくべきでした。

note.mu

4.新規機能よりも既存オペレーションの改善

新規機能を作れば劇的に何かが変わる。そんな期待をもとに作り込んだ機能が何の数値改善にも繋がらなかった。ということはよくあります。そんなことをしている間に既存のユーザーの不満は募ります。ユーザーからすれば今の使い勝手に不満を持っているのであり、存在しない機能に対して不満や大きな期待をすることはありません。まずは今のオペレーションをどれだけ改善できるかに注力するべきです。そして特にオペレーションが多いサービスにとってadmin機能の充実化は非常に重要です。僕らも最初はすごく後回しになっていました。自分たちが何とか頑張ればできることや、システムを作らなくてもできることは後回しになり、人力で多大な時間をかけてオペレーションを回していました。しかし、よくよく考えるとこれはユーザーを待たせていたことを意味します。生産性が低く、ユーザーを待たせてしまうのであれば、まずはadmin機能から作り込むべきです。そして今のオペレーションがスムーズかつ効率的にできるようになったら、新しいことに着手すべきです。また、既存オペレーションを改善することは、結局生産性を上げ、新しいことに着手する時間も最終的に増えるので、ユーザーファースト的には非常に重要です。

5.上流よりも下流の改善から

サービスのどの部分から改善していくか。これは「ユーザーファースト」の定義に立ち返れば自ずと見えてきます。「ユーザーファースト」の狙いは価値を伝え切る確率を高めること。価値を伝え切れるユーザーを増やすことです。つまり、伝え切らないと何の意味もないので、最終コンバージョンに近い部分から改善していくべきです。いくら上流を改善しても、最終的なコンバージョンが低いのであれば、何の意味もありません。確かに最初はユーザー数が少ないため下流に行く人は少なく、あまり数値改善のインパクトが大きくならない可能性はあります。しかし、下流の数字を早期に改善することは、価値を受け取り切るユーザーを増やすことであり、最も重要な部分なのです。この重要性はグロースハックの「ARRRA」モデルに詳しく記載されております。

growiz.us

6.初回のユーザー接触に命をかける

唯一、下流の改善よりも重要な改善があるとしたら、それはユーザーとの「最初」の接触タイミングです。サービスを最初に使い始める時、運営がユーザーと最初にコミュニケーションをとる時。ここだけは例外として一番最初に徹底的に改善して、こだわったほうが良い部分です。なぜならば、人間は「第一印象」で対象物の大半を判断するので、第一印象が悪いともはやどうにもならないからです。もしかしたら、頑張って最後までサービスを使ってくれるユーザーも第一印象が悪いだけで利用を止めてしまう可能性もあります。特に運営とのコミュニケーションが発生するタイプのサービスは、ここのコミュニケーションは死ぬほど重要です。どういう対応をされるかで、多少完成度が低くても使ってみようと思ってもらえるか、少しでもダメな部分があったら止めてしまうかその分岐になるのです。そのため、SCOUTERではCSを非常に重要視して、コミュニケーションにはとにかく丁寧かつ最速で行っております。今の時代だからこそ、人間の温かみはサービスを使い続けてもらえる理由になります。

スタートアップこそ「ユーザーファースト」であるべき

「ユーザーファースト」とはリソースが少ないスタートアップが巨人に勝つための「レバレッジ」なのです。特にtoC向けサービスにおいて個人に与えることができる「価値」そのものに大きな差分は出ないでしょう。どれだけリソースがあっても「価値」そのものを増幅させることは非常に難しいのです。その中で、重要なのはとにかく忙しい現代人に、いかに短時間で確実に価値を提供し切り、体験してもらうかです。巨人は多くの人員でプロダクトを一気に作りきります。そして巨額のマーケティングコストで一気にユーザーを獲得します。しかし、だからと言って全ての人に価値を提供し切ることはできません。むしろ対象者が多ければ多いほど伝達率は低くなるでしょう。だからこそ、伝達率にスタートアップの勝機があるのです。価値の伝達率が高いプロダクトを完成させることができれば、それは支持されるプロダクトになり、アクティブなユーザーが確実に積み重なり、最後は勝つことができるのです。

SCOUTERでは真のユーザーファーストを実現できる人材を積極的に募集しております

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2016年スタートアップCOOが参考にした珠玉の7冊

2016年を振り返って

早いことにもう年末になってしまいました。今年は僕にとって大きな変化がある一年で本当にあっという間でした。振り返ると1月から

  • VCから調達を受ける

  • SCOUTERのローンチ

  • 会社名の変更

  • オフィスの移転

  • ピッチで決勝に

  • メンバーが4人から約20人に

と、とてつもないスピードで次から次へと物事が変化し、これまで三年「経営」というものをやってきましたが、これがスタートアップなんだなと実感した一年でした。 この気が狂ってしまうようなスピードに文句一つ言わずついてきてくれ、株式会社SCOUTERのビジョンを形にしてくれているメンバーには感謝しかありません。

また、この一年で感じたことは、常に自分がこのスピードについていくためには、並大抵の努力では足りないなということです。慢心した時点で死ぬ。そう気付くことができたことはこの一年、少し成長できたことかなと思います。

年末年始と読書

僕は年末年始が大好きなんですが、理由としては貪るように読書に集中できるからです。基本的に年末年始は読書をするか寝るかの生活を送っております。僕は読書が基本的に好きなので、読書という行為それ自体が目的になることもあるのですが、やはり読書は自分の成長を加速させてくれる最も有効な手段だとも思っております。読書を通して引き出しを増やしているイメージですかね。すぐに役に立つことは滅多にありませんが、様々な課題に直面した時に考える視点や、解決策のヒントを自分の頭の中のストックから探し出すことができるのは、一重に読書のおかげだなと思っております。スタートアップは課題の連続なので、それに立ち向かうだけの何か武器が必要で、僕にとってそれが読書だったのかもしれません。そこで、2016年急激な成長を迎えたスタートアップをなんとか経営することができた我々に大きなヒントを与えてくれた本を7冊、最後にご紹介できたらと思います。特になんでもやらなければいけないCOO、No.2のような方に参考になるものをピックアップいたしました。

スタートアップCOOに役立つ7冊

戦略論

『ストーリーとしての競争戦略』

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まずは、戦略論からこの一冊。戦略論って非常にアカデミックな本が多く、もちろん参考になる部分はあるんですが、実務に落とし込むのってすごく難しいですよね。特にスタートアップだと、リソースもなければ、そもそも市場がないような世界で戦っているので、前提条件が違うことが多々。それに比べて、この本はとにかく実務にそのまま応用できる内容です。弊社の戦略もここで紹介されている「戦略ストーリー」で描いています。メンバーにとってもわかりやすいですし、日々のオペレーションまでイメージすることができる戦略を描くことができる。そして、一つ一つの選択や戦術の因果関係を明示することができるので、なぜやるのかに対して明確に答えを提示することができます。スタートアップにとっての柔軟で、にも関わらず強固で、他者から真似されない戦略を描くなら、僕はこの「戦略ストーリー」をお勧めします。

マーケティング

『ポジショニング戦略』

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正直、マーケティングについては僕はよくわかっていません。領域が深すぎて、専門家じゃないと正しい判断ができないことが多すぎると感じてますし、そもそもマーケティングという言葉の定義が広すぎてあまり好きな言葉ではありません。ただ、その中でもこの本は読んでおいて良かったと思える一冊です。この本は「ポジショニング」のことに焦点を当てていますが、経営者が理解すべきはまさにこのポジショニングなのだと理解しました。僕にとって様々な戦術に興味はないのですが、根本にある戦略はマーケティングにおいて「ポジショニング」であるということです。ちなみにポジショニングという言葉は上記の『ストーリーとしての競争戦略』でも出てくるワードであり、マーケティングという領域を超えて、経営戦略・事業戦略の中心となる概念です。それを最もわかりやすく、重要性を説き、原理原則を唱えている本書は経営者にとっては重要な一冊だと思います。

採用

『ウォー・フォー・タレント』

amzn.to

スタートアップ経営者にとって最も重要な仕事は採用であることはもはや疑いようがありません。それをこの一年間実感し続け、誰を採用するかで会社の未来が変わるんだと思いながら採用を続けています。スタートアップの初期はとにかく身の回りの人から採用していくしかありません。「リファラル採用」ってやつです。もちろんリファラル採用には無限の可能性があり、これが上手くできるかできないかで、企業の基本戦闘力が変わっていくというの自明のことです。ただし、リファラル採用だけで採用が完結できなくなってくるタイミングが来ます。その時に、どう戦略的に採用を行っていくのか。その基本戦略をこの本は教えてくれます。これまでの採用とこれからの採用の差分を明確に提示し、Employee Value Proposition(従業員のための価値提案)という新しい概念を作り出した本書はこれからのスタートアップ経営者にとっては必読の一冊ではないでしょうか。

CS

『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』

amzn.to

この投稿に「CS」というカテゴリーがあることに不思議な人もいるかもしれません。ただ、僕はこれからのwebサービスにおいて、このCSが本当に重要な役目を担うと思っており、競争力の源泉になると思っております。この考え方のベースにはこの『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』があります。ザッポスこそ世界で最もCSが優れていると言われている企業であり、ザッポスが作られていく過程が描かれている本書は非常にエキサイティングで参考になります。ザッポスがなぜ、CSにこれほどのリソースを割くのか。なぜCSが競争力の源泉になるのか。その理由はこの本を読めばわかると思います。

組織論

『チームが機能するとはどういうことか』

amzn.to

組織が大きくなってくることによって生まれる最大の課題。それは「チームとしてパフォーマンスをどう最大化させるか」。我々日本人は残念なことにチームとして働くことを何一つ学んでいません。つまり現在進行形で意識的に学ばない限り、この課題を解消させることはできない。これまでの知識だけで、ただコミュニケーションを増やせば解消できる課題ではない。これが、チームに関する僕の前提です。だからこそ、僕はこの本が大好きです。ここまでチームに焦点を当てて様々な解決策を提示している本はなかなかありません。特に「心理的安全と責任」という二次元マトリクスは本当にハッとさせられる図です。自分たちの組織は今どんな症状を抱えているのか、それに意識的に気づき対処しなければ、人が増えても問題は解決しない。スタートアップだからこそ、学ばなければいけない内容です。

HOLACRACY

amzn.to

2016年、僕が一番衝撃を受けた一冊です。ここまで考え抜かれた実践的な組織論はありません。「HOLACRACY」自体を説明してしまうと非常に長くなってしまうので今回は省略しますが、企業が徐々に大きな成長していくと、「組織」になれねばならなず、これがスタートアップからすると非常に難しい。創業者からすれば、その必要性の理解に苦しみ、メンバーとの間でギャップが生じたり、またそれと同時にメンバーのストレスフルな環境になっていく。「組織」というものは決して自由な存在でいることはできず、いかにその枠組みを作るかということに創業者は多大な時間と労力をかけなければなりません。それに対して「HOLACRACY」というフレームワークは、多くの組織で模倣可能な枠組みを作ったという意味でまさに発明であり、スタートアップにとって大きな意味を持つと思っています。なぜならば、創業者にとって本当にやりたいことは組織作りではなく、プロダクト作りであり、このフレームワークを適用することで、組織作りのコストを最小化することができるからです。プロダクトを作ることに集中しても組織が正しく作られる。この理想的な状況を生み出すことを可能にした「HOLACRACY」。弊社ではまだ導入には至っていませんが、どこかのタイミングで導入されるかなと思っております。

仕事術

『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』

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2016年。僕個人に最も大きな影響を与えた本はこの本だと思います。仕事のやり方が全く持って変わりました。タスク管理は紙メインになり、ファイルと紙とペンが必需品に。仕事の中で思考に使える時間が増え、アウトプットの生産性は大きく改善されました。ただ、この本に書いていあることをそのままやることは本当に難しい。習慣になるには相当な時間が必要で、この数年で習慣にできるかどうかは、僕の仕事人生の大きな分かれ目になると思っているくらいです。何か目の前の仕事に集中できない、次に何をやればいいか最善の選択ができていないように思う。そんなストレスを抱えている方にはぜひ読んで、実践してもらいたいです。

まとめ

こうやって振り返ると、自分がこの一年間、何に課題感を持っていて、どう解決しようとしていたのか、本を通してよくわかります。本という先人の知恵は僕にとって理想の世界へ連れて行ってくれる乗り物であり、現実の課題を解決するためのヒントを与えてくれる武器でもあります。そしてたくさんの本を読みますが、やはり思うのはただ読めばいいってわけではないということ。読んでも参考にならない本もありましたし、参考になっても実践できなければ何の意味もないことだって多々あります。その中で、やはり自分自身に大きな影響を与える本はそんなに多いわけではなく、そういう大切な本に出会えたら何回も読み自分のものにすることが非常に重要だと感じております。今回紹介した7冊は既に名著と呼ばれているものばかりであり、これからもずっと読まれ続ける本になるかと思います。皆さんも年末年始は読書で、夢の世界を楽しんでください。そして来年もSCOUTERを何卒よろしくお願い申し上げます。それでは、良いお年を。